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新一のお父さんから話を聞いた後、誰から言い出したって訳でもなく、一番近い私の家にみんなで帰った。


「ひっく…」
「河野さん、大丈夫?」
「蘭ちゃん、ありがとう…」


河野さんはなまえが泣き出したのを見てから、もらい泣きしてしまったみたい。
キモチは分かる、けど…。


「あたしね、今日みたいななまえちゃん初めて見たんだ」
「…」
「…」
「あんな風に怖がってるなまえちゃんも見たことなかったし、」


あたしもあんななまえは初めて見た。
新一くんのおじ様がアメリカって言った途端にガチガチに固まって、次の発言を怖がってたなまえ。
あたしはなまえの手を握ることしか出来なかった。
いつもなら、そんなことしたら「大丈夫だよ」って平気そうにあたしが安心するように笑いかけてくれるでしょうに、なまえはあたしを見る余裕さえなかった。

新一くんと付き合い出して、日本に残るって言うから、それだけであたしはもうこの話は解決したんだと思ってた。
なまえが信頼してるおじ様たちと離れるキモチまで考えてあげれてなかった。
そんな自分が情けないわ。


「あんな風にボロボロ泣いちゃうなまえちゃんも見たことなかったんだ。なまえちゃんはいつもあたしが泣いてると慰めてくれてたのに、あたしはなまえちゃんの涙さえ見たことなかっ、た…」


私もだよ、河野さん。
お父さんとお母さんがまたケンカしちゃって、まだお母さん帰って来てくれないんだと思ったら涙が止まらなくて、話だけでも聞いて欲しくてなまえに電話したら、夜も遅かったのに、なまえは電話しながら私の家まで走って来てくれたのに。
「電話じゃ抱き締めてあげられないでしょ?」ってどれだけ急いで来てくれたのか分かるくらい、息を乱しながらあたしを抱き締めてくれて、「あたしの前では我慢しなくていいから、泣きたいだけ泣いたらいいよ」って好きなだけ泣かせてくれた。
今まで抱えてた、誰にも言えなかった不安なキモチを吐き出させてくれたの。
私が泣いてなまえに連絡した日は朝までだって話を聞いてくれたし、寝る時も一人じゃないんだって、あたしがいるよって手を握っててくれたのに…。

それが片道切符だったことに今日まで気付かなかったなんて。
「蘭の心の荷物、あたしも一緒に持つよ」そう言って笑ってくれたなまえの荷物は、なまえが一人で背負い込んでたことに気付かなかったなんて…。
私がなまえの友だち失格じゃない。


「前にあたしが学校で泣いちゃった時ね、泣いちゃってごめんねって言ったら、なまえちゃん笑ってこう言ってくれたの」


『明日香が謝る必要なんてないわよ。あたし、明日香が泣いてくれて嬉しかったもの。それだけあたしを信頼して、心を許してくれてるってことでしょう?あたしで良ければいつでも明日香の泣き場所になるわよ』


それなのに、あたしはなまえちゃんの泣き場所にはなれなかったんだ!
工藤くんのお父さんに抱き締められた時、なまえちゃんは安心したようにそれまで緊張させてた体から力が抜けてた。
あれを見ただけで分かるよ。
あそこがなまえちゃんの泣き場所なんだってこと。
あたしがなまえちゃんと離れたくないってあたしのことばっか考えてたせいで、なまえちゃんのその大切な場所を奪っちゃったんだ!
あたしの子どもっぽいワガママのせいでっ!!


「なまえ、みんなに同じこと言ってたんだね。私もそれ言われたことあるよ」
「あたしもあるわ。“何時だって、何処に居たって園子のとこに飛んで行くから、だから泣きたい時は一人で泣かずに連絡して”って。ホントに電話したら走って来てくれるんだもん…あたし…」


初めて電話した時なんて、ホントにくだらないことでちょっと泣いちゃったってだけだったのに。
それでも、なまえは大丈夫!?って走って来てくれた。
ビックリしてそれだけで涙なんか止まっちゃったわよ。
何時だと思ってんのよ?って止まった涙を拭いながら言ったら、あんた「友だちの緊急事態に時間なんか関係あるわけないじゃない」って笑って返してあたしを抱き締めてくれたのよね。
だから、あたしも思ってたのよ?
こんな風に友だちを全力で守れるような存在になりたいって。
それなのに、あんたは涙を見せるどころか、あたしに頼ってすらくれなかったじゃないっ!


