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次の日の放課後、お菓子の材料を買いにスーパーへと行ったら、とんでもない偶然が起こった。


『えーっと、後は林檎だけ、かな?』

「なまえ?」

『え?』


どこかから自分を呼ぶ声が聞こえた気がするんだけど、気のせい、かな?


「やっぱなまえじゃん!」

『黒羽くん!?』


にっこにこ笑ってこちらへ走ってくるワンコ、もとい黒羽快斗。
一体どんな偶然だ。
ってか何でこんなとこにいるのよ?


「うっわ!何そのカゴ!めちゃくちゃ重そうなんだけど!?」

『あ、今度お菓子作るからその買い出しに来たの』

「菓子!?いいなー。俺もなまえの手作り菓子が食いてぇ!」

『帝丹生だったら食べれたのにね』

「ずりー!俺も食いたいっ!!」


やんわりと断ったんだけど…これってもしかして作るって言うまで帰してもらえない系?


「なぁなぁ、俺にも作ってくれよっ!」

『んー…簡単なのでいい?』

「マジで!?作ってくれんの!?やったね!」


いや、あんたさっきまであたしの腕振ってわっさわっさと騒いでたじゃない。
それが鬱陶しくなっただけなんだけど。


「じゃあコレ、俺が持ってやるよ!」

『え?いいよ。重たいでしょ?』

「だって、これから菓子作ってもらうし!」


あんた、このまま直で作れって言ってたんかい!
今度作ってくれって意味じゃなかったの!?


「うわっ、やっぱコレ重めーな」

『だからいいって言ったのに』

「こんな重てーもん、女のコに持たせるわけにはいかねーだろ?」


他には何か買うもんねぇのか?って先を歩き出したワンコにもういいや、と全てを諦めた。

初日に逃げたのはやっぱり正解だったらしい。
ただ、あの日、リクエストを受けたのが失敗だった。
まさか既に懐かれてるとは!


「じゃあ、さっそくなまえん家行こうぜ?」


会計を済ませて、荷物を詰めれば当たり前の様に全ての荷物を持ってくれたワンコ。
…便利かもしれない。


「へぇー、ここがなまえん家なのか。学校から近けぇんだな」

『まぁね』


しまった!
家を知られるっていう事実を忘れてた!
でも、ここまで来ちゃったんだからもう遅い。
仕方なく、ワンコを家へと上げた。


「なぁ、オメー家族は?」

『え?見て分かんない?一人暮らしだけど』


部屋をキョロキョロと見てるワンコを放って置いて、さっそく材料を出して作り始めたあたし。
ワンコはそれを察知するとすぐにあたしのいるキッチンテーブルへとやって来た。
興味深そうにあたしの手が動くのを見てる。


『珍しい?』

「俺、母親と二人で暮らしてんだけど、俺ん家で手作り菓子とか出ることねぇからさ」

『今日はホントに簡単なヤツ作るけど、文句言わないでね?』

「おう!」


急に家に押し掛けてきたワンコが悪いんだ。
久しぶりに作るモノだけど、あたしが初めて作ったお菓子で何度も作ったことのあるヤツだから大丈夫だろう。
シャカシャカとフォークで型に流した生地にZを数回書いてると、ワンコが不思議そうな声を出した。


「それ、何してんだ?」

『さっきココアの生地を挟んで型に生地流したでしょ?綺麗なマーブル模様になるようにしてるのよ』

「スゲー!それだけでマーブル模様になんのかよ!?」

『模様は毎回違うけどね』


最後の仕上げにスライスされたアーモンドを散らして、温めていたオーブンへと入れた。


『後は焼き上がるのを待つだけだよ。その間に後片付けしちゃうね』

「スゲーっ!なんかあっという間だった!」

『だから簡単なヤツだって言ったでしょ?』


でもスゲーって!ってさっきからオーブンレンジの前を陣取って動かないワンコ。

頼むから途中で開けたりするなよ?
とか不安にもなったけど、残り時間を時々確かめてる辺り、きちんと待つつもりではいるようだ。

片付けも終わって、紅茶を出したんだけど、ワンコはやっぱりオーブンが気になるらしい。


「あっ!鳴った!開けていいか?」

『熱いからあたしが出すよ』


って言ってる間に開けてるし!人の話を聞けっ!!


「すっげーいい匂いがするっ!」

『ほら、切って出してあげるからちょっとどいて』


素直に退いてくれたワンコにオーブンから出したパウンドケーキを二切れお皿に入れて、ワンコの前に差し出した。
残りは持って帰れるようにアルミホイルで包む。


「うんめーっ!」

『これ、1週間くらいは日持ちするし、冷めても美味しいから残りは持って帰ってね』

「いいのかよ!?」


いや、寧ろうちにあっても困るから、そこは素直に持って帰ってくれ。
まぁ、キラッキラした瞳であたしが差し出した袋を受け取った辺り、ちゃんと持って帰ってくれるんだろう。


「今日はありがとな!」

『急にお菓子作れって押し掛けて来たのはキミが初めてだよ』

「じゃあ、今度はちゃんと連絡すっから携帯の番号教えてくれよ!」


しまった!こいつこれが狙いだったのか!
携帯を出すかどうか悩んだけど、教えるまで帰りそうにないワンコに仕方なく携帯を差し出した。

手慣れた仕草で赤外線通信で番号を勝手に登録してるワンコを見ながら、連絡が来ないことを切に願ったけど、ワンコが帰って数分としない内に初メールが届いた。



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