45.カウントダウン
楽しかったハワイでの冬休みはあっという間に過ぎてしまって、今日からまた学校が始まった。
でも、始業式が金曜日だったせいで、明日からまたお休みに入るけど。
こういう時は、それならいっそ月曜日に始業式を回してくれればいいのにっていっつも思う。
今日はハワイでの思い出話を聞かせろって園子が言い出したから、蘭と明日香も揃ってうちでお喋り会しようって、学校帰りにみんなで軽く食事をしてからあたしの部屋に来たところ。
「へぇー。これが新一くんがX'masになまえにプレゼントしたネックレスかぁ。確かになまえにはちょっと可愛い過ぎるわね。今つけてるハワイで買ったってヤツの方が断然似合ってるわ」
あたしが有希子さんに作ってもらったハワイでのアルバムを出していると園子がボードに飾ってあるネックレスを眺めて、そんなことを言っていた。
新一からの初めてのプレゼントはピンの所に小さなリボンを付けてあるから一目で分かる。
『でも、これ買った時、新一にそれ没収されそうになって大変だったんだよ?』
「え?なんで?だって、あれ工藤くんからなまえちゃんにプレゼントされたヤツなんだよね?」
『そうだよ?でも、これがあるからいいだろ?って没収されそうになったの。新一から初めてもらったプレゼントなんだから、絶対イヤって頑張って阻止したんだけどね』
ホントにあの時は大変だった。
てっきりネックレス以外のものを買うんだとばっかり思ってたら、新一が予め選んでたのはネックレスで、一緒に選んでこれを買ってもらったのはいいけど、ならこれはもう要らねぇなって捨てようとするんだもん。
新一から初めてもらったプレゼントなんだから、大事にしたいの!って主張して、店員さんと2人がかりで新一を説得して、何とか納得して貰ったけど。
新一、かなり渋々って感じだったから、よっぽどあのプレゼントを無しにしたかったんだろうな。
ちなみに、その話を聞いた有希子さんに新一が怒られてたのはまた別の話だ。
「でも、てっきりスクロールやマイレを買うもんだとばっかり思ってたのに、違うの買ったのね。似せてるってだけで、それ違うでしょ?」
『付き合い出したばっかりなのに、永遠とかまだ早いでしょ?』
「ねぇ、スクロールとかマイレって何?」
『あぁ、モチーフの話だよ』
蘭の質問が入ったので、ハワイアンジュエリーについて、簡単に説明した。
ハワイ王朝最後の女王が英国王子の死を悼んで「永遠の思い出」と彫られたバングルを身につけたことから始まったとされるハワイアン・ジュエリー。
愛や誰かを想うキモチが込められた思いを大事にしたいっていうので人気が高くて、幸せを運んでくれるとされてるハワイアンジュエリーはモチーフによって意味が違う。
寄せては返す波をイメージしたスクロールは永遠に途切れない二人の関係を意味していたり、マイレは神聖なる結びつきを表す植物で、ハワイの結婚式では、マイレのレイで新郎新婦の手を結ぶ…んだったかな。
恋人とのペアリングとかマリッジリングとしても人気が高いモチーフだったはずだけど、流石にまだあたしたちには早いだろうって。
「へぇ!なんか素敵だね!」
『他のモチーフにもそれぞれ意味があるから、ハワイアンジュエリー買う時は調べてみたらいいよ。今はネットでも買えるみたいだしさ』
「でも、どうせならなまえちゃんたちみたいにハワイで買いたいよねぇ。アクセサリーってネットで買うとイメージと実物が違ったりすることもあるらしいしさ。あたしも彼氏が出来たらハワイに行こうかなぁ」
『明日香ならきっと素敵な彼氏が出来るわよ。だってこんなに可愛いんだもの!』
「はいはい。そこのバカップルさっさと離れなさいよ。今日はなまえの土産話を聞きに来たんだから」
『バカップルって何よ?』
いつもみたいに明日香に抱きついたら、園子にバカップルって言われた。
でも、明日香が彼女だったらバカップルになってる自信があるから、悔しいけど強くは言い返せない…。
「なまえ知らないの?なまえと河野さんて普段からすっごく仲がいいから、クラスでそう言われてるんだよ?」
『え?ホントに?』
園子が勝手に言ってるんだとばかり思ってたのに、違うんだ?
