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「まさかなまえ君から呼び出しがあるとは。嬉しい限りだ」

『お仕事忙しいのに、ホントにすみません』


結局困ったあたしは先生に頼ることにした。
他に頼れる人が思い付かなかったのだ。


「この前悩んでいたことは分かったのかい?」

『はい…それは分かったんですけど、今度は別の問題が生じちゃって…』

「詳しく話を聞こうか」


マスターが珈琲を持って来てくれるのを待って、土曜日から今までのことを全て話した。
自分が不安に感じてることも含めて全部。

あたしはホントはこうして誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。
誰かに話して、自分の中で縺れた糸を解したかったんだと話をしながらそんなことを思った。


「なまえ君は何も悪くないから、心配しなくていい」

『でも、あたしのせいで新一が』

「今回の件は新一に非がある。なまえ君のせいじゃない」


そうなんだろうか。
元はと言えば、あたしがあの時泣かなければこんなことにはならなかったんじゃないの?


「それは違う。もしその時、なまえ君が我慢していれば、新一はもっと君を傷付ける言葉を言ったかもしれない。そうすれば、もう二度と修復出来ない関係になってしまっていたかもしれない」

『修復出来ない関係…』

「今ならまだ間に合うんじゃないかい?」

『…』

「それとも、もうなまえ君は新一のことを嫌いになってしまったかな?」


答える変わりにあたしは静かに首を振った。

嫌いになったわけじゃない。
軽蔑したわけでも、幻滅したわけでもない。
ただぶつけられた感情に戸惑っただけだ。


「それなら、なまえ君が新一の話を聞けるまで落ち着いたら、一度、新一の話を聞いてやってくれないかい?」

『そう、ですね。このままって訳にはいかないですし』

「もちろん、無理はしなくていい。新一の話をなまえ君が聞いてもいいと思ってからで構わない。この話の続きはそれからだ」


先生に話を聞いてもらっている間に珈琲は冷めてしまって、マスターが新しい珈琲を淹れて来てくれた頃には外は夕日で赤く染まっていた。


先生に話を聞いてもらって、少し落ち着いたあたしはまた河原に来ていた。
もうすぐ沈んでしまう太陽が、辺り一面を赤く染めている。
それがどうしようもなく悲しい風景に見えて、あたしはバラードばかりを歌っていた。


「おい、工藤。あれみょうじさんじゃねぇか?」

「え?」


微かに聞こえる歌声は確かになまえの声、だと思う。
姿はまだ遠いけれど、俺が見間違えるわけがない。


「なんか悲しい歌声だな」

「ああ…」


まだ、なまえは泣いてるのだろうか?
そう思うとまた胸が締め付けられたように苦しくなった。


「行って来いよ」

「けど…」

「お前、このままでいいのかよ?」


良いわけがない。
出来ることなら前の関係に戻りたい。

直ぐに許してくれなくてもいい。
せめて、俺を見て欲しい。
俺の言葉を聞いて欲しい。


「ほら、行くなら今しかねぇって!さっさと行って来い!」


背中を思いきり押された俺は、そのままなまえの元まで走り出した。




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