「ねぇ、蘭ちゃん、園子ちゃん」
「何?」
「これからはあたしでもなまえちゃんの力になれるのかな?」
「え?」
「工藤くんのお父さんが言ってたでしょ?あたしたちが傍にいてくれないかって」
「うん…」
「そう、ね」
「あたし、今までなまえちゃんの力になれなかったかもしれないけど、これからはなまえちゃんの力になれるかな?」


あたしに何が出来るのか何て分かんない。

でも、工藤くんのお父さんが言ってたもん。
なまえちゃんは寂しがり屋の泣き虫だって。
今までそんな風に思ったこともなかったからビックリしたけど、今日のなまえちゃんを見たらホントはそうなんだって思ったんだ。

なまえちゃんはいつも笑ってて強いなぁって思ってたけど、普通の女のコなんだって。
大切な人が自分の傍から居なくなることに怯えて、抱き締めてもらったら安心して泣いちゃう、当たり前の女のコなんだって。

あたしもそのキモチは分かるんだ。
だって、あたしにとってはなまえちゃんがそうだったから。
だから、これからは工藤くんのお父さんの代わりに少しでもなまえちゃんの力になりたいんだよ。


「そう、だよね。きっと力になれるよ。私も河野さんも。今度は私たちでなまえの不安取り除いてあげようよ」


そうだよ。私が泣いてる場合じゃないじゃない。

今まで、私のことを支えてくれてたなまえの力に…きっとこれからだって私を支えてくれるなまえの力に、今度は私もなりたい。

新一のお父さんみたいにはいかなくても、傍に居ることは出来るんだから。
なまえが寂しい時に一緒に居てあげることも、不安な時に話を聞いてあげることだって。
私は私に出来ることで、なまえの力になればいいんだ。

なまえ、今度は私が全力でなまえの力になるから!


「そう、よね。あたしたちだってなまえの力になれるわよね。なまえって、実は寂しがり屋なんだって分かったし、今度は新一くんのおじ様の代わりにあたしたちがなまえの傍に居てあげましょうよ」


涙を拭って、これからを見た河野さんと蘭を見て、あたしも泣くのを辞めた。

一人暮らしをしてるなまえが新一くんの家に遊びに行くのを楽しみにしてた理由は、おじ様たちに会えるって理由の他に、誰かと一緒に居たいって言うのもあったんじゃない?

一緒に居て安心出来る人、っていう括りならあたしたちだって入ってるはずじゃない。
なまえはあたしたちと出かける約束をした時だって、嬉しそうに笑ってたんだもの。
あんたが喜んでくれるんだったら、笑ってくれるんだったら、いつだって一緒に居るわよ。

それでおじ様たちが居なくなった寂しさが紛れるんだったら…あたしもなまえの力になれるんだったら…


「ねぇ、お昼ご飯なんだけどさ。これからは4人で食べるっていうのはどう?」
「いいね!それ!どうかな?河野さん」
「もちろん、いいよ!後さ、」


あたしたちはなまえの為に自分たちに何が出来るのかって、それからしばらく話し合った。

ねぇ、なまえ。あんたは一人じゃないっていうこと、忘れないでよね?

新一くんも、なまえの為にならいくらでも頑張ってくれるでしょうけど、おじ様の言う通り、新一くん一人じゃ、きっとあんたは手に負えないでしょうから、そんな時はあたしたちのこと頼ってよ。

新一くんと付き合い出してからも、あたしたちのこと大事にしてくれてるあんたなら分かるでしょう?
あたしたちは友情って絆で結ばれてるんだから、新一くんの時みたいに怖がって自分から離れていくようなマネしたら許さないわよ?
まぁ、そんな時はあたしたちからあんたの手を掴んであげるから安心してなさいよ。



今まで、あたしたちに手を差しのべてくれてたあんただから、今度は新一くんのおじ様の代わりにあたしたちがあんたに手を差しのべるわ。
だから、遠慮しないで、しっかりあたしたちの手を握ってよね?


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