「なんで父さんまでなまえと一緒に帰って来るんだよ!?用事があるって俺に留守番押し付けて出てったじゃねぇか!」
「だから、さっきなまえ君と一緒にお茶をして来たんだよ」
「ふざけんじゃねぇよ!何でそれで俺だけ留守番なんだよ!?」
あたしたちが帰った時、出迎えてくれた新一はあたしを見てやっと帰って来たかって笑顔になったのに、先生を見るなりケンカを売り始めた。
『有希子さん、あれ、止めなくていいんですか?』
「いいのいいの。アメリカ行っちゃったら、あんな風に親子喧嘩も出来なくなっちゃうから、優作も今の内に新ちゃんでいっぱい遊んでおきたいのよ」
あたしたちが夕食の準備をしている間中、リビングからは新一の怒鳴り声が聞こえて来ていた。
新一、一人だけのけ者にされたのが悔しいのは分かるけど、そろそろ落ち着こうよ。
『先生、お夕食の準備出来ました』
「ありがとう。すぐ行くよ。ほら、新一もなまえ君の手料理が冷めてしまう前に行くぞ?」
先生はやっぱりいつものように新一の怒りを華麗にスルーしていたらしく、にっこにこでダイニングへと向かって行った。
「…何で俺呼びに来たんじゃなくて、父さんなんだよ?」
『もう…そんな細かいこと気にしないの』
「細かくねぇだろ!?第一、今日だってホントは俺がなまえと一緒に過ごせるはずだったのに、母さんが…っ!?」
あれだけずっと先生に文句を言ってたのに、まだ不満を言い足りないって感じの新一の頬にキスすると、顔を真っ赤にして黙ってくれた。
せっかくみんなでご飯が食べれるのに、新一のせいでギスギスした雰囲気になるなんてお断りしたい。
『少しは機嫌直った?』
「お、おう…」
『ほら、ご飯食べに行こう?』
って、新一を誘ってから気付いた。
振り向くと有希子さんがにっこにこしながらデジカメを片手に立っていたのだ。
いつの間にカメラなんてスタンバイさせてたんですか…。
「もうっ!新ちゃんたらなまえちゃんのキスで機嫌が直るなんて可愛いんだからっ!」
『有希子さん、デジカメ貸して下さい。メモリ消しますから』
「えー?なまえちゃんが新ちゃんの頬っぺたにキスしてるナイスショットが撮れたのに?」
『だから、それを消させて下さいって言ってるんです』
「見て見て、なまえちゃん。新ちゃんたらこんなに顔真っ赤にしてるのよ?可愛くない?」
『…この写真、あたしにもくれるんだったらさっきの許します』
「うんうん!ご飯食べたら直ぐにプリントアウトしてあげるから!」
「ちょっと待て!なまえも何母さんに丸め込まれてんだよ!?」
だって、新一が目を丸くして顔真っ赤にしてる写真なんてレアもんだし?
あたしはそれを見て笑ってるだけだから、恥ずかしくもないし。
寧ろ、新一のこんな可愛い写真を消すなんて勿体なくて出来ないじゃない。
『有希子さん、ご飯にしましょうか』
「そうね。優作も待ってるし、あたしたちも行きましょうか」
「だから!俺をムシすんなよっ!!」
新一の発言はもちろんスルーした。
あの写真を消させるわけにはいかないのだ。
その前のキスしてる写真ならともかく。
「さぁ、食べて食べて!今日はなまえちゃんがメインを作ってくれたのよ!」
「ほう。さっきから早く食べたいと思ってたんだ。新一、早く席に着きなさい」
「…いただきます」
新一はまださっきの写真を気にしてるのか、不貞腐れながらご飯を食べ始めた。
あたしと有希子さん、先生で今日のことを楽しく話していると、新一の不機嫌具合はどんどん酷くなってしまって、そそくさとご飯を掻き込んだ新一はごちそうさまでしたと箸を置くと二階へと逃げてしまった。
『ちょっと遊び過ぎちゃいましたかね?』
「気にすることはないさ。我々はゆっくりと食べようじゃないか」
「そうそう。どうせ後でなまえちゃんとお喋りでもしたら、新ちゃんも機嫌直すわよ」
って二人に言われたので、あたしも気にしないことにした。
だって先生たちとご飯なんて、後何回出来るか分からないし、今を楽しみたい。
『先生、有希子さん…ちょっとワガママを言ってもいいですか?』
「なんだい?」
『先生たちがアメリカに行くまで、あたしも夕食ご一緒させてもらっちゃダメでしょうか?』
「そんなの、もちろんいいに決まってるじゃない!」
『欲を言うなら、週末とかお泊まりさせていただきたいんですが…』
「なまえ君、ここは君の家でもあると言っただろう?そんなことはワガママのうちに入らないよ」
『ありがとうございます』
先生たちと、少しでも一緒にいたいんです。
そう続けると、有希子さんはあたしを抱き締めてくれたからまた涙が溢れて来てしまった。
先生と有希子さんが作ってくれる、このくらくらするくらいの暖かい空間が大好きで、ホントに居心地が良かった。
出来ることなら先生たちと離れたくなんてない。
でも、新一の傍にいるって決めたから、せめてお別れする日までは、先生たちとの時間を大事にしたい。
有希子さんの胸の中で、あたしは何度もありがとうございますと二人にお礼を言っていた。
(あたしに居場所を作ってくれて、愛してくれて、ホントにありがとうございます)
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