43.二人が大好きです
日曜日の有希子さんとのデートは、久しぶりっていうこともあってお約束の3割増しのオシャレより、更に気合いを入れてみた。
待ち合わせの場所で有希子さんを待っていたんだけど、さっきからちょっと困ったことになってたりする。
「ねぇ、誰かと待ち合わせしてんの?ナンパ待ちなら俺とどっか行かない?」
『いえ、待ち合わせなので遠慮します』
「君みたいな可愛い子待たせるなんてロクなヤツじゃないって!そんなヤツ放っておいてさ、俺と楽しくドライブでもしようぜ?」
何でか知らないが、今日に限ってよくナンパを受けてるのだ。
これでもう3人目…
いい加減相手するのも疲れてきたんだけど。
「その子はあたしと約束してるの。遠慮して下さる?」
「は、はい…。失礼しました!」
鶴の一声ならぬ、有希子様の一声で鬱陶しかった男は顔を青くして逃げて行った。
ザマーミロってんだ。
『有希子さん、ありがとうございます。今日に限ってよく声をかけられてたので助かりました』
「あたしこそ遅れちゃってごめんなさいね。それにしても今日のなまえちゃんかっわいーっ!!」
なにも、こんな人通りの多いとこで抱き着かなくても…とは思うけど、これをやって許されるのは有希子さんだからこそだと思う。
「今日の夕食はうちで食べて行ってね!新ちゃんに可愛いなまえちゃん自慢したいから!」
『分かりました。じゃあ久しぶりに一緒にご飯作りたいです』
「もちろんよ!あー、新ちゃんが悔しがる顔が今から楽しみだわ!」
なんだ、その理由は。
とは思ったけど、有希子さんたちが新一で遊ぶのは今に始まったことじゃないから、口を挟むのは辞めた。
別に多少オシャレしたくらいで新一が反応するとは思えないけど。
「でも、変な男の人になまえちゃんが連れて行かれなくて良かったわ。きっとナンパする人が多いのは、Christmasが近付いてるからでしょうね」
『あー、X'masですか。すっかり忘れてました』
「なまえちゃんみたいな可愛い女のコと過ごしたいってみんな必死なのよ!」
あたしが可愛いかどうかはともかく、さっきのはX'masを一人で過ごしたくないっていう悲しい人たちだったのか。
あたしは別にそういうの気にしたことなかったんだけど…新一へのX'masプレゼントどうしよっかなぁ。
『有希子さん、新一が欲しがってるものとか何か知りませんか?』
「あら、新ちゃんへのChristmasプレゼント考えてるの?」
『はい。新一に何あげようかなぁって思いまして…』
「なまえちゃんからのプレゼントなら、新ちゃん何でも喜ぶわよ!今日もいろんなお店に行くから、その時にでもいいのがあれば買っちゃえば?」
『そうですね。そうします』
何でも喜ぶって言われても、やっぱりせっかくプレゼントするなら本人が欲しがってるものをあげたいんだけど…新一ってあんまり物欲なさそうだしなぁ。
しかも中学生が普通にあげるプレゼントって言うのがさっぱり想像出来ない。
不自然になるようなものはあげれないし、ホントにどうしよっかなぁ…。
『あ、このコート可愛い』
新一へのプレゼントのことで頭がいっぱいになってたんだけど、何か視界に入ったものが気になって、足を止めるとあたし好みのコートが飾ってあった。
何に意識を奪われていても、女のコというものは自分の好きなものが視界に入ると無意識に反応してしまうらしい。
「あら、このコート、なまえちゃんにピッタリじゃない!覗いて行きましょうよ!」
あたしが足を止めたせいで、有希子さんに気付かれてしまった…。
これって絶対いつものパターン来るよね?
「やっぱり!すっごくなまえちゃんに似合ってるわ!今日の髪型にも服装にも似合ってるし、これ買っちゃいましょうよ!
これ、このままもらって行くから、着てたこっちのコートを袋に入れてくださらない?」
やっぱりー!!
有希子さんや先生と買い物に行くとあたしが気にいったものは確実にこれされるんだよね…はは。
目を奪われたのはホントだけど、どうしてこの夫婦は値段も確認しないで買っちゃうかなぁ。
このコートだって、絶対安くはないのに。
あたしも一度でいいからそんな買い物の仕方してみたいけど、有希子さんたちの前でそんなことを言うと即実行されてしまうのが分かってるので口が裂けても言うわけにはいかない。
「うふふ。なまえちゃんの可愛さが更に上がったわね!こんなに可愛いなまえちゃんとデート出来るなんて嬉しいわ。新ちゃんに譲らなくて正解だったわね!」
そういえば今日は新一にも誘われてたんだっけ。
あたしが聞き飽きるまで延々30分以上、デート権を巡って有希子さんと新一が言い争いしてたのをふと思い出した。
あれ、途中から先生の楽しそうな笑い声まで聞こえてきてたんだよね。
『ところで有希子さん、今日はどこに行くんですか?』
「今日はね、どうしてもなまえちゃんに買いたいものがあるのよ!」
『どうしても買いたいもの?』
こんな風に有希子さんが言うなんて珍しい。
一体何なんだろう?
『ここって…鞄屋さん、ですか?』
「そうよ。
ねぇ、頼んでたもの出来てるかしら?」
「はい。少々お待ち下さい」
有希子さんと二人で中へと入ると、顔パスなのか職人さんです!って感じの人が恭しく有希子さんに挨拶をして、お店の奥へと消えてしまった。
「こちらでございます」
『可愛いー…』
「これをなまえちゃんにプレゼントしたかったのよ」
店員さんが持って来てくれたのは使いやすそうな大きさのキャリーバックだった。
オーダーメイドしたんだろうっていうのは一目で分かる。
だって鞄の隅にあたしの名前が入ってるもの。
「あたしたちがアメリカ行っちゃっても、これを持って長期休みは新ちゃんと一緒に遊びに来てね?」
『有希子さん…』
「もちろん、向こうでもなまえちゃんの部屋は準備してあるから、そんなに荷物は持って来なくても大丈夫よ。でも、なまえちゃんとは中々会えなくなるでしょ?だから、せめてあたしたちのこと忘れないでねって何かプレゼントがしたかったのよ」
『忘れるわけ…ないじゃないですかっ!っく…』
有希子さんのキモチが嬉しくて、つい泣いてしまった。
忘れるわけないじゃないですか。
だって二人はあたしの為に居場所を作ってくれたんですから。
ホントに、あたしは二人のことが大好きで…アメリカ行きだってホントに真剣に考えてて…でも、あたしは新一の傍に居ることを選んでしまって…。
泣いてしまったあたしを有希子さんは優しく抱き締めてくれた。
『絶対、これを持って有希子さんたちのところに遊びに行きますから』
涙を拭いながら、そう笑うと有希子さんに、まずは冬休みのハワイに行く時にこれを使ってねってウインクを返された。
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