イヴ当日、あたしは新一の部活が終わるのを待ちながら、髪をいじっていた。
一応、初めてのデートだし、X'masだし、オシャレしないわけにはいかないじゃない。
ピンポーン
あれ?新一はまだ部活中なはずだけど…誰だろう?
『はぁい』
「よっ!下開いてたから勝手に入って来ちまった」
『快斗!?』
玄関を開けると、そこに居たのはあの告白以来会ってなかったワンコだった。
え?てか何で?
「オメー、女の一人暮らしなんだから、相手も確認せずに不用心にドア開けんなよな」
『うん、次からそうする』
ワンコだって分かってたら居留守使ったのに。
「何にもしねぇし、部屋にも入んねぇから、そんなに警戒すんなよ」
ワンコに苦笑いされたけど、諦めません宣言をされてるのに警戒するなって言う方が無理だ。
「今日はこれを渡したくて来たんだよ」
『何?これ?』
「何って、クリスマスプレゼントだけど?」
『え?』
「好きな女にプレゼントするくれぇは許してくれんだろ?」
『え?でも…』
「ほらっ。じゃあな!」
『えっ!?ちょっと待ってよ!』
受け取れないよって断ろうとしたら、ワンコがポイってあたしにプレゼントっていう袋を投げて来たから、思わずキャッチしてしまった。
ワンコは渡すだけ渡すとあっさり帰ってしまうし。
ホントにこれを渡す為だけにわざわざ来てくれたんだ…。
あたし、あれから気まずくてワンコにメールも返してすらいなかったのに。
プレゼントの袋にはMerry X'masって書かれたメッセージカードが添えられていた。
【アクセとかじゃ重たくても、これくらいならダチとして受け取ってくれるよな?】
たったそれだけが書かれたカード。
一体何が入ってるんだろうと思ったら、中に入ってたのは可愛い手袋と小さなふわふわのぬいぐるみだった。
チワワのぬいぐるみって…いや、チワワとか可愛い犬は大好きだけど、ワンコがワンコをプレゼントするのか?って思わず笑ってしまった。
ブー
メールの着信を告げる携帯のバイブに、震えたそれを開いてみるとワンコからのメールだった。
from:黒羽快斗
sb:MerryX'mas!
今日のオメー、すっげー可愛かったぜ?
デートする相手が俺じゃねぇのは悔しいけどな。
Happy Christmas!
to:黒羽快斗
sb:Re:Merry X'mas!
わざわざプレゼント持って来てくれてありがとう。
手袋、大事に使うね。
快斗もこの聖なる夜に幸せなX'masを過ごせますように。
ホントに久しぶりにしたメール返信だった。
でも、プレゼントをもらっておいて、お礼も言わないわけにはいかないじゃない。
ワンコにもらったチワワはベッドの目覚まし時計の隣に飾って、あたしは新一を待ってることにした。
♪〜♪〜
新一専用の着うたが流れて、電話を取ると今こっちに向かってるところらしい。
『着いてから電話くれたら良かったのに』
「いや、早くなまえの声聞きたかったんだって」
『え?』
「今日イヴだから、学校で待ち合わせしてるヤツらとかいたんだけど、それ見たら、俺も早くオメーに会いたくなっちまってさ」
『じゃあ、あたしも早く新一に会えるように下で待ってるよ』
新一と電話をしながら、鞄だけ持って家を出た。
さすがにワンコからもらった手袋を、新一とのデートで使うわけにはいかない。
「なまえっ!」
『新一、部活お疲れ様』
電話をしながら、のんびりとマンションの下で待ってると、電話越しと遠くから新一の声が聞こえた。
新一は家で着替えただけで、ずっと走って来てくれたらしい。随分と息が弾んでいた。
「寒かっただろ?家ん中で待っててくれりゃー良かったのに」
『平気だよ。それに待ち合わせしてるみたいでデートっぽいし?』
この前は何時間も外に居たから寒かったけどねって笑うと新一が気まずそうに視線を逸らした。
『冗談だよ。ほら、行こう?』
「おう」
走って来ただけあって、繋いだ新一の手はすっごく温かった。
新一の部活での話を聞きながら、駅前へと向かっていると、次第にカップルばかりとすれ違うようになって、みんな考えることは一緒なんだなぁって思ったりしてたんだけど、
『うわぁー…キレイ…』
イルミネーションって言っても、たかがしれてるだろうなんて思ってたのに、予想に反して、そこには大きなツリーとそれを彩る様々な飾りが灯っていた。
あたしはイルミネーションのこの青い光が大好きだったりする。
普通の電球じゃ、味気ないけど、この光はあたしの大好きな海を連想させるから大好きだ。
『ねぇ、一緒に写メ撮ろう?』
「え?」
『初デート記念!ね?』
「お、おう」
新一の腕を抱き締めて、ツリーをバックに一枚写メを撮った。
うん、キレイに撮れてる。
にこにこしながら、それを保存してると新一が俺にもちゃんと送ってくれよ?って言って来たから、初デート記念って落書きしてから送ってやろうと思う。
「でさ、飯なんだけど…」
『もうちょっと見てたいなぁ』
「あ、いや、そろそろ行かねぇと予約の時間が…」
『え?』
わざわざ予約してたの?ってずっとイルミネーションを眺めてた視線を新一に向けると、新一はしまった!って顔をしてた。
内緒にして驚かせたかったんだろうけど…そうだよね。イヴに外食なんて、予約でもしてないと無理か。
X'mas限定のコースとかだってあったりするんだし。
『じゃあ、ご飯行こう?ドコに連れて行ってくれるの?』
「あんま期待すんなよ?父さんたちみてぇにスゲーとこ連れてってやれるわけじゃねぇんだから」
『新一と一緒だったら何でも嬉しいよ。二人でご飯食べに行くなんて初めてなんだしさ』
「そっか!」
不安そうに言う新一に笑顔を向けると、新一も安心したように笑ってくれた。
誰も高いとこ行きたいなんて望んでないよ。
あれは先生たちだからだって割り切ってるし。
まだ学生なんだから、割り勘出来るような気軽に行ける場所で十分じゃない。
『わぁー…可愛いお店!新一、よくこんなお店知ってたね?』
「いや、実はクラスのヤツらに勧められたんだよ。オメーと付き合い出した頃に、X'masに連れてくんだったら、ここがオススメだってな」
だから、俺も初めて来るんだって新一は照れたように笑ってた。
もしかしたら結構前から予約してくれていたのかもしれない。
『園子に感謝しなくっちゃね』
「…何でアイツがここで出て来るんだよ?」
『園子が新一に連絡してくれなかったら、今日ここに来れなかったじゃない』
「あー、そういうことな」
それに、園子はずっと応援してくれてたんだよ?
あたしと新一のことをさ。
それはクラスの皆やサッカー部の皆もだけど。
あたしたちはいろんな人に支えられて今一緒にいるんだと思うと心がほんわかと幸せな気分で満ちていくのを感じていた。
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