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「随分楽しそうに喋ってたじゃねぇか」

『それ、は』

「あいつといつもあそこで会ってんのかよ?」

『違うって!今日はホントにたまたまで。何歌うか悩んでたら、今日は歌わないのか?って話かけられて』


あたし、何必死になってるんだろう。
言い訳しなきゃいけないようなことなんて何もないのに。

それに何で新一がこんなに怒ってるの?
これじゃあまるで


「へぇ?俺はてっきり二人でデートでもしてんのかと思ったけどな?」


これじゃあ、まるで新一が黒羽くんに嫉妬してるみたいじゃない!


「園子に会いに行くって出てったオメーが男といて、ビックリしたぜ?」

『それは…ちょっと気分転換に久しぶりに歌いに行きたくなっただけで』

「だったらそう言えばいいじゃねぇか。何で俺に嘘つく必要があんだよ?」

『別に嘘じゃ…園子ともホントに会ってたし』


昨日の新一の様子がおかしかったから、とか言えない。


「園子と会ってたのは知ってる」


何で新一が知ってるの?とはとてもじゃないけど聞ける雰囲気じゃなかった。


「何で歌いに行くこと俺に言わなかったんだよ?俺に言えねぇ理由でもあったのか?」

『…』

「あそこに歌いに行ったらあいつに会うのが分かってたから言わなかったのか?俺に邪魔されんのが嫌だったとか?」

『だから、そんなんじゃないってば!』


しつこい新一に思わずあたしも声を荒げた。

何でこんなこと一々新一に聞かれなきゃいけないのよ!?
別に彼氏でも何でもないじゃない!


『最近新一の様子がおかしかったから…新一だけじゃない。なんか文化祭が終わってから皆変なんだもん!あたしだけ理由が分からなくて、あたしだけが蚊帳の外で…だから一人で歌いに行って気分転換しようとしただけじゃない!何が悪いのよ!?』


このくらいで泣くなんて、カッコ悪い。

でもこのピリピリとした空間も、尋問みたいな新一からの質問も全部がイヤで、声を張り上げたことで、今まで溜め込んでたものと一緒に涙が溢れて来た。


「なまえ、」

『何?まだ何かあるの?』


溢れてくる涙を必死に拭っていたら、新一にそっと抱きしめられた。
何が何だかさっぱりわからない。


「悪ぃ…泣かせるつもりなんかなかったんだ」

『…』

「ただ、俺の誘い断って出かけたなまえが噂になってたヤツと一緒だったから…ちょっと悔しかったんだよ」


抱きしめられる力が少し強くなったことで、新一のキモチが分かった。

これはもう、みたい、じゃなくて、新一は黒羽くんに嫉妬してたんだ。

たぶん新一は、あたしのこと、好き、なんだ。

それが分かった途端、何故だか涙も止まった。


『もう大丈夫だから、離して?』

「…」


ゆっくりとあたしを離してくれた新一は、あたしを泣かせたことに罪悪感を感じてるのか、顔を歪ませていた。


「なまえ、俺」

『今日はもう帰るね』

「…」

『ごめん。今回はもうあたし帰るよ』


新一が何を言おうとしたのかはわからない。
でも、続きを聞くのが怖くてあたしは言葉を遮った。

新一はまだ何か言おうとしてたけど、それが言葉になることはなくて、あたしはそのまま新一の部屋を出て、有希子さんに今回は帰らせてもらいますと断って工藤家を後にした。

あたしは一体どうしたらいいの?
新一のキモチが分かっても、どうしたらいいのか分からないよ。



(ただ、今日、何かが壊れた気がした)


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