その後は園子が気を利かせてくれたのか、他愛のない話で盛り上がった。
今は何とか部の誰々に夢中なんだとか、そんないつもの会話。
『なんか今日は重たい話しちゃってごめんね?』
「そんなこと気にしないでいいって。なまえは普段自分のことなーんにも言わないから、話してくれて嬉しかったし」
カフェからの帰り道、途中まで一緒に帰りながら、今日のことを謝ったら園子は明るく笑い飛ばしてくれた。
「あたしはいつでもあんたの味方だからさ。また何かあったら話聞くし。いっつもあたしがなまえに話聞いてもらってるしね」
『ありがとう』
園子と別れて、工藤家に帰ると有希子さんがケーキのお裾分けをもらったの!って元気いっぱいだった。
「新ちゃーん!なまえちゃん帰って来たから、皆でケーキ食べましょう!」
「悪ぃけど、今電話してっから先に食べててくれよ!」
「もうっ!新ちゃんなんてほっといてあたしたちだけで食べちゃいましょ!」
『新一待ってなくていいんですか?』
「いいのいいの!なまえちゃんはどれが食べたい?」
美味しそうなケーキを見ながらも、あたしはさっき部屋からちょこっとだけ出て来た新一のことが気になっていた。
なんだか深刻そうな表情だったけど、どうしたんだろう?
「ねぇ、なまえちゃんたらっ!」
『あ、すみません。じゃあこれが食べたいです』
「じゃあ、あたしはこっちにするわ。優ちゃんはどれが食べたい?」
三人でケーキタイムをしている間、結局新一が下りて来ることはなかった。
『新一、どうしたんでしょうね?』
「何か考え事でもしてるんだろう。そうだ、なまえ君がケーキを持って行ってあげるといい」
『でも考え事してるんじゃ、あたしが行ったら邪魔になるんじゃないですか?』
「新ちゃんは放っておくと止まらないの。なまえちゃん、悪いけど止めて来てくれる?」
『分かりました』
ケーキと珈琲を持って新一の部屋まで来たのはいいけど、何か緊張するな。
『新一、ケーキ持って来たけど、入ってもいい?』
「おう。今開ける」
扉を開けてくれた新一はやっぱりさっきまで考え事をしていたのか、どこか難しい顔をしてた。
やっぱり邪魔しちゃった、かな?
「悪ぃな。わざわざ持って来てもらっちまって」
『ううん。それより何か邪魔しちゃったみたいでごめんね?すぐ出るから』
「いいって。このまま俺の部屋居ろよ」
『え?』
「ほら」
扉を開けてくれた新一にとりあえず部屋に入ったけど。
何か考え事してたんじゃないの?
「あ、なまえの分の飲み物がねぇな」
『いいよ。さっき飲んで来たところだから』
そこで会話がプッツリと途切れてしまった。
なんか、この沈黙が痛い。
でも、こっちから話そうにも話題が…
「今日、園子に会う前に歌いに行ってたんだって?」
『え?うん。そうだけど…』
何で新一が知ってるんだろう。
「なまえが歌ってるの見たってヤツが教えてくれた」
『そう、なんだ?』
なん、か。新一、怒ってる?
「誰かと一緒だったって聞いたけど?」
『あ、何歌うか悩んでたらたまたま来てくれた人がリクエストし』
「あいつと待ち合わせでもしてたんじゃねぇのかよ?」
『え?』
「あいつだろ?文化祭ん時に花束くれたってヤツ」
あたしの言葉を遮った新一の瞳が確かに怒っていた。
誰かに聞いたんじゃなくて、新一が見てたんだ。
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