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空港に着いたあたしたちは、先生たちが出国の手続きをするのを待っていた。


「なまえ、大丈夫か?」

『うん?何が?』

「昨日散々泣いてただろ?」

『大丈夫だよ。お見送りは笑顔でするんだって決めてたから』


今日は工藤家を出てから今まで、ずっと新一があたしの手を握っていてくれている。
昨日は結局泣き疲れて眠ってしまうまで、先生の胸を借りて泣いてしまったのだ。
今日まで泣いちゃうわけにはいかないじゃない。


『ねぇ、新一』

「ん?」

『先生たちにお別れのキスするのくらいは許してくれる?』

「しゃーねぇな。次に会えんのは春休みだし」

『ありがとう』


あたしの鞄の中には先生たちへの手紙が入ったままになっている。
先生たちとお別れする直前に渡そうと思ってたから、まだ渡してないのだ。
昨日渡して読まれちゃうのも恥ずかしかったし。


「もう、新ちゃんたら、まだなまえちゃんの手握ってたの?」

「こんくれぇ別にいいだろ?昨日までずっと母さんたちになまえ貸してたんだから」

「それはあたしじゃなくて優作に言ってよね。昨日だって自分だけなまえちゃんからの別れの挨拶聞いちゃってたんだからっ!!」

『すみません…有希子さんにもきちんとご挨拶するつもりだったのに…』

「あっ!違うのよ?別になまえちゃんを責めてるわけじゃないの!誤解しないでね?」

『はい。ありがとうございます。あの…これ。有希子さんに手紙書いて来たんです。また後で読んで下さい』

「なまえちゃん、ありがとうっ!」


こんな風に有希子さんにむぎゅーっとされるのも、今日で最後、か。
次に会えるのが春休みだなんて、気が遠くなるくらいに先の話だ。


『有希子さん、いつも愛情いっぱいにあたしを愛してくれてありがとうございました。あたしにとって有希子さんは最高のお母さんです』


有希子さんの抱き締める力が緩まった所で、それだけ言ってお別れのキスをした。


「なまえちゃんっ!!絶対春休みには遊びに来てね?新ちゃんなんか日本に置いて来ても構わないから!」

「おい、母さん。何言ってんだよ。なまえが行くなら俺も行くに決まってんだろ?」

「ほら、新ちゃんはあたしたちに会いに来るんじゃなくて、なまえちゃんと離れたくないから来るんでしょ?」


有希子さんがあたしをむぎゅーっと抱き締めたまま、新一と母子喧嘩を始めてしまった。
この状態でこのセリフを言うのは自殺行為だと知ってはいるんだけど…


『あたしは早く有希子さんたちに会いたいので、今から春休みが待ち遠しいです』

「もうっ!なまえちゃんたら可愛いこと言ってくれるんだからっ!!」


や、やっぱり締め殺されそう…


「有希子、なまえ君が苦しがってるから離してあげなさい」

「えー?優ちゃんは昨日散々なまえちゃんのこと抱き締めてたんでしょ?今日はあたしがなまえちゃんと一緒に居たいのにー」


い、いつもなら先生の一言で離してくれるのに、今日は離してもらえない!?
誰か、ヘルプ!!
そろそろ息が…っ!!


「母さん!いい加減にしろよ!なまえが苦しがってんだろーがっ!!少しは手加減しろって!!!」

『げほっ…ごほっ…』


た、助かった…。
まさか新一が助けてくれるとは。
有希子さんは新一に無理矢理あたしを奪還されて不貞腐れてるけど。
今を逃すと絶対先生に手紙を渡すチャンスないな。


『先生。先生にお手紙書いて来たので、良かったらまた後で読んで下さい』

「ありがとう。機内で早速読ませてもらうよ」

『また、春休みに遊びに行きます。昨日も言いましたが先生はあたしの自慢のお父さんで、あたしは先生のことが大好きです。向こうでもお仕事頑張って下さいね』


背伸びして先生にキスをすると先生は直ぐにあたしを抱き締めてキスを返してくれた。


「春休みと言わず、いつでも遊びにおいで。もちろん、その時は息子のことなんか日本に捨てて来てくれて構わないからね」

「父さんまでそんなこと言うのかよ!?」

「お前はなまえ君みたいに私たちを恋しがることはないだろうから、別に構わないだろ?」

「そうよねぇ。新ちゃんは元々自分一人でも日本に残るんだって即答したくらいだし…なまえちゃん、今からでも遅くないわよ?一緒にアメリカ行かない?」

『え?』


先生の腕の中から、また有希子さんに抱き寄せられると、まさかのお誘いを受けた。
いや、さすがに今からじゃ遅いでしょう。
さっき出国の手続きしたところなんじゃないんですか?


