『ありがとうございましたー』
あの後、なんとか無事にカーテンコールも終えたあたしたち役者陣は今は手分けして出口でお礼を言ってます。
約一名、耳どころか首まで真っ赤にして撃沈してる人がいるけど知るか。
っていうか、お前からしてきたんだろーがっ!!
普通そうなるの女のあたしの役だからね!?
「なまえちゃーん!」
『あ、有希子さん!見に来て下さってありがとうございました!』
「良かったわよー!もう最後なんてっ!!」
むふふとニヤニヤを通り越してニマニマしてる有希子さんに、あたしの頬がひきつった。
いや、あれ台本にはなかったですからね?
工藤くんのアドリブですよ?
「あれー?新ちゃんもここだと思ったのに違うのー?」
『工藤くんなら後ろの隅っこで打ち拉がれてるんで回収してもらえますか?はっきり言って邪魔なんで』
仮にも主役をはった人に向かってヒドイ言い種だろうが、ホントに邪魔なんだから仕方ない。
そんなになるんならしなきゃ良かったじゃんか。バカ。
「よーっ!なまえ!」
『あ、黒羽くん。ホントに来てくれたんだ?』
「あったりめーだろ?ホラ、約束の花」
『ありがとう。でも花束って約束じゃなかったっけ?』
目の前にあるのは一輪だけリボンしてあるバラの花だ。
これはこれで嬉しいんだけど。
花なんて貰ってないし。
「今度はちゃんと見とけよ?1、2、3!」
『うわぁ!』
何をどうしたのか全く分かんなかったけど、一輪のバラが花束になった!
凄いスゴい!!
「ほれ。お嬢様?」
『ありがとうっ!』
うわぁ!なんかホントにヒロインになった気分だ。
(いや、実際ヒロインしたんだけど)
花束貰えるとか口約束だと思ってたのに!
じゃあ、また今度な、なんて言って黒羽快斗は退場したけど、今度なんて存在するのか?
「なまえ君」
『先生!わざわざ来て下さったんですか!?』
「なまえ君の晴れ舞台なんだ。当たり前だろう?」
先生の後ろには先生の体では隠し切れていない花束が見えた。
嬉し過ぎて既にあたしの表情が緩んでるのが分かる。
『蘭、これちょっと持ってて!』
「え?いいの?」
『いいからいいから!』
「優れた女優には花を渡すものだからね」
『ありがとうございます!』
「まぁ、私のは二番煎じになってしまったようだが…」
『先生からのが一番嬉しいですよっ!』
「そうかい?」
『はいっ!』
今は舞台でも見せなかった笑顔な自信あります!
「ところで、うちの愚息はどこにいるのかな?」
『あ、あそこで小さくなってるのがそうですよ?』
「ほう。ちょっと寄ってくるか」
工藤くん、有希子さんに加えて先生もそっちに行くみたいだよ。ガンバレ。
「なまえ、花束貰っちゃうなんてスゴいね!」
『あの二人が特別なんだよ』
「そんなことないと思うけど?ほら」
『え?』
「なまえちゃん、お疲れ様!これサッカー部の皆からね!」
『ありがとうございます!』
まさかサッカー部の先輩方まで準備してくれてるとは思わなかった!
どうしよう。すっごく嬉しい!!
「ところでさ、工藤のヤツ、今ドコにいるか分かる?」
『え?』
確認してみるとどうやら有希子さんも先生ももう帰ってしまったみたいだったので、そのまま場所を教えるとサッカー部ご一行様が未だに打ち拉がれてる工藤くんの元へと行ってしまった。
お疲れ様でも言いに行ったのかな?
「新一も大変だね」
『何が?』
「何がってなまえ…」
『それより、この花束どうしよっか?うち、こんなに飾れないし…第一持って帰れないよ。皆で分ける?』
「…」
蘭が何だかあたしをじーっと見た後に深いため息を吐いたけど、結局その理由も分からないままに一旦着替える為に控室へと戻ることになった。
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