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「なまえ、あんたホントはアメリカに行きたいんでしょ?」


翌日の朝早くにあたしの部屋に園子と蘭が来て、飲み物を出した途端に園子から話を切り出された。
園子はいつも直球だ。


『…迷ってるのはホント、だよ?』

「新一くんのおじ様にあんたがなついてるのはあたしも知ってるわよ?けど、新一くんから逃げたいってキモチもどっかにあるんじゃない?」


どうして園子にはバレてしまうんだろう。
あたしの心の奥底にちょっとだけあるキモチに。


「ねぇ、なまえ。ホントのところはどうなの?なまえは新一のこと好きなの?」

『恋愛感情はない、と、思う。今はまだ、だけど』

「でも異性として新一くんのこと意識してるのよね?」

『…』

「あんた、自分のキモチに気付かないフリして逃げてるだけじゃないの?」

『…』


図星だから言い返せない。
認めたくないと、逃げてるのは事実だから。


「なまえが新一くんのおじ様に全幅の信頼を寄せてることは、今までの話聞いてたら分かるわよ?でも、アメリカ行きを悩んでるのは、おじ様がいなくなる不安だけじゃないんでしょ?」

『…』

「黙ってばっかいないでなんとか言いなさいよ!今日はぶっちゃけ話しに来てるんだから!」

「園子、落ち着いて。ね?」


テーブルをバンッと叩いた園子を蘭が止めに入った。
あたしは俯いてる顔を上げることすら出来ない。


『こわ、いの』

「この前の恋愛の話?」

『それ、もある、けど…今まで助けてくれてた先生が、もうあたしの傍にいてくれないんだと思うと、怖いの。
先生にまで置いてかれるのが…ホントに恐い、の。
また独りになるのが…不安で仕方ない、の…』


あの孤独は…恐怖は、二度と味わいたくない。
それもあたしの正直なキモチだ。


「あんたにはあたしたちがいるじゃない!困った時でも…そうじゃない時だって、あたしたちがいつだってあんたの力になるわよっ!!」


園子の涙混じりの悲鳴にも似た悲痛な声があたしの心臓を握り潰すかと思った。

違うの。園子たちがいるのはホントに心強いと思ってるの。
だけど、それとこれとは根本的に“頼る”種類が違うんだ。
どう言ったら伝わるの?


「あたしたちじゃそんなに頼りないわけ?」

『そうじゃないっ!そうじゃなくて…園子たちがいてくれるのはホントに心強く思ってるの!
だけど…だけどっ!!』


園子の泣きそうな苦し気な声にあたしまで泣きそうになった。


「とりあえず二人とも一旦落ち着いて。ね?」


蘭の言葉に言い合いになりそうだったのを辞めて、とりあえず一口アイスティを飲んだ。
自分の思いを相手に伝えるのは難しい。
どんな言葉にしたら伝わるのかが分からないんだもの。


「ねぇ、新一から逃げたいっていうのはどういうこと?なまえが恋愛するの怖がってるって話は園子から聞いたけど」


蘭が今までの話を逸らすように言葉を挟んだ。
これはこれで言いにくいんだけど…
今日は何処にも逃げ場がないらしい。


『新一のキモチに気付いた時、あたしの中で何かが壊れた気がしたの』

「どういうこと?」

『恋愛なんてしばらくしなくてもいいって感情を押し込めてた壁がひび割れた感じ、かな?』

「…」

『だから、今まで通りの関係なら大丈夫なんだけど、新一が今まで以上に近い存在になると、それが完全に壊れちゃいそうで、怖い、の』

「ねぇ、なまえ」

『何?』

「なまえは私の恋愛、応援してくれたよね?」

『え?うん』

「なまえも恋愛しちゃっていいんじゃない?」


蘭は優しく微笑んでいて、なんだかそのどこまでも澄んだ純粋な瞳から視線を逸らすことが出来なかった。


「きっと新一なら、なまえのキモチ全部受け止めてくれると思うよ?」


また、だ。
またあたしは揺れている。
揺れるのが分かってたから、この話はしたくなかったんだ。


「なまえも少しは素直になりなさいって、あたしも前に言ったでしょ?」


園子に後ろから優しく抱き締められながら、あたしはこの揺れてる心をどうやって鎮めたらいいのかが分からずにいた。


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