『じゃあ、これよろしくね』
「サンキューな」
放課後、部活に行く新一に差し入れ分のお菓子を預かって貰った。
あたしは例の如く、教室からの見学です。
今日は園子も帰ったし、ゆっくりサッカー部の見学が出来ると思ってたのに、なかなか始まる気配がない。どうしたんだろう?
「なまえ!」
『あれ?新一、どうしたの?』
ガラッと教室のドアが開いたかと思ったら、ユニホーム姿の新一がいた。あれ?部活は?
「先輩がなまえ連れて来いって」
『え?何で?』
「今日ミニゲームすっから、どうせなら特等席で見学しないかっつってたんだけど…どうする?」
『もしかして、なかなか部活が始まらないのってあたし待ちだったりするの?』
「おう」
うわぁー。あたし、何て迷惑なヤツなんだと軽く血の気が引いた。
鞄を持って急いで新一とグラウンドへと向かう。
『お待たせしました!』
「あ、いいっていいって。それより差し入れありがとな。工藤から聞いたと思うけど、ミニゲームするから見学して行ってよ」
『はいっ!』
って言っても、周りのギャラリー差し置いて、一人だけマネージャーさんたちのところで見学するのって結構勇気入るんですけど。
マネージャーさんのお手伝いをしようにも、マネージャーの仕事どころかサッカーのルールが分かってないあたしに出来ることなんかある訳もなく、一人のんびりと試合を見ていた。
んだけど、何かオカシイ。いつもと新一の雰囲気が違う。
「おい!工藤!何やってんだよ!ボール回せって!!」
先輩のその声にガマン出来なくなったあたしは隣にいるマネージャーさんに声をかけた。
『あの、お仕事中すみません』
「なぁに?なまえちゃん」
『新一が強引にいってる気がするんですけど、気のせいですか?いつもならうまくパス回したりするのに、何か周りが見えてないっていうか…』
「さすがよく見てるわね」
少し驚いた表情をした後、マネージャーさんは笑顔になった。
けど、ついでに余計なことまで叫んでくれた。
「工藤くん!なまえちゃんも工藤くんが周り見えてないのに気付いて不安がってるわよ!」
『ちょ!先輩!』
「いいのいいの。このくらい言った方が彼、気合い入るから」
その言葉が本当だったかどうかはともかく、休憩を挟んだ後の新一はいつもの新一だった。
相手のディフェンスを巧みに交わして、ボールを繋げてゴールを目指す。
前半の余裕のなかった新一じゃなくて、本当に楽しそうにサッカーをしていた。
だから、あたしも安心して試合を見ることが出来た。
『新一、いっけーっ!!』
気がついたら、チャンスボールで新一がシュートを決める時には叫んでしまう程に試合にのめり込んでいた。
シュートが決まると拍手を送りながら、ナイスシュート!って喜んでいたら、マネージャーさんにクスクスと笑われてしまった。
『あ、すみません。煩かったですか?』
「ううん。違うの。なまえちゃん楽しそうに試合見てるなぁって思って」
『実はサッカーってルールもよく分かってないんですけど、』
「うん?」
『帝丹のサッカー部のサッカーは見ててワクワクするんです。みんな楽しそうにボール追ってるので』
「そっか。それは良かったわ」
最高の誉め言葉ねって、先輩はあたしの頭をポンポンと撫でてくれた。
なんか恥ずかしい…。
そんなことをしてる内に今日の部活は終了となった。
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