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歌い終わったあたしは歌の余韻に浸って水面を眺めていたけれど、そろそろ帰ろうとその場を去ろうとした時だった。


「なまえっ!」


新一の必死な声が聞こえて振り返ると、新一がこちらに向かって走って来ていた。
しまった、もう部活の終わる時間だったのか。


「はぁはぁ…」


帰ろうか悩んでる間に新一があたしの元まで来てしまった。
これはもう逃げるわけには、いかない。

急いで来たらしい新一が息を整えてる間、あたしの心臓はバクバクと煩いくらい悲鳴をあげていた。


「頼む!話だけでもいいから聞いてくれ!!」


どこまでも必死な新一の眼差しが苦しくて目を逸らしてしまった。

出来ることなら逃げてしまいたい。
だけど、今逃げても何も変わらない。

だからあたしも覚悟を決めて口を開いた。


『話って、何?』

「この間は悪かった」

『…』

「俺のせいでなまえを傷付けて、ホントに悪かったって思ってる」


新一は今どんな顔をしてるんだろう。
絞り出すような苦しそうな声に怖くて顔を向けることが出来ない。


「ホントに泣かせるつもりなんかなかったんだ。ただ…」


そこで新一が言葉を止めた。
あたしの心臓はまだ煩く鼓動を全身に響かせている。
こんなに静かだと新一にまで聞こえてしまうんじゃないかってくらいに。


「ただ…オメーを誰かに取られちまうのが怖かったんだ」


微かに震えてる声に新一が泣いてしまうんじゃないかと不安になった。


「直ぐに許してくれなんて言わねぇし、許してもらえるとも思ってねぇ。だけど…出来るなら、俺をちゃんと見てくれねぇか?オメーに避けられ続けんのは俺が持たねぇんだよ…」


ホントに泣き出してしまいそうな切な気な声に、恐る恐る新一を見ると、やっぱり新一の顔は泣きそうに歪んでいた。
これじゃあ、まるで土曜日の続きだ。


『許すも何も…あたし、別に怒ってない、よ?』

「でも、オメーあん時泣いて帰っちまっただろ?」

『あれは…あれはあんな風に新一に想いをぶつけられるなんて思ってなかったから、ちょっと戸惑った、だけで…』


どう言葉にしたら新一に伝わるんだろう?
思わず視線を下げてしまったけれど、また新一に不安な思いをさせてしまってるかもしれない。


『別に新一のこと嫌いになったとかじゃないの。どうしていいか分かんなくて…ホントにどうしたらいいのか分からなくて…距離を置くことしか、思い付かなかった、だけ、なの』


それしか自分を守る術が思い付かなかったの。


「なまえ、もっかいこっち向いてくんねぇか?」


伝えられることは全て言ったと思う。
これ以上、何て言ったらいいかなんて分かんない。

不安なままに新一を恐る恐る見ると、さっきとは違って落ち着いた微笑みを浮かべてる新一がいた。


「俺のこと、嫌いになったわけじゃねぇっつったよな?」


頷いて答えを返す。
言葉を出すと今度はあたしが泣いちゃいそうだ。


「だったらさ、俺急がねぇから、前みたいに普通に接してくれねぇか?」

『…』


前みたいに、出来るだろうか。
新一のキモチを知ってしまった今、同じように出来る自信が、ない。


「今日みてぇになまえにずっと避けられんのだけは嫌なんだよ」

『ごめん…』

「それはもう前みたいには出来ないって意味か?」

『新一を、不安にさせて、ごめん…』


とうとう泣き出してしまったあたしを、新一は壊れ物でも扱うみたいに優しく抱き締めてくれた。

自分の中にあった新一へのキモチなんて、ホントはもうとっくに気付いてる。
だけど、それを認めることがまだ出来ないんだ。

ごめんなさいとしか言わないあたしを新一はずっと抱き締めて頭を撫でていてくれた。



(素直になれなくて、ごめんなさい)



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