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『先生。あたしは、先生たちがアメリカへ行っても先生の娘でいられますか?』


やっと涙が落ち着いた頃、自分でも無意識の内にそんなことを聞いてしまっていた。
先生の答えなんて分かってる。
きっと、いつもの安心出来る笑顔で答えてくれるんだ。


「当然じゃないか。離れていても、いつもなまえ君の幸せを願っているよ。それに、アメリカへ行ったくらいで、私のキモチが変わるわけがないだろう?毎日メールもするし、時差があるからなかなか難しいだろうが、電話もするから声だって聞けるさ。今はライブチャットも出来るからね、私の姿を見ることだって出来るよ」

『あたしが持ってるノートパソコン、カメラついてないので、カメラ買いますね』

「あら、なまえちゃんのパソコン用のカメラなら、もう買ってあるわよ?」

『え?』


今まですっかり忘れてたんだけど、そういえば有希子さんも居たんだった。
でも、あたしのパソコン用のカメラなんて、いつの間に準備したんだろう?


「少しは落ち着いたかしら?」

『はい…。取り乱してしまってすみません…』

「優ちゃんは幸せ者ね。中学生の娘がこんなにお父さんが大好きなんて、そうそうないわよ?本当なら、新ちゃんみたいに反抗期な年頃だもの」

『先生みたいな素敵なお父さんなら、永遠に反抗期なんて来ないですよ。先生も有希子さんも、いつもあたしなんかに愛情をいっぱい注いでくれるんですから、あたしだって二人のことが大好きに決まってるじゃないですか』

「あたしのこと、忘れてたわけじゃなかったのね!」


さっきから優ちゃんばっかりで悔しかったの!って有希子さんはむぎゅーっとあたしを抱き締めてくれた。
この抱きつきも最初は戸惑っていたのを覚えてる。
だって、あたしはこういうのに慣れてなかったから。
それが今じゃ、これをされるのが嬉しくて、安心出来る場所に変わってしまった。


『アメリカに行かれても、大好きな有希子さんのことを忘れるなんて出来ませんよ』


そう笑って、あたしは有希子さんの頬に今までの感謝を込めたキスをした。


「もうっ!なまえちゃんったらホントに可愛いんだからっ!あたしもなまえちゃんのこと大好きよっ!!」


ら、有希子さんの抱き締める力が強くなってしまった…。
く、苦しい…。


「有希子、なまえ君が苦しがってるから離してあげなさい」

「あら、あたしったらまた…。ごめんなさいね?嬉しすぎてつい力が入っちゃったわ」

『ごほっ、大丈夫ですよ』


ちょっと息が出来なくて苦しかっただけですから。


「それに有希子ばかりズルいじゃないか」


そう言って、少し手を広げてあたしを誘った先生に、あたしは喜んで抱きついた。


『あたしは先生のことがホントに大好きですよ』


泣き出してから、何度心の中で呟いたか分からない台詞を、今度は笑顔で口に出して、先生にも感謝のキスを頬にした。


「私もなまえ君のことが大好きだよ。なまえ君みたいな娘がいるなんて、私は本当に幸せ者だ」


そんな台詞を口にして、先生もあたしの頬にキスを返してくれた。
もうそれだけで幸せだったから、しばらくこのまま先生に抱きついていようと思ってたんだけど、


「父さんっ!いい加減にしろよ!?さっさとなまえから離れやがれっ!!」


残念ながら邪魔が入ってしまったせいで、あたしはあっさりと先生から引き剥がされると新一の腕の中に収まった。
…なんか、デジャビュを感じるんだけど、気のせいか?


