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(番外編)新一side


練習を始めた時から違和感はあったんだ。
口調が違うのは台詞を言ってんだから当たり前だけど、それとは違う何か。
何かがいつものみょうじとは違うのに、その何かが全く分かんなくて、俺はイラついていた。

まぁ、園子に連日怒鳴られっぱなしっつーのもイライラしてる原因の一つではあるんだろうけどな。

制服はいつもと変わるはずもねーし、劇の練習以外ではいつものみょうじだったから、俺の勘違いかとも思ってたんだけど。


「なまえちゃんってスゴいよね。演技経験でもあるのかな?」
「あたしも思ってた!みょうじさんの演技って何ていうの?普通なんだけど、瞳が違うんだよね!」
「そうそう!ロミオに恋してから恋する乙女の瞳なんだよねっ!しかもさ」


恋する乙女の瞳?
何だそれ?

普段のみょうじと何が違うんだよって、じーっとみょうじの瞳を観察していたら、くるっと振り向かれて視線がぶつかった。
あ、れ?


『どうしたの?人の顔じっと見て。何かついてる?』
「いや、何も」
『そう?』


園子と演技のことについてあれこれ言ってるのは普段のみょうじだ。
さっきまで演技してたジュリエットじゃない。
さっきまでのみょうじと何か分かんねーけど、確かに瞳が違う気がした。


『あぁ、ロミオ。貴方はどうしてロミオなの?貴方の父は貴方にとって父ではないと言ってくれたら!そして、貴方の家の名など捨ててくれれば良いのに。それとも、それが嫌だというのなら、せめて私を。私を愛していると誓ってくれれば良いのに…。そうすれば私は今日限りキャピュレットの名を捨てるでしょうに!』


やっぱり違う。さっきまでのみょうじの瞳じゃねー。


「ほら、何やってんの!新一くんの出番でしょうが!ロミオが出ていかないと、ジュリエットの愛の誓いは止まらないんだからね!」
「お、おう」


いつの間にか長いジュリエットのシーンは終わっていたらしい。


『貴方は誰?そんな夜の闇に紛れて人の秘密を立ち聞くなんて!』
「名乗るべき名前がないのです。私の名前は尊い貴女の仇の名。紙にでも書いてあるのなら、そのまま破ってしまいたい!」
『まぁ!そのお言葉の響き、私はまだそのお言葉を百とは味わってはいませんが、声にはっきりと聞き覚えがあります。ロミオ様なのですね!』
「…」


俺をまっすぐに見つめているみょうじの瞳から迷いや不安が消えた。
これが“恋する乙女”の瞳、なのか?

その瞳を正面から捉えた瞬間、俺の心臓が勝手にドクンと強く脈打った。
この感じには覚えがある。
普段のみょうじにも何度か感じたことがある感覚だ。


「新一くん!」
「…」
「こんのバカ!」
「イッテーな!園子、テメー何しやがる!」
「何しやがるはこっちの台詞よ!いつまでなまえ見つめたまんまフリーズしてんのよ!このバカタレっ!」


ヤベッ。今が稽古中だってこと忘れてた!


『工藤くん、何か別のこと考えてたみたいだよ?練習中なの忘れてましたって顔に書いてあるもん』


俺を指して可笑しそうにみょうじがクスクスと笑ってる。
もういつものみょうじの視線だ。
それがなんでこんなにも寂しいんだ?


「新一くーん?キミは本番まで後何日か覚えてるのかしら?」
「約一週間、だな」
「全部台詞覚えてるなまえと違って、サッカーの練習があるからってたまに抜けてた新一くんがちゃんと台詞覚えてるかどうか確認する為に、今新一くんが出るとこ集中的にしてたんだけど?」
「…悪ぃ」
「講堂使っての通し稽古までだと後4日なんだけど?」
「スミマセンデシタ」


園子のヤツ、こっちがちゃんと謝ってんのに思い切り叩いて行きやがった。
確かに稽古中に上の空だった俺が悪ぃけど、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?


「寝ぼけてる新一くんの目覚ます為に一旦ラスト行くわよー!」
『ちょっと、何でそうなるのよ?』
「なまえが泣いたらどうせこやつはフリーズすんだから、先に終わらせとくのよ」
『何よそれ』


…言い返せねぇ。
ロミオを思って、つまり俺を思ってみょうじが泣いてんだと思うと体が固まっちまうんだよ!


『あぁ、ロミオ様…』


今日もみょうじは跪いて静かに涙を流す。
やっぱり今日も俺は体が固まって出て行くことが出来なかった。



こんなんで俺、本番大丈夫かよ?




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