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(番外編)新一side


部活が終わって家に帰ると、靴が一足多かった。
客でも来てるのかと、リビングへと行くとそこに居たのはみょうじで……。

俺、気まずくて劇の後からまともに喋ってねぇんだけど、何でこのタイミングでうちにいんだよ!?


『差し入れ持って来たついでに文化祭の写真見せてもらってたの』


“文化祭の写真”って聞いた瞬間にあのキスシーンが頭ん中に浮かんで、慌てて写真を片付けにテーブルへと走った。
ったく、母さんは余計なことしかしねぇんだから!


「新一、お前がなまえ君にキスした写真ならここにあるぞ?」


父さんが不敵に笑いながら、一枚の写真を手に言った。
そうだ、すっかり忘れていた。
余計なことすんのはこの夫婦揃ってのことだった!

こっからじゃ裏側しか見えねぇけど、ホントにあの写真だったら困る。


「寄越せっ!他にはもうないだろうな!?」

『今見てたのはそれで全部だよ?』


どうせこの写真を処分したところで、母さんに焼き増しされるだけだろうけど、とりあえずこれで余計なもんは回収出来た。
今ならあの日みょうじが写真を見るのを嫌がってたキモチが分かるような気がする。


「さぁ、なまえちゃんが持って来てくれたバナナタルトよ。新ちゃんの分は大きく切ってあげたから!」


俺にウインクを寄越した母さんに頬がひきつる。
おいおい、頼むからみょうじの前で余計なこと言わないでくれよ?


『もしかして工藤くんバナナ嫌いだった?』


へ?みょうじの方を見ると何故か不安そうな顔をしてる。
ヤベェ、何か勘違いさせちまったか?


『なら、良かった』


ふんわりと俺を見てにっこり笑うみょうじに思わず顔を背けた。
ヤベー、みょうじの笑顔ってあんなに可愛かったか?

これじゃあ、まともにみょうじの顔が見れねぇじゃねぇかよっ!


『なんか工藤くん、あたしが居ると落ち着かないみたいなので帰りますね』
「ちょっと待った!」


思わずみょうじの腕を掴んじまって、急いでその手を退けた。
俺、さっきから何やってんだよ!

とりあえず、このタルトを食ってみょうじを送ってく時に誤解を解こう。
じゃねーと、文化祭のことも合わせてマジでみょうじに嫌われちまう!
それだけは何としても避けねぇと!


って思ってたのに、いざ二人きりになると何て切り出していいかがわかんねー…。情けねぇ。


『ねぇ、工藤くん』
「!?」
『声かけただけでそんなにビックリしないでよ』


んなこと言ったって、みょうじから声かけてもらえるなんて思ってなかったしだな!


『もうここでいいよ』
「え?だって」


こっからみょうじの家まで、まだかなり距離あるぜ?


『あたしと一緒にいるの嫌なんでしょう?』


違っ!一緒に居てーんだけど、文化祭の時のことが頭を過って、どうしたらいいのかがわかんなくて!
オメーに嫌われたくねぇし!


『嫌々送ってくれなくてもいいよ。一人で帰れるからさ』
「ちょっと待てって!俺はっ!」


オメーと少しでも一緒に居てぇんだよ!


『…腕、痛い』
「わ、悪ぃ…」


カッコ悪ぃ。
俺、さっきから何やってんだよ。


『今日の工藤くん、何か変だよ?』
「…」
『あたしのこと避けてる』
「違っ!それはっ!」


文化祭のことで、オメーが怒ってんじゃねぇかと思って!
だから気まずいだけで!


『あたしのこと、嫌いになった?』
「違ぇっつってんだろ!」


悲しそうにみょうじがそんなこと言うから、思わずでけぇ声出しちまった。
嫌いになったんじゃなくて、好きだって気付いちまったんだよっ!!
自分の感情なのに、こんな持て余すような、どうしていいかわかんねーキモチなんて初めてで、俺はどうしたらいいのか、マジで分かんなくて。


「とりあえず、帰っぞ」
『うん…』


思わず手を繋いじまったけど、繋いだ手のひらがスゲー熱く感じる。
俺のドキドキがみょうじに伝わっちまったらどうしようとか、そんなことしか考えられねぇのに、この手を振り払われねぇで良かったと思う。
そんなことされたら、俺たぶん立ち直れねぇ…。


「みょうじは、怒ってねぇのか?」
『怒るって何に?』


ホント、情けねぇ。
みょうじの顔見るのが怖くて振り向けねぇなんて。


「…文化祭で俺がキスしちまったこと」
『怒ってないよ?』


マジで?
俺あんなことしちまったのに?


『それより、工藤くんに避けられてる今の方が、ツラい、かな』


消えちまいそうなくれぇ弱々しい声に、そんなに不安にさせちまったのかと、自分を殴りたくなった。
ほんの少し、本当に少しだけ握った手に力が加わったのが分かって、離れねぇように、離されねぇように繋いだ手をしっかりと握り直した。

好きだと言えたら、どんなに楽だろう。
でも、もう俺はジュリエットに愛されてるロミオじゃねぇし、拒絶されるのが怖くて、簡単に告白するなんて度胸もねぇ。

だから、どうやったらあのキスを許してもらえんのかずっと考えてたんだ。
答えなんか出なかったけど。


『じゃあさ、』
「ん?」
『次の練習試合で工藤くんが活躍してくれたら許してあげる』


みょうじの言葉に思わず振り返る。
みょうじはいつもみてぇに優しく微笑んでいて…マジでそんなんで許してくれんの、か?
だったら、


「オメーの為に得点稼いでやるよ」


それでみょうじが許してくれんなら、喜んでくれんなら、いっくらでも点数入れてやっから。

だから、だから…俺から離れていかねぇでくれ。





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