「少しくらいいいじゃないか。もうすぐ離ればなれになってしまう愛娘を抱き締めて何が悪い」

「開き直ってんじゃねーよっ!このエロ親父!!抱き締めるだけならまだ許すけど、さっきはキスまでしてただろうがっ!!!」

「そんなに怒るな。あれはお返しのキスだ」


新一が目を見開いて驚いて、さっきまで見向きもしなかったあたしを見てホントか?って確認したから頷いて事情を説明した。


『うん。さっき有希子さんにもしたんだけど、先生にも感謝のキスを頬にしたの』

「…。なまえ、ちょっと俺の部屋まで来い」

「新ちゃん、もうご飯の時間よ?」

「すぐ下りてくっから、待っててくれよ!」


新一に引っ張られるままに新一の部屋まで来たんだけど、新一は扉を閉めるとあたしを力いっぱい抱き締めた。


「なまえが父さんたちのこと好きなのは知ってっけど…父さんが自分もオメーのことが好きだっつってたってことは、オメーも父さんに好きだって言ったのかよ?」

『言ったよ?先生のことがホントに大好きですって言ってキスしたんだもの』


新一が何を確認したかったのか分かんなくて、事実をそのまま伝えたら、新一があたしを抱き締める力が強くなった。
さっきから一体どうしたって言うんだろう?
なんか、新一の様子が変なんだけど。


「……に」

『え?何?』

「俺にはそんなこと言ってくれねぇクセに、父さんには言ったのかよ!?」

『は?』


最初何て言ったのか聞き取れなかったから聞き返したんだけど、ちゃんと聞いても意味が分からなかった。
え?どういうこと?


『新一にも言ってるでしょ?たまに、だけど』

「あぁ。告白の時も含めて、俺が聞いた時はな。でも、オメーから言われたことは一度もねぇぜ?」

『そうだっけ?』


よくそんなことイチイチ覚えてるなぁ。
確かにあたしはそういうこと自分から滅多に言わないけど、新一にあたしのキモチは通じてると思ってたのに。


『あたしのキモチ、通じてなかった?』

「違ぇって!オメーのキモチを疑ってるとかそんなんじゃなくて…俺はなまえからそういう台詞を言われたことねぇのに、父さんに先越されたのが悔しかったんだよ…」


もう、そんなことで先生にヤキモチ妬かなくったっていいのに。
ホントに新一は可愛いんだから。


『ねぇ、新一。あたし、自分からこういう台詞あんまり言わないから、これから言うことかなり貴重だよ?』

「へ?」

『あたしが愛してるのは新一だけだよ。このネックレスだって、ずっと肌身離さずつけてるのは大好きな新一からもらったからだもの。あたしは先生と一緒にいることよりも、自分の恋心を選んだの。好きな人の傍に居たいって。だから、不安になる必要なんてないんだよ?』


そう言って、まだ現実感がないって感じで呆けてる新一の頬に両手を当てて、新一の唇に触れるだけのキスをした。


「…」

『これで満足した?』

「さっきの…ホントか?」

『全部ホントだよ。普段あんまりこういうことを言わないのは照れくさいっていうのもあるけど、言わなくても新一にはちゃんと伝わってると思ってたから。不安にさせてたんならごめんなさい』

「いや…その…オメーが謝ることじゃねぇよ。オメーが俺のこと想ってくれてんのは知ってる、けど、俺が言った後に確認しねぇと言われねぇってのが少し、ホントに少しだけ、淋しかったってだけ、だからよ」

『あんまり繰り返し言って嘘っぽくなっちゃうのがイヤなのよ』

「え?」

『好きだとか愛してるとか気安く何度も言われてるとね、キモチがなくなっても簡単に口にされそうでイヤなのよ。キモチがないのに、言葉だけ、なんてあたしが虚しくなるだけじゃない?』

「俺はっ!」

『知ってる。だから、これはそういう人もいるっていうだけの話よ』


反論しようとした新一の唇にあたしの人差し指を翳して、言葉を止めた。
新一がそういう人じゃないのは分かってるよ。
ただ、頻繁に言われてると、言われなくなった時に身勝手に寂しくなっちゃう自分がキライなだけ。


『ほら、先生たち待ってるからご飯に行こう?』

「待てよ。俺がまだ返事してねぇだろ?」

『え…?』


ドアを開けようと手を伸ばしたら、新一にその手を掴まれて、そのままグイって引っ張られたから、あたしはまた新一の腕の中に逆戻りした。


「俺が愛してるのもオメーだけだよ。これから何回この言葉を繰り返そうが、口にする度、オメーへのキモチがでっかくなるだけだ。忘れんなよ?」


最後に念押しして、新一にしては珍しくあたしの唇に啄むような軽いキスをしてくれた。


「じゃあ、飯行こうぜ?」

『うん』


この繋いだ手を離されなければ、きっとあたしは先生たちがいなくても大丈夫だよ。
言葉にはしなかったけど、キモチが伝わればいいって握ってる手に力を込めた。


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