先生の家を出てからの帰り道、あたしは携帯を片手にずっとそれを眺めていた。
園子に相談してみようか?
実際、アメリカに行くとなれば蘭や明日香にも話さなければならない。
それは早い方がいいということは理解していた。
だけど、どうしても携帯を開くことが出来ない。
話す勇気さえない自分に自嘲していた時だった。
タイミングよく園子から電話の着信が鳴り響いた。
これはチャンスかもしれない。
出来るだけ、いつもの口調で話しかける。
『園子?どうしたの?』
「あのケーキ、蘭と今食べてたんだけどさ、さっすがなまえの自信作ね!今まで食べたことない味と食感だったわ」
『それ誉めてるの?不味かったって言ってるの?』
「誉めてるに決まってんじゃない!あたしなんかおかわりまでしちゃったわよ!」
蘭と今食べてたってことは蘭もまだ園子と一緒にいるはずだ。
話すなら今しかない。
意を決して園子へ話を切り出した。
『ねぇ、園子』
「何よ?」
『ちょっと話があるんだ。蘭と明日香にも』
「…何かあったの?」
急に真剣なトーンになったあたしに園子が訝し気な声を上げた。
でも電話じゃなく、直接言いたい。
『これから明日香誘って園子の家に行ってもいい?どっかのカフェとかでもいいんだけどさ』
「あんた今何処にいるのよ?」
考え事をしながら歩いていたせいか、普段は通らない見慣れない道にいた為、あたしはキョロキョロと周りを見渡して場所を告げた。
「なんか大事な話っぽいし、うちに来なよ。河野さんもあたしのうち知ってるから、うちで待ち合わせればいいでしょ?…蘭!なまえが大事な話があるって言ってるんだけど、時間大丈夫?…蘭も大丈夫だって」
『ありがとう。これから行くよ』
園子との電話を切った後、明日香に電話をかけたら予想外にあっさりとOKを貰えた。
急な誘いだから、断られるの覚悟だったんだけどな。
でも、一度で話を終わらせられるならその方がいい。
何度も同じ話をしていたら、あたしの揺れてるキモチが固まってしまうような気がした。
あの三人の反応が分かってしまう分、気が重いけど、これは内緒にしておく訳にはいかないんだと自分に気合いを入れ直して、園子の家へと向かった。
「なまえ、いらっしゃい。河野さんももう来てるから、あたしの部屋に行くわよ?」
『うん…』
皆にきちんと話すんだと覚悟を決めて来た筈なのに、緊張し過ぎて心臓がドクドクと煩い。
園子の部屋へと入ると蘭と明日香が楽しそうに談笑していた。
あたしが、その笑顔を壊すんだと思うと更に胸が締め付けられる息苦しさに襲われた。
「河野さんもなまえのケーキ食べる?」
「えっ!?なまえちゃんのケーキあるの!?食べたいっ!!」
「なまえは?」
『あたしはさっき食べて来たから紅茶だけでいいよ』
園子が執事か使用人か分からないけど、男の人に指示してるのをどこかぼんやりと見ていた。
「なまえの話は飲み物が届いてからでいい?」
『うん…』
後数分が、あたしが心を落ち着かせられるタイムリミットだ。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせてる間に注文していた飲み物が届いてしまった。
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