いつもは先生に送ってもらう帰り道。
今日は工藤くんが送ってくれるとのこと、だったんだけど。
「…」
『…』
「…」
『…』
沈黙が苦しいです。
『ねぇ、工藤くん』
「!?」
『声かけただけでそんなにビックリしないでよ』
もう苦笑いしか出ない。
これは確実にあたしを避けてる。
そのくらいは分かるんだから。
『もうココでいいよ』
「え?だって」
『あたしと一緒にいるの嫌なんでしょう?』
「違っ!」
『先生の家出てから一言も話さないし、先生の家でもずっとあたしのこと避けてたじゃない。
嫌々送ってくれなくてもいいよ。まだ明るいし、一人で帰れるからさ』
「ちょっと待てって!俺はっ!」
『…腕、痛い』
「わ、悪ぃ…」
とっさに捕まれた腕にまだ鈍い痛みがある。
全力で、あたしを止めようとしたのはわかる、けど。
『今日の工藤くん、何か変だよ?』
「…」
『あたしのこと避けてる』
「違っ!それはっ!」
『あたしのこと避けてる人と一緒に居ても、苦しいだけだよ』
「…」
『あたしのこと、嫌いになった?』
「違ぇっつってんだろ!」
急に工藤くんが大きな声を出したからビックリした。
何か困惑した表情してるけど、訳が分からないのはこっちだよ。
工藤くんは理由すら教えてくれないんだから。
「ほら、帰っぞ」
『うん』
さりげなく繋がれた手だけが、あたしたちを繋いでるようで、何だか心許ない。
簡単に離れてしまいそうで、離れたらもう繋がることはないような気さえする。
そんなことを考えていたら、なんだか涙が出そうになった。
きっと、ジュリエットで感情を出しすぎたんだ。
ごちゃごちゃしてる感情の仕舞い方が分からない。
ジュリエットは真っ直ぐで恋愛に全てを注ぐ熱い性格をしていた。
不器用なあたしとは正反対だ。
「みょうじは、」
ずっと黙って前を歩いていた工藤くんが、急に話し出した。何?
「怒って、ねぇ、のか?」
『怒るって何に?』
「…文化祭の劇で、俺がキスしちまったこと」
『怒ってないよ?』
「…」
『それより工藤くんに避けられてる今の方が、ツラい、かな』
ほんの少しだけ工藤くんの手を握る力を強くしたら、工藤くんはそれ以上の強さでしっかりとあたしの手を握り返してくれた。
「どうしたらいいか、分かんなくてさ」
『うん?』
「劇の後からずっと考えてたんだけど、許してもらえる方法が分かんなかった」
工藤くんはずっと前を向いたままだから、その表情は分からない。
けど、工藤くんがそのことを真剣に悩んでくれていたのは分かった。
だから、
『じゃあさ、』
「ん?」
『次の練習試合、差し入れ持って見に行くから、工藤くんが活躍してくれたら許してあげる』
工藤くんがやっと振り向いてあたしを見てくれた。
あたしは別に怒ってないんだから許すも何もないんだけど、それじゃあ余計に工藤くんに気を遣わせそうだったから。
だから代案を出した。
「そんなんでいいのかよ?」
『今の工藤くんじゃ試合に出してもらえるかもわかんないよ?』
サッカーのことは分からないけど、バスケならメンタルも大事だから斑のある選手は出さない。
これがスポーツ全般に言えるなら、今の工藤くんじゃ出してもらえないと思う。
「ぜってー得点決めてやっからちゃんと見とけよ?」
『大きく出たね』
「明日から練習中余計なこと考えねぇで本気でやっから、レギュラーで試合出て、オメーの為に得点稼いでやるよ」
『…』
もう慣れたはずの工藤くんのキラキラスマイルにドキドキが止まらない。
さっきまで人の顔も見れなかったクセに、急にキラキラスマイルとか反則だよ。
工藤くんが元気になった頃、タイミングよくあたしのマンションに着いた。
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