「そうだな。やっぱり新一になまえ君を任せるのは心配だし、なまえ君も連れて行くか」

「そうしましょうよ!」

「父さんも母さんもいい加減にしろよな!なまえは俺と日本に残るんだよっ!!くだらねぇこと言ってねぇで、さっさと飛行機乗りに行けって!!」


先生たちのお遊びな言葉(だと思う。たぶん)に痺れを切らした新一が、有希子さんから無理矢理あたしを奪い返した。
あたし、さっきから何で工藤家で回されてるんだろう?


「じゃあ、最後にもう一回お別れのキスしましょ?ね?」

『有希子さん、お元気で。向こうに着いたら連絡下さいね』


有希子さんに誘われたから、新一の腕を抜け出して有希子さんに抱きついてまた頬にキスをした。


「なまえちゃんも元気でね。新ちゃんと仲良くしてね…って言いたいところだけど、新ちゃんに泣かされたらいつでも連絡して頂戴。直ぐに迎えに来るから!」

「そこは普通に仲良くねで終わってていいだろーがっ!!」


有希子さんもあたしにキスを返してくれたけど、新一は最後の余計な一言にご機嫌ナナメなご様子だ。


「なまえ君、前に私が言った言葉を覚えているかい?日本に残ってダメなようなら、いつでも私たちのところに来たらいいんだからね」

『はい』

「父さんも要らねぇこと言ってねぇでさっさとアメリカ行けよっ!なまえ!オメーも何返事してんだよっ!!」


あたしの頬にキスをくれた先生に抱き締めてもらいながらアメリカ行きのお誘いを受けた時の言葉をもらったから、キスを返して返事したんだけど、新一の不機嫌度数が上がっただけだった。


「なまえちゃん、新ちゃんのことよろしくね?」

「…普通逆じゃねぇのか?それ」

「だーって、新ちゃんは家事なんか出来ないんだから、なまえちゃんがいなきゃまともな生活出来るわけないじゃない」

「そういうことだ。なまえ君、うちの息子のことを頼んだよ」

『はい!』


なんか釈然としてない新一を放置して、あたしは先生と有希子さんに頭を撫でてもらっていた。


「さて、そろそろ飛行機に向かわないとな」

「そうね。二人とも元気でね!」


有希子さんが手を振ってくれたから、あたしは二人の姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


「ったく、やっと行きやがった。なまえ、俺らも…なまえ?」

『新一、あたしちゃんと笑顔でお見送り出来たよね?』

「あぁ。さっきまでちゃんといつものオメーだったよ。よく頑張ったな」


先生たちが見えなくなるまでが限界だったあたしの頬は既に涙で濡れていた。
新一に抱き締めてもらったら、ここが空港だってことも忘れて泣きじゃくってしまった。


「なまえ、大丈夫か?」

『うん…ありがと』


先生たちの飛行機が飛び立つまで見たいと言ったあたしに、新一は嫌な顔もせずに付き合ってくれた。

もう、工藤家に戻っても、いつもみたいに有希子さんは抱きついて出迎えてはくれない。
先生もいない。
今日からあたしと新一の二人きりだ。


『ねぇ、新一。ご飯何食べたい?』

「んー…そうだなぁ、」


だから、今日からは新一の帰りをあたしが出迎えるから。
新一が笑っていられるように、あたしが頑張るから。


「とりあえず、飯の前になまえ充電してぇ、かな」

『昨日もしたのに?』

「バーロー。あんなんで足りっかよ!オメー、この一週間ちょっとずーっと父さんにべったりだっただろーがっ!!!」

『これからはずっと新一と一緒なんだから許してよ。とりあえず、帰ったら新一の部屋行こっか』

「おう」


だから、この繋いだ手を離さないで。
ずっと傍に居て下さい。




中1編end.


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