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『というわけで逃げて来ました』


放課後、誰にも捕まらないようにそっと学校を抜け出して、喫茶店へと直行すれば何故か先生が居たので(また締め切りから逃げて来たんだろうけど)事情を説明すれば、先生はそれはそれは楽しそうに笑ってくれた。


「部活の前に言われたんじゃ、あいつサッカーどころじゃなくなるんじゃないかな?」

『それが怖いので携帯の電源切ってます』

「それじゃあ、余計に気になるだけだろうに」


クツクツとまだ喉の奥で笑ってらっしゃる先生は、この状況が楽しくて仕方ないらしい。
先生、もしかして息子さんで楽しむ為だけに息子さん抜きでアメリカ行きの話したんですか?


『この時間なら確実に部活が始まってるので大丈夫ですね』


時計を見て、ふぅ、と安堵の息を吐いて携帯の電源を入れた途端に件の彼から電話が来た。
おい、キミ部活はどうした。

頬がひきつるのが分かったけど、既に電源を入れてしまったのでどうしようもない。


「出ないのかい?」

『…出ます』


しばらく放置してみたけど、鳴りやみそうもない携帯に諦めて通話ボタンを押した。
こんなことなら留守電の設定しておくんだった。


『もしも』

「なんで直ぐに出ねぇんだよ!?」


通話ボタンを押すなり怒鳴られて、思わず携帯を耳から離した。正直、煩い…


『それよりキミ部活は?』

「それどころじゃねぇだろ!オメー今どこに居んだよ!?」

『家にい』

「ほー。なら俺が散っ々鳴らしたインターホンは居留守使ってやがったのか?」

『…家に来てるの?』

「おう。河野から話聞いた時にはもうオメーが逃げた後だったからな」

『逃げたって…』


人聞きの悪い。
まぁ、ホントに逃げて来たんだけど。
こうなるだろうなぁって思ってたから。


「じゃあ、オメー何で今まで携帯の電源切ってたんだよ?」

『キミの部活が始まるのを待ってたから』

「やっぱり俺から逃げてたんじゃねぇか!」


電話越しに唸ってる新一に、さて、何て返すかなって考えてたら先生に携帯を奪われた。


「新一、そんなになまえ君を困らせるんじゃない」

「父さん!?何で父さんがなまえの携帯に出るんだよ!?」

「今一緒にいるからに決まってるじゃないか」

「なまえ、家に来てんのか!?」

「いや?今は外でデート中だ。という訳で切るぞ。帰りは父さんがなまえ君を送って行くからお前は安心して部活でもしてなさい」

「ちょっと待」

「さて。電源も切ったことだし、これで静かになるだろう」

『たぶん新一は今頃煩くなってると思いますよ?』

「だろうね」


これからの展開が楽しみだと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて、瞳を輝かせていらっしゃる先生。
あたしはこれからが怖いんですが。


『先生、ここの場所、新一知ってたりしませんよね?』

「心配しなくても大丈夫だよ。ここは有希子も知らない場所だからね。あいつが知ってるわけがないさ」

『それならいいんですが…怒り心頭な新一が殴り込み、なんて、あたしイヤですよ?』

「それは心配しなくていい。それより、例のことなんだが、有希子が今なまえ君が喜びそうな学校を探していてね」


その言葉に素直に驚いた。
だって、あたし、まだ何も言ってないのに。
それに、お話をもらってからまだ数日しか経ってませんよ?


『ちょっと気が早くないですか?』

「何、まだ調べているだけさ。備えあれば、というだろう?」

『そうですけど…』


そうやってあたしの為に時間を割いてくれてることに、あたしの気持ちが確かに揺らいだ。



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