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(番外編)新一side


今日はせっかく部活が休みだってのに、なまえを母さんに取られちまった。
ったく、俺らが付き合い出した時にあんなお祝いするくれぇだったら、なまえ譲ってくれたっていいじゃねぇか。
母さんがなまえとデートするんだからって、俺だってなまえとデートしてぇつーのに。


「新一、ちょっと用事が出来たから出掛けてくる。留守番頼んだぞ」
「へーい」


母さんのことだから、今日はなまえ連れて帰って来るだろうし、俺は家で待ってねぇとな。
母さんと出掛けるっつーとなまえのヤツ、かなりオシャレすっから、可愛いなまえ見てぇし。


「新ちゃん、ただいまー」
『新一、こんばんは』
「やっと帰って来たか」


今日のなまえは予想に外れず、めちゃくちゃ可愛い。
くそう…俺だってこんななまえと出かけたかったっつーのに…いや、俺と出かけるっつってもこんだけオシャレしてくれんのか?
母さんと出かける時はいつもオシャレしてんだっつーのは前に聞いたけど…してくれるよな?
一応、俺が彼氏なんだし、彼氏とのデートでオシャレしねぇとかそんなことになったら俺ちょっと寂しいんだけど。
いや、でも、なまえと出かけられるってだけで満足しそうな気もすっし…


「新一、早く退かないか。なまえ君がいつまで経ってもうちに入れないだろう?」
「あ、悪ぃ」


可愛いなまえを見ていろいろ考えてたら、玄関を俺が塞いじまってたのを忘れていた。


『今日はあたしも夕食作るのお手伝いするから楽しみにしといてね』
「おう」


可愛い笑顔でそんなことを言ってくれて、コートでも脱ぎに行くんだろう、なまえがそのまま部屋に向かってるとその後に荷物を置きに父さんと母さんもついていった。
ん?父さん?


「なんで父さんまでなまえと一緒に帰って来るんだよ!?用があるって俺に留守番押し付けて出てったじゃねぇか!」
「だから、さっきなまえ君と一緒にお茶をして来たんだよ」
「ふざけんじゃねぇよ!」


この親父、よくもぬけぬけと……っ!
俺がなまえと付き合い出してからというもの、今までどれだけ自分がなまえと一緒だったかっていうのを見せつけるように、なまえと一緒だった時には自慢気に俺に報告して来やがるクセに、今日もなまえと一緒だっただって?
ふざけんなっ!!


『先生、お夕食の準備出来ました』
「ありがとう。すぐ行くよ」


父さんに今までの鬱憤を晴らすべく怒鳴り続けていたら、なまえが父さんだけに見せるあの笑顔で、飯が出来たって呼びに来た。
あの笑顔を俺にも向けて欲しいのに、まだ一度だって俺にはあんな笑顔をしてくれない。
まだ俺は父さんには敵わねぇっていうことかよ!
でも、なまえにそんなこと言えるわけがねぇし…。


「…何で俺呼びに来たんじゃなくて、父さんなんだよ?」
『もう…そんな細かいこと気にしないの』
「細かくねぇだろ!?」


呆れたようになまえに笑われたから、ついカッとなってムキになって言い返してたら、なまえに頬っぺたにキスされた。
オメーはズリィよな。
そうやって、なまえが俺のこと好きなんだって少しでも態度で示してくれたら俺が何も言えなくなることを知っててそういうことすんだから。


『少しは機嫌直った?』
「おう」
『それなら良かった。ほら、ご飯食べに行こう?』


なまえが嬉しそうに笑って、俺の手を握った。
それだけで、さっきまでのことなんかもうどうでもよくなっちまう。
ホントになまえはズリィよ。
俺のキモチを掴んで離さねぇんだから。


「それでね、今日ね、」
『あのお店ってホントに可愛いもの多かったですよね!あたしもう目移りしちゃって、』
「ああ、それなら今度は、別のお店に連れて行ってあげよう。そのお店はね、」


…って思ってたけど、さっきからなんか俺の存在ムシされてる気がすんのは気のせいか?
気のせいじゃねぇよな?
三人だけの空間作ってんじゃねぇよ!

俺だけが入って行けねぇのが悔しくて、せっかくなまえが作ってくれたって飯を掻き込んで、自分の部屋へと逃げた。
もしかしたら、なまえが直ぐに追っかけて来てくれんじゃねぇかって期待もしてたんだけど、来てくれねぇし。

何だよ。何で俺のこと気にかけてくれねぇんだよ…。
オメーは俺の彼女だろ?
そりゃあ父さんたちと仲がいいのは知ってっけどさ。
それでも、俺を一番に見て欲しいんだよ…。

しばらく部屋でそうしていじけてたけど、なまえは俺の部屋に来るどころか二階に上がってくる気配もねぇから、俺はなまえの部屋に行くことにした。
なまえの香りがして、あいつが傍に居てくれてる気がしてすっげー落ち着くんだよな、この部屋。


「あれ?こんな本前にあったか?」


なまえの部屋の本棚には俺の知らねぇ本が増えてて、パラパラとめくってたらどうやらミステリーもんらしい。
どうせ家に帰る前にコート取りにこの部屋に帰って来んだろうし、それまでこれでも読ませてもらうか。


『新一、あたしの部屋で何してるの?』
「あぁ、見たことねぇ本があったからちょっと借りてたんだけど、これ面白ぇな」
『まだ中巻までしか出てないけど、気にいったんなら本棚に入ってるから勝手に読んでいいよ』
「サンキュー」


