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園子が帰った後に、新一に園子が言ったことなんか気にしないでいいからってメールを送ったんだけど、遅かったらしい。
送った時にはオートロックからの呼び出しが鳴っていた。


『はい』

「あ、俺だけど」

『今開けるね』


どうやら今日は急いで来たわけではないらしい。
いつも息を切らせて登場するのに、今日は普通な感じだった。


「よっ!」

『部活お疲れさま。園子からのメールなんて気にしなくても良かったのに』

「まぁ、あれが無くても元々なまえん家には来る予定だったからいいんだよ」

『え?』


新一をリビングに通して、飲み物何がいい?って聞いてたら、不思議な返答が返って来た。
元々来るつもりだったって…何で?


「んだよ。彼女の家に来んのに理由がいんのかよ?」

『いや、そういうわけじゃないけど…』


だって、学校で毎日会うのに、わざわざ家まで来てくれるとは思わないじゃない。


「学校じゃ、河野がオメーにべったりだし、家じゃ父さんたちになまえ取られちまうからな。ここに来んのが一番だろ?」

『まぁ、確かに。学校じゃ何でも園子が煩く言い触らしそうだしね』


園子に付き合ってると暴露した途端、放課後を迎える前にクラス中と言わず学年中に広まったんだから。
園子は情報網も伝達網も素晴らしく恐ろしい。


「んで?俺と二人で写メ撮って送ってくれって言われたんだって?」

『あ、うん。ほら、あたし、夏に大阪に行ってたでしょ?その時泊めてくれてた女のコなんだけど、あたしが新一のこと好きだって話した時に応援してくれてさ。その子もあたしの好きな人がどんな人なのか見たいから、付き合い出したら二人で写メ撮って送って欲しいって』

「なら、とりあえず写メ撮っちまうか?」

『え?』

「そいつと約束したんだろ?オメー、写真嫌いだから、後回しにしてたら、ぜってー撮らねぇだろうし、さっさと撮っちまおうぜ?」

『別に送って欲しいって言われただけで、約束したわけじゃ…』


恥ずかしいから無理だってちゃんと伝えたし、って言ったのにも関わらず、何故か新一は撮る気らしい。
新一、そんなに写真とか好きだったっけ?


「大阪旅行ん時、そいつの幼なじみの男も一緒だったんだろ?」

『え?』

「父さんが言ってた。オメーはどこに行っても人気らしいってな。そいつがオメーのこと好きだとかいい出す前に見せつけてやればいいじゃねぇか」


既に告白されてます。とは言わない方が無難だろうな。
話に聞いてるだけで、これだけ敵対心持っちゃってるんだから。


「つーことで、撮ろうぜ?ほら、こっち来いよ」


何だか断れない雰囲気なんだけど、何でだろう…。
招かれるままに新一の元まで行って、仕方ないから携帯を取り出した。
カメラモードにしようと携帯をいじってたら、新一に後ろから抱きしめられた。


『し、新一?』

「近づかねぇと一緒に写らねぇだろ?ほら、携帯貸せって」


新一に携帯を奪われて、新一が腕を伸ばしてちゃんとフレームにあたしたちが入るように調整してるんだけど、携帯画面に映るあたしたちが近いのが恥ずかしくて顔を背けてしまった。


「なまえ、ちゃんとカメラ見ろって」

『恥ずかしくて無理だから!』

「何ならキスしてる写メにするか?」

『えっ!?な、何言って』

「なまえに告白して来たヤツらに送ってやればさすがに諦めんじゃねぇ?」


ワンコの今日の反応を聞いてる限り、寧ろ、ヤル気を出しそうな気がするから辞めて欲しい。
ここはホントにそんな写メを撮られる前に、諦めて普通に写メを撮ろう。

あたしが携帯の方を向くと、隣の新一は営業スマイルじゃなくて優しい柔らかい笑みをしてるから、余計に恥ずかしくなった。


カシャッ


「っし。これでいいだろ」

『新一、何してるの?』

「ん?さっきの写メ、なまえの照れてる顔が可愛いかったから、俺の携帯にも入れとこうと思って送信中」

『ちょ、ちょっと!そんなの保存しなくていいから!』


新一が自分の携帯を取り出すから何をするのかと思ってたら、さっきの恥ずかしい写メを保存してたらしい。
消してくれって言っても嫌だの一点張りだった。
もう…これだから、記録媒体なんて嫌いなんだ。


