『これ、差し入れと文化祭の時のお礼です』
「わざわざ良かったのに…うちのヤツらがでしゃばったせいで、気を遣わせちゃったかな?」
『いえ、あたしのキモチなんで、試合が終わったら皆さんで食べて下さい』
「じゃあ今日もスタメンの奴らに発破掛けとくか」
『応援してるんで頑張って下さいね!』
早く園子のとこに行かなきゃ試合始まっちゃう!
「全員集合ー!」
「何すか?」
「工藤の思い人からさっき差し入れをもらった!」
「ちょ、先輩!何言って」
「ちなみに、文化祭でビラ配りを手伝った奴らには別途でお礼だと預かってる!」
「ラッキー!」
「但し、今日の試合でだらけた奴にはやらんからそのつもりでやれよ!」
「「「ウィーッス!!」」」
「ついでに工藤!」
「はい!」
「思い人が応援にわざわざ来てくれてるんだから、思いっきり暴れて来い!」
「はいっ!」
「よしっ!万が一工藤が活躍しなかったら…そうだな。文化祭の日のヤツまたやるか」
「…」
「そりゃあいい!」
「工藤!トチっても構わねぇぞ!」
「精一杯頑張りますっ!」
二度と先輩たちに遊ばれてたまるかっ!!
それに今日はみょうじが見に来てんだ。
許してもらえるかどうかが掛かってんだ!
ヘマなんか出来っかよっ!!
「なまえ!なまえっ!新一くんたち出てきたわよ!」
『あちゃー。工藤くんえらく緊張してるねー』
「(そりゃあ、あんたにいいとこ見せたいからでしょ)」
『あたし、工藤くんがサッカーやってる時の生き生きした表情好きなんだけどなぁ』
「えっ?」
(もしかして新一くん脈アリなの!?)
『工藤くんボール追っかけてる時、すっごくキラキラしたいい顔してると思わない?』
「そう?」
『うん。放課後、教室でたまにサッカー部の練習見てるんだけどさ、見てるこっちまでワクワクするような顔してるんだよねぇ』
「ふぅーん。そうなんだ?」
(新一くん、なんか脈アリっぽいから今日の試合頑張りなさいよっ!)
あたしたちのお喋りが終わった所で、ちょうど試合開始のホイッスルが鳴った。
結局試合は3―2で帝丹が勝った。
工藤くんは1ゴール、2アシストで全部の得点に絡む文句なしの活躍ぶりだった。
to:工藤新一
sb:おめでとう!
今日の試合カッコ良かったよ!
いつ終わるか分かんなかったから、とりあえずメールだけして帰るつもりだったのに、5分もしない内に返信が来た。
from:工藤新一
sb:約束
守れたよな?
直ぐに着替えて帰るから校門で待っててくれ
了解って短い返事だけして、園子に先に帰ってもらったら、相当急いで着替えたのか、制服がかなり乱れてる工藤くんが息を切らせてやって来た。
『そんなに急がなくても、ちゃんと待ってたのに』
「いや、なんか、待たすの、悪ぃし」
一単語が息が続く限界らしい。
一体どれだけ急いで来たんだと苦笑が漏れた。
『とりあえず汗拭いたら?』
「おう」
カバンからスポーツタオルを出して乱暴に拭いていた。
まぁ、とりあえずはそれでいいんだろうけど…
『はい』
「えっ?」
『スポーツドリンク。喉渇いてるでしょ?』
「サンキュー」
ごくごくと音が聞こえる程に一気に半分ほど飲むとやっと呼吸も落ち着いて来たらしい。
「先輩たちが来たら厄介だから、早く帰ろうぜ」
『え?』
工藤くんはやっと落ち着いた所だというのに、あたしの手首を掴むと走り出した。
先輩方が来たら厄介って何かあったのかな?
ある程度走ると、速度を緩め、やっと歩き出した工藤くん。
と言ってもあたしのマンションはもうすぐそこなんだけれど。
「今日のレモンパイも旨かったからさ、」
『うん?』
「また差し入れしてくんねぇか?」
『いいよ?工藤くんが試合の日程教えてくれたらね』
「っし!」
『?』
今日の工藤くんはこの前とは違った意味でどこかオカシイ。
一体どうしたっていうんだろう?
試合でテンションが上がってるのかな?
「それと、さ」
『なぁに?』
「俺のこと、名前で呼んでくれねぇか?」
『新一くん?』
「じゃなくて、呼び捨てで!」
『新一?』
「っし!ついでに俺もみょうじのこと名前で呼んでいいか?」
『いいよ?あたし元々苗字で呼ばれるの嫌いだし』
「じゃあ改めてよろしくな!なまえ!」
『うん。よろしく?』
一体何がよろしくなのか、さっぱり分からなかったけど、差し出された手を取りながら、工藤くん…じゃなかった、新一が何を考えてるのか考えてみた。
けど、結局いつもと違う新一に疑問が浮かぶだけで。
ホントに何があったんだ?
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