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河原に来てみたのはいいけど、何かを歌うって気分になれなかった。
気分転換に歌いに来たはずなのに、いつもと違って何を歌っていいのかが分からない。

これは重症かもしれないなと苦笑いが漏れた。


「あれ?今日は歌わねぇのか?」


誰かが近づいてくる足音が聞こえて、振り向くと黒羽くんがこっちに向かって来ていた。
だから、何でここにキミがいるんだ。


『うん。歌いに来たんだけど、何歌おうかなぁって迷っちゃってさ』

「じゃあ、俺がリクエストしてやろうか?」


うーん…それもいいかもしれない。
思いきり歌ったら憂鬱な気分も晴れるだろうし。


『じゃあお願いしようかな。今日はこの後約束があるから、リクエストは3曲までね』

「OK!じゃあさ、1曲目は、」


まるでリクエスト予定でも作っていたかのようにあっさりとリクエストしてきたワンコに思わず笑ってしまった。


『いいよ。その歌なら知ってるから』

「じゃあ、俺も特等席で聞くとすっかな」


前みたいにあたしの隣に座ってリラックスしてるワンコ。
その位置好きだね。
まぁいいや。

日差しを受けてキラキラと煌めく水面を眺めながら、歌い始めた。

明るい曲をリクエストしてくれて良かった。
モヤモヤして落ちていた気分が上がっていくのが分かる。


「やっぱ俺、オメーの歌声好きだな。文化祭の時にも思ったけどさ」

『劇の方はどうだった?』

「俺がロミオやりたかった!」

『何それ』


2曲歌い終わったところで、何故かおしゃべりタイムに入ってしまった。
無邪気なワンコの声が今日は心地いい。


『ほら、ラストのリクエストしないんならあたしもう帰るよ?』

「待った!ちゃんとリクエストすっから!」


一々リアクションが大きいワンコは見ていて飽きない。
うんうん唸った後にリクエストされた曲は、伝わらない片思いの切なさと、それでも諦め切れない相手への想いを歌った曲。


「なぁ、なまえもそんな恋愛したことあんのか?」

『何でそう思うの?』

「何かそんな気がしたから、さ」

『さぁ、どうだろうね?仲良くなったら教えてあげるかもしれないよ?』

「もう十分仲良いだろ?俺ら!」


その自信はどっから出てくるんだ。
ワンコの思考回路はあたしにはよく分からない。


『まぁ、今日はありがとね。思いきり歌えてすっきりしたよ』

「また歌いに来る時はメールしてくれよ!俺、ぜってー聞きに来っから!」

『どうしよっかな?また考えとくよ。それじゃバイバイ』


ワンコと別れて園子に連絡した後、携帯を見るとさっき別れたばかりのワンコからメールが入っていた。


from:黒羽快斗
sb:(no title)
なまえのファン一号は俺だからな!
絶対誘ってくれよ!


ファン一号って何だ。
やっぱりワンコの考えてることはよく分からない。
適当にメールを返信して、園子との待ち合わせ場所へと急いだ。



(今日分かったこと。ワンコはからかうと面白い)


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