その後は先生と楽しくお喋りをして、晩ご飯まで食べて、初めて先生に会った日と同じように閉店時間まで喫茶店で時間を潰した。
新一対策でこんなことをしたって、明日には学校で顔を合わせることにはなるんだけど、今日だけは逃げていたかった。
でも、逃げたせいで、アメリカに行きたい気持ちが強くなってしまった。
「それじゃあ、なまえ君、おやすみ」
『おやすみなさい』
帰って新一の相手でもするかなって、先生は笑いながら帰って行った。
今日の先生は終始笑顔だったなぁってエントランスを抜けてオートロックを解除して中へと入ると、此処にはいないはずの人があたしの部屋の扉に寄りかかっていた。
「よう。随分と遅いご帰宅だな?」
『新、一…なんで?』
「最初はエントランスで待ってようかと思ってたんだけどな、たまたま帰って来た人が居たから一緒に入って来たんだよ」
『そうじゃなくて!この寒い中、何してんのよ!?』
もう風は冷たいどころか痛いくらいに冷え込んでいるっていうのに、あれからずっと待ってたって言うの!?
まだエントランスにいた方が寒さはマシなのに!
「なまえ待ってたに決まってんだろ?オメーに話があるんだよ」
逃がさないとでも言うように、あたしの腕を掴んだ新一は真っ直ぐな眼差しであたしを射貫いた。
いつの間にこんな強い瞳になったんだろう?
この間まではただ純粋な澄んだ瞳だったのに。
『…とりあえず玄関開けるから中に入って。新一の身体暖めないと』
ぎこちない動きも赤くなった頬もいつもより白い肌も、何時間もこの寒い中に居たせいだ。
早く暖めないと新一が風邪を引いてしまう。
部屋に入ったあたしはエアコンで暖房を付けると新一に毛布を渡して、珈琲を淹れにキッチンへと向かった。
『新一、ご飯は…食べてないよね。何か作るよ』
「んなのは後でいいから、とりあえず話聞かせろよ」
『食べながらでも話せるでしょ?もう遅いからお腹空いてるんじゃない?』
「それより話が先だっつってんだろ!?」
新一が耐えきれなくなったように声を荒げた。
きっと電話を切った時からずっと自分を抑えていたんだろう。
そりゃあ限界にもなるってもんだ。
もしかしたら、そっちに意識が行き過ぎて寒いのも空腹も感じなかったのかもしれない。
これ以上、話を引き延ばすことが出来ないと悟るとあたしはあっさりと覚悟を決めて、新一の前に座った。
『話って何?』
「オメー何で俺に黙ってた?」
『何のこと?』
「とぼけんな!アメリカ行きのことに決まってんだろうがっ!」
『まだお誘いを受けるかどうかは決めてないから?』
嘘。新一に言うと気持ちが揺らぐのを知ってたから。
だから、言わなかった。
言いたく、なかった。
「蘭たちには父さんに誘いを受けたその日の内に報告したんだよな?」
『そうだよ。行くにしても行かないにしても、あの三人にはこういう話があるってきちんと伝えとかなきゃって思ったから』
「じゃあ、何で俺には一言もなかったんだよ!」
『先生たちに聞いてるかどうかも分からなかったし。今日学校で話して、新一が知らないのは分かったけど』
「じゃあ気付いたその時にでも言えば良かっただろ!?」
『新一、学校でそんな風に騒ぐつもりだったの?』
「話すり替えてんじゃねぇよ!!」
どこまでも感情的になってる新一に対して、あたしは淡々と話をしていた。
感情をセーブしとかないと危ないと、さっきからずっと警報が鳴っている。
(君が何を言うのか、怖くて仕方ないんだ)
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