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「ったく、何だってあそこに先輩たちが来るんだよ!」

『まだ言ってるの?代わりにチラシ配ってもらえたんだからいいじゃない』


ぐしゃぐしゃと未だに髪を掻いていた工藤くんの髪を手櫛で整える。
もうここは既に舞台裏。緞帳が上がれば開演なのだ。
キモチを切り替えてもらわなくちゃ困る。


「ロミオとジュリエットは準備OK?」

『あたしは大丈夫だけど、工藤くんがヤケ起こしてまーす』

「ちょっと、新一くん!しっかりしてよね!本番は一回キリなんだから!」

「わーってるよ!」


聞こえてくるざわめきを聞く限り、かなりの人が来てくれてるらしい。
…これでトチったら笑い者だな。


「それじゃあ始めるわよ!みんなスタンバって!」


園子の一声で舞台裏が一気に緊張した張り詰めた空気に変わった。

客席も舞台も真っ暗なまま緞帳は上がり、ナレーションが入る。


――昔、イタリアの都市ヴェローナの2大名家と言えば、共に富豪である、キャピュレット家とモンタギュー家とされていました…


これでもう後戻りは出来なくなったけど、工藤くんは大丈夫かな?

蘭への熱い愛を語って、無事にキャピュレット家のパーティーに忍び込むことになったロミオ。

あたしの出番もそろそろね。


パーティー会場になっている背景を通り過ごして、庭園を作った舞台の下手へとゆっくりと歩いて行く。


『はぁ。パーティーなんて疲れるだけだわ。今宵はこんなにキレイな月が出ていると言うのに!歌を歌えたならどんなにキモチがいいでしょう』


♪〜♪〜♪


ガサカザ


『そこにいるのは誰?』

「素敵な歌声に導かれて此処まで来てしまいました」


音のした方を振り向けば(もちろん音響なんだけど)ロミオが茂みから出てくるところだった。


「貴女の澄んだ歌声は私の憂鬱なキモチを洗礼して下さった」


あたしの手を取って工藤くんの台詞が続く。


「もし私が触れたことでこの手を汚してしまったのであれば、償いの為に接吻を送らせて下さい」


客席からキャーっという黄色い悲鳴が聞こえる辺り、工藤くんのファンが卒倒してるのかもしれない。
でも、このくらいで卒倒してたら、この後の求愛のシーンはどうなるんだ。


「ジュリエット様!ジュリエット様はいずこに!」

『ごめんなさい。呼ばれているので行かなくては』


ロミオの手を振りほどき、名残惜しいと言わんばかりに2度、3度とロミオを振り返る。


「ジュリエット様!」

『婆や!そんなに大きな声で呼ばれなくても直ぐに行きますわ!』


これで第一幕は終了。

この後、ロミオがジュリエットがキャピュレット卿の跡取り娘であることを知り、苦悩するが、ロミオはこの愛を捨てることが出来なかった。

スポットライトがロミオから外れてあたしを映す。


『あの方が憎い仇の一人息子ですって?そんな…。たった一つの私の愛が、たった一つの私の憎しみから生まれるなんて!…ロミオ様…あなたもきっと私を知らない。私がジュリエットだと。あのキャピュレット家の娘だと知ったらあなたは…それでも私を愛して下さいますか?』


ライトが消えたと同時にあたしも袖に下がり、舞台の背景が入れ替えられた。



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