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学校が終わった夕方、あたしは先生の家に行くという園子たちとの約束を有言実行していた。


『お邪魔しま「なまえちゃーん!いらっしゃーい!!」ゆ、有希子さん、ぐるじ…』

「あら、ごめんなさいね。あたしったらまた」

『いえ、大丈夫です』


肩で息をしながらも、玄関先でこれをやってこそ工藤邸に来たって頭にインプットされてしまってるんだから、これがないと意外と寂しいのだ。


『今日はバナナタルトを作って来ました』

「まぁ!久しぶりになまえちゃんの手作りお菓子が食べれるのね!新ちゃんはまだ帰って来てないから、ゆっくりして行って頂戴!!」

『はい、お邪魔します』


でも、何でここで工藤くんの名前が出たんだ?
あたし、工藤くんが部活の時間を狙って来たんだけど。


「やぁ、なまえ君。うちに来てくれるのは久しぶりだね。今、珈琲を淹れて来るから、リビングでゆっくりしていてくれるかい?」

『ありがとうございます』


先生のお言葉に甘えて、今日はお客さんをすることにした。
先生の淹れて下さる珈琲のいい香りがしたと思ったら、ちょうど有希子さんもタルトを切って来てくれて、久しぶりに3人でのお茶会が始まった。
のだけれど、


「ね!このなまえちゃん可愛いでしょ!?」

『…』

「こっちの新ちゃんとのツーショットもオススメかな?」


どうして文化祭の写真がこんなに並べてあるんだろう。
寧ろ、何故こんなに写真を撮ったんですか?

ざーっと見る限りでも、あたしと工藤くんの出演シーンは全部あるように見えるんですが。


「ねぇねぇ、なまえちゃんはどれが良いと思う?」

『あたしに写真の話を振らないで下さい…』

「なまえ君の歌のシーンとラストのシーンはきちんと動画で残してあるからね」

『あはは…』


寧ろ全部録画してるんですよね?
反応を見てれば分かります。
消去させてもらえませんか?


「なまえ君の恋人を亡くしたと聞いてからの演技は素晴らしかった!」

「あら、ロミオと恋に落ちたシーンも良かったじゃない!」


夫婦でとてつもなく下らないケンカをしているお二人…。
そんなのどっちでも良いですから。


「でもやっぱり一番は」

「新ちゃんとのキスシーンよね!」


こんな時だけ息を合わせないで下さい!
思わずカップを落としそうになったじゃないですか!


『あれは工藤くんのアドリブで…』

「でもあのシーンは良かったわよ?ロミオがどれだけジュリエットを想ってるかが伝わって来たもの。台詞付きじゃあ、あのロミオの熱いキモチは伝わらなかったと思うわ」

『そうですね。台詞があったのはほとんどあたしですし』

「でしょう?腕の中に閉じ込めて離さない、なんてロマンチックじゃない?」

『実際は抱き締められた力が強すぎて、苦しくて痛くて大変だったんですけどね』


工藤くんが段々腕の力強めるから!


「ただいまー。誰か客来てんのか?…って、みょうじ!?」

『工藤くん、部活お疲れ様』

「お、おう…」


ドアの所で立ち尽くしてる工藤くん。
入ってくればいいのに、何してるんだろう?


『差し入れ持って来たついでに文化祭の写真見せて貰ってたの』

「!?」


文化祭って単語を聞いた途端にカバンを放り投げて、いつぞやのあたしを彷彿させるスピードで写真を回収した工藤くん。
ホントに何やってるんだろう?
何か顔も若干赤いし。


「新一、お前がなまえ君にキスした写真ならここにあるぞ?」

「寄越せっ!他にはもうないだろうな!?」

『今見てたのはそれで全部だよ?』


それで安心したのか、工藤くんは、ふぅ、と安堵の息を吐いた。


「さぁ、なまえちゃんが持って来てくれたバナナタルトよ。新ちゃんの分は大きく切って上げたから!」

「…」


顔を軽くひきつらせた工藤くんに、あたしの方が不安になる。


『もしかして工藤くん、バナナ嫌いだった…?』

「え?いや、そういうわけじゃねぇけど」

『なら良かった。嫌いなモノとか苦手なモノがあったら言ってね』


安心してにっこりと微笑むと工藤くんに思い切り視線を逸らされてしまった。
あたし、何かした、かな…?


『なんか工藤くん、あたしが居ると落ち着かないみたいなので帰りますね』

「ちょっと待った!」


帰ろうと立ち上がった所で、工藤くんに腕を捕まれた。
と言ってもすぐに離されちゃったけど。


『なぁに?』

「これ食ったら送ってく、から。もう少し居ろよ」

『居てもいいの?』


返事の変わりに小さく頷かれたのを見て、あたしはもう一度柔らかいソファーに身を委ねた。

今日の工藤くんはどこからどう見てもオカシイ。
先生と有希子さんを交互に見るけど、にっこにこしてるだけで理由を答えてもらえそうにない。

一体どうしたって言うんだろう?

何だかあたしだけが蚊帳の外でそれがちょっとだけ寂しい。。


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