なまえが俺を見てくれてる、それだけのことで安心しちまって、さっきの夕食ん時感じてた疎外感も寂しさも薄れてくんだから不思議だ。


『ねぇ、それよりこれ見て?先生と有希子さんがあたしにってプレゼントしてくれたの!』
「あー、今日はそれ買いに行ってたのか?」
『うん。長期休暇はこれを持って新一と遊びにおいでって言ってくれたの!』


なまえが俺に嬉しそうに見せてくれたのは旅行用のキャリーバックだった。旅行っていや、


「オメー冬休みハワイに行くって聞いたけど、ホントかよ?」
『え?うん。先生たちに誘われたから…イヤだった?』
「いや、違ぇけど…」


先生、先生って父さんばっかりなまえの口から出てくんのがイヤなんだよ。
さっきからずっとキャリーを大事な宝物でも見てるみてぇに目を細めて見つめてるなまえに、俺をその瞳に映して欲しくてなまえを抱き締めた。


「父さんたちとばっか仲良くしてねぇで、俺のこともちゃんと見てくれよ」
『ちゃんと見てるよ?』
「嘘つけ。さっきの飯ん時だって、オメー父さんたちとばっか話してたじゃねぇかよ」
『あれは新一が不貞腐れてたからでしょう?』
「やっとオメーを手に入れたと思ったのに、今日も母さんになまえ取られるわ、いつの間にか父さんとも合流してるわ、俺だけのけもんにされてたら、拗ねたくもなるだろ?」


カッコ悪ぃ。
ただの独占欲とワガママだって分かってっけど、オメーにはいつも俺だけを見てて欲しいんだよ。
俺がオメーの一番になりてぇんだ。


『有希子さん、今日はこれを買いに連れて行ってくれてたんだし、先生もこれの荷物持ちで呼ばれたらしいし、許してよ』
「んなもん、うちに送ってもらえば済む話だろ?」
『あたしもそう言ったんだけど、愛娘のために作らせた特別なものだから人任せに出来なかったんだって先生が言って、くれて…』
「なまえ?」


さっきまで普通に話してたのに、なまえが急に言葉を詰まらせた。どうしたんだ?


『それに、先生たちとはもうすぐお別れなんだもん…一緒にいる時間は大事にしたいんだよ』


忘れてた。父さんたちがなまえのこと溺愛してるみてぇに、なまえも父さんたちのことが大好きだったんだってこと。
それも行ったことすらねぇ海外で暮らす方が、父さんたちの居ねぇ日本で過ごすよりマシだとまで言っちまうくれぇに慕ってたんだってことを。


『あたし、ね。ずっと思ってたんだ。ドコにもあたしの居場所なんてないんだって』
「…」
『でも、ずっと一人だったあたしに先生は手を差しのべてくれて、先生と有希子さんはこんなに暖かい居場所まであたしの為に作ってくれたの』
「なまえ…」


居場所がねぇなんてそんなこと思ってたのか?
でも、こいつの家庭環境なんか俺は知らねぇし、一人暮らししてるくれぇなんだから、今までいろいろあったんだろうってことくれぇは分かっから、下手な慰めの言葉なんかかけられるわけもねぇ。
俺に出来ることは、こいつの話を聞いて、この涙を拭ってやることくれぇだ。


『初めてだったの。あんな風に手を差しのべてもらったのも、自分を居場所にしてくれたらいいなんて言ってくれたのも、全部。先生が初めてだったの』
「なまえ…」
『泣くことも出来なくなってたあたしが、先生の前だと何故か素直に泣けるようになるくらい気付いたら先生になついてて、先生もあたしのこといつでも気にかけてくれてて…。だから…だから…』
「なまえ、もう分かったから」


俺はこいつに酷な選択をさせちまったのかもしれねぇ。
ずっと一人で暮らしてて、初めて安心して頼れる存在を見つけたばっかだってのに、俺がなまえと離れたくねぇからって傍に居てくれってワガママ言ったばかりに、こいつを日本に引き止めちまった。

でも、それでも、なまえを手離すなんて絶対にイヤだったんだ。
オメーをここまで傷つけることになるなんて思ってもなかったけど、その涙も悲しみも俺が全部癒してやっから。だから。


「これからは俺がオメーの居場所になってやるよ」
『…』
「なまえが寂しい時も嬉しい時も、俺がいつだってオメーの隣に居てやっから…だから、そんなに泣くなよ」


父さんの台詞をパクるなんて情けねぇけど、俺はこんな時に気のきいた台詞が言えるようなヤツじゃねぇから、今はこれで許してくれな。

なまえに泣かれると俺はどうしたらいいかが分からなくなるんだ。
オメーがどっかに行っちまいそうな気がして不安で怖くなる。

オメーが俺の目の前からいなくなるなんて、考えたくもねぇよ。

オメーが倒れた時だって、俺はオメーを失うかもしれねぇ恐怖で立ってられねぇくれぇに何かが崩れていったんだ。
あんな恐怖、二度と味わいたくねぇよ。

泣きてぇ時は父さんの代わりに俺がオメーの涙を受け止めてやっから。
いつだってなまえの為ならオメーの元まで駆け付けて、こうしてオメーが落ち着くまで抱き締めててやっから。



だから…頼むから俺の傍に居てくれよな。


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