「ほら、さっさと送っちまえよ」

『…どうしても?』

「送らねぇんだったら、なまえに告白してきたってヤツらの連絡先教えろ。俺が直に話つけてやっから」

『直ぐに送らせていただきます』


そっちが本音だったのかとやっと気付いたけど、そんな怖いマネ誰が出来るかと、さっきの写メを和葉ちゃんにメールで送ったら、速攻でメールが返って来た。


from:遠山和葉
sb:おめでとう!
好きな人と付き合えることになって良かったやん!
しかも相手の人、めっちゃカッコええし、ホンマお似合いの美男美女カップルやね!
照れてるなまえちゃん、めっちゃ可愛いし!
これは絶対平次に見せたらなあかんな。
早速送りつけたるから!


は、恥ずかしい…
こんな写メを服部くんに見せるとか、マジで辞めて欲しいんだけど。


「顔赤くして、どした?」

『さっき送った子から、早速返信が来て、新一のことカッコイイねって』

「ふぅん?」


それだけでこの話題は終わらせようと思ってたのに、いつの間にか新一に携帯を奪われていた。


「お似合いってセリフに照れてたのか?」

『う、うん…。新一が美男なのは分かるけど、あたし美女でもなんでもないし…』

「んなことねぇだろ?なまえだって可愛いじゃねぇか」


携帯を返してもらいながら、頭を撫でられたことで、更に顔に熱が集まった。
そんなセリフを笑顔でさらりと言うのは辞めて欲しい。


「ところでさ、」

『うん?』

「その平次っていうのが、そいつの幼なじみなのか?」

『え?うん。そうだよ?』


ちょっと新一から黒いオーラが見えた気がするけど、気のせいだよね?
服部くんから告白されたのまでは知らないはずだし、先生から話を聞いてるだけならバレない筈だ。


「なぁ、父さんには大阪での写真とかプリクラ見せたんだよな?」

『え?うん。そうだけど…どしたの?』

「俺も見てぇっつったら見せてくれるか?」

『写真はしまっちゃってるけど、プリクラならすぐ出せるよ?見る?』

「おう」


ホントは写真もすぐ出せるんだけど、それをすると服部くんのことがバレちゃうから、和葉ちゃんとのプリクラだけを見せることにした。


「なまえ、すっげー楽しそうだな」

『あ、うん。大阪案内してもらってテンション高かった時に撮ったヤツだから』

「…」


新一がえらく真剣な顔をしてプリクラを見てるから、何を考えてるんだろうって、ちょっとドキドキした。


「遊びに行ってんだから、いつもよりオシャレしてんのは分かっけど」

『うん?』

「こんななまえ見て、一緒にいたヤローが何も思わねぇってことはねぇだろうな」

『何言ってるの?友だちのとこに遊びに行っただけなんだから、何にもないって。新一の考え過ぎだよ』

「そうか?まぁ、さっきの写メそいつにも送るって書いてあったし、何か思ってたとしても諦めんだろ」


プリクラを机の上に置いた新一は、何故かあたしを抱きしめて来た。
今度は何だろう?


「俺、オメーのあんな楽しそうな笑顔見たことねぇから、ちょっと悔しい、かな」

『え?』

「あん時に一緒にいたそいつらが羨ましい…」


あたしを抱きしめる力がちょっと強くなった。
まさか和葉ちゃんとのプリクラでも妬かれるとは思ってなかったから、正直ビックリした。


『新一とは、これからずっと一緒に居るんだから、これから見れるよ』

「え?」

『まだ見たことないあたしも、これから見れるよ』


それだけ言って、あたしも新一を抱き返した。
そんなこと言ってたら、小さい頃からの新一を全部知ってる蘭にあたしもヤキモチ妬いちゃうじゃないか。
写真なら有希子さんも蘭も頼んだら見せてくれるだろうけど、その時の新一を知らない事実には変わりないんだから、きっと寂しくなるだけだ。


「なまえ?」


新一が心配そうに声をかけて来たけど、気付かないフリをして新一の肩に顔を埋めていた。
あたしも新一もまだ出会って一年も経ってないんだから、お互いのことを知って行くのはこれからだよ。

ちょっと寂しくなったキモチを埋めるように、新一をしっかりと抱きしめると新一も何も言わずにあたしを強く抱きしめてくれた。



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