向いてくれって言った割りに、なかなか話し出さない新一に沈黙が病室を包んだ。
「俺、オメーに避けられた時になまえに避けられ続けんのは耐えらんねぇっつったの覚えてるか?」
『うん。覚えてる、よ?』
「俺が、オメーへのキモチ自覚したのって文化祭の当日なんだけどな」
『うん…』
「あん時もオメーに嫌われたくねぇってそればっか考えてて、逆になまえ不安にさせちまった自分に嫌気がさしたんだ」
『…』
「んで、今回オメーが倒れてて意識がねぇから病院に連れてくって父さんから連絡もらった時は、オメーを失うんじゃねぇかってマジで怖くなった」
『…』
これって、たぶん…言われる、よね?
「自覚した時には手遅れだったくれーに、もう俺ん中でオメーの存在はでっかくなり過ぎてて、俺にはどうしようも出来ねぇんだよ」
『…』
「なまえ、俺はオメーのこと」
『待って』
「…」
告白される前に、新一の口に自分の手を翳して待ったをかけた。
卑怯なことしてるのは分かってる。
だけど…
『ごめん。その先を言うの、今はまだ、待って…』
まだ、言われる準備が出来てない。
今のあたしには、断るだけの勇気もなければ、素直に頷けるだけの余裕もない。
『お願い…もう少しだけ、待って、くれない?』
「わーった。だから、んな泣きそうな顔すんなよ」
新一のキモチを知っていながら、告白されてないからって逃げたあたしが、その告白自体を止めてしまった。
新一に最後まで言わせなかった。
また、逃げたあたしに、逃げてばかりのあたしに、罪悪感で胸が潰れそうだけど、まだ、今はまだ、言われるだけの心の準備が出来てないんだ。
『ごめん、なさい…。もう、少し、だけ、待って…』
「わーったって。だから泣くなよ」
新一があたしの頬を濡らす滴を指で優しく拭ってくれるけど、新一の優しさに甘えてるあたしが大嫌いで、許せなくて、涙は次から次へと溢れてくるばかりだった。
「なぁ、もっかい抱き締めてもいいか?オメーの涙が止まるまででいいから」
返事の代わりにコクンと頷けば、いつか河原で抱き締めてくれたみたいに新一が壊れ物を扱うようにそっと抱き締めてくれた。
これ以上新一の存在が近くなるのが怖くて、アメリカ行きの話をした時にはこの腕から逃げたクセに、今はこの温もりに甘えてる自分が許せなかった。
手を握ってもらえるだけで十分だったはずなのに、それがなくなった途端に寂しく思った河原の時みたいに、あたしはこの腕の温もりに頼って甘えて、きっとなくなったら寂しく思うのに告白を受けるだけの勇気がない。
最低だな、あたし。
この温もりに甘えていながら、この温もりを知らなければ良かったと思うなんて。
でも、きっと、この温もりの安心感を知らなければ、失う怖さも知らなかったはずなんだ。
ねぇ、新一。
あたしの中の貴方の存在も、あたしが思ってた以上に大きくなってたみたいだよ?
もう、あたしはこのキモチに気付かないフリなんて出来ないよ。
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