何か蘭はオブラートに包んだ言い方してくれてるみたいだけど…ホントは何て言われてるんだろう?気になるな。
「河野さんに告白したかったら、本気でいかないとなまえに止められるって噂まで出てるわよ?」
『それなら、いい虫除けになってていいじゃない。遊び半分で明日香に告白するなんて明日香に対して失礼よ。明日香の彼氏になる人には絶対に明日香を幸せにしてもらわないと困るもの』
「あたしはなまえちゃんが一緒にいてくれるだけで幸せだよー」
『あたしも明日香が一緒にいてくれるだけで幸せよ?』
「ねぇ、蘭。なまえって新一くんの彼女っていうより、河野さんの彼氏に見えるんだけど、あたしの気のせい?」
「んー…」
あたしに抱きついて来た可愛い明日香の頭を撫でて微笑んでいたら園子に呆れられた。
聞き捨てならない台詞も聞こえたけど、明日香の彼氏になら喜んでなるから勝手に言わせておこう。
『あ、でね、ハワイのアルバムなんだけど、これだよ』
「へぇ…すっごくキレイな景色!海なんかすっごい澄んでるんだね!」
『あたしも初めて行ったから感動しちゃったよ。砂浜もすっごくサラサラしてるしさ』
あたしと蘭はそれだけではしゃいでるんだけど、明日香も園子もハワイなんて珍しくないのかパラパラとページをめくっていた。
こういう時、帝丹ってホントにそこらの私立とわけが違うよなって思う。
海外旅行や別荘なんて当たり前なんだもん。
あたし、よくそんな学校に通えてるな…。
「あれ?これ、あんたシュノーケルしてないじゃない!」
『あー、慣れないのするよりそのまま潜ってる方が楽だって気付いたから辞めたんだよ』
ダイビングの前にシュノーケリングしてみない?って有希子さんに誘われたから試したんだけど、普通に潜ってる方が楽だったんだよね。
ちなみに写真撮ってくれた人は先生が海の中のあたしを撮ってくれって頼んだ現地の人。
あたしがシュノーケルもしないで平気そうに長いこと潜ってられるからってビックリしてたっけ。
「でも、なまえちゃん人魚姫みたい!お魚さんたちがなまえちゃんの周りに集まっててすっごくキレイだよ!」
『ありがとう』
ホントに人魚姫だったら、あたしは新一と一緒になる代償に声を奪われちゃうんだけどね。
向こうでは泡になって消えたいとか思ってたこともあるけど、こっちに来てからは毎日が楽しすぎてそんなこと考えたこともなかったな。
「でも、よく新一が寝てるとことか写真撮れたね?これ、飛行機の機内でしょ?」
『あー、それは有希子さんが撮ってくれたんだよ。というか、この写真はほとんど有希子さんが撮ってくれたヤツだよ?』
「あんたたちが自分で撮ったヤツは聞かなくても、アングルで分かるわよ。初めての旅行なんだから、もっと新一くんと二人の写真撮れば良かったのに」
「それにしてもなまえちゃん、ホントに楽しそうだよねー。あっ!イルカさんとキスしてる写真まであるよ!」
ハワイではイルカと一緒に泳げるのだけは知ってたから、あたしがワガママ言って連れて行ってもらったんだよね。
昔からイルカが好きだったけど、ショーでしか本物のイルカ見たことなかったからさ。
「イルカって人懐っこいって聞くけど、これは凄いわ」
『インストラクターの人にも言われたよ。貴女はこの子たちと友だちになれたみたいねってさ』
写真を見ながらの思い出話はまだ始まったばかりだ。
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