『はぁ。疲れたー』
「なまえちゃん、お疲れ様!」
机にぐでーとだらしなく体を預けてると、明日香が労りの言葉をかけてくれた。
あの後、各教室を回った後に台本や歌を作ってくれてる班のところにも顔を出し、ついでに大道具を作ってくれている外にまで出かけたあたしはくたくただった。
何に疲れたって、周りの異常な盛り上がり様に。
大道具を作ってる講堂の裏に回った時にはドコで聞き付けたのか3年生のサッカー部の先輩方まで練習を中断して駆け付けてくれた。
ホント、晒し者週間再び、だ。
「ちょっと、なまえ!休憩してないで練習始めるわよ!」
『えー。今着替えた所なんだから、少しくらい休憩させてくれたって』
「却下!あんたはよくても新一くんの棒読み何とかしなきゃいけないんだから!ほら、教室行くわよ!」
この劇に相当情熱を注いでいらっしゃる様子の園子様は、あたしの腕を掴むと無理矢理あたしを連行した。
あたし最近よくこれヤられてる気がするけど気のせい?
「じゃあ、ラストのシーンの練習行くわよ!」
『はーい』
教室に戻ると出来上がったばかりのラストのシーンをやるとのこと。
って、ここほとんどあたししか喋らないじゃん。
『あぁ、ロミオ様。まさかロミオ様が事故に遇ってしまわれるなんて!』
シーンと静まり返った教室内にあたしの声だけが響く。
『もうロミオ様の瞳は私を映してはくれないのですね。もうロミオ様の唇は私の名を呼んでは下さらないのですね。
もうロミオ様にお逢いすることさえ叶わないなんて…』
手に持った空の小瓶(実際には毒が入っていることになっている小瓶)を握りしめて、最後の台詞を言う。
『争いのない場所へと一人で旅立ってしまったロミオ様…私もすぐにそちらへ参ります』
瓶を開け、飲もうとする所でロミオが飛び出してくる、はず…なんだけど。
来ないじゃん!
「カーット!ちょっと新一くん!何突っ立ってんのよ!出番でしょうがっ!」
「あ、悪ぃ…」
「でも分かる!なまえちゃんホントに泣いちゃうとは思わなかったよね!」
「あぁ、俺も見入っててドキドキしてたし!みょうじが死んじまう!って!」
急にざわざわと騒がしくなった教室内の空気に息を吐いて涙を拭う。
ったく、こっちは真剣に演技してるっていうのに。
工藤くん、何やってんだか。
「じゃあ、もう一回行くわよ?なまえ、準備いい?」
『いつでもどーぞ』
「スタート!」
結局何度やっても工藤くんはその場を動くことが出来ず、7回目のリテイクにも失敗した時に園子の怒りが爆発した。
「何やってんのよ!あんたが止めに入らないとジュリエットは死んじゃうのよ!?」
「そんくらい俺だってわーってるよっ!」
ぎゃーぎゃー言い合ってる二人の声を聞きながら、暢気に水分補給をしていたら、蘭と明日香が心配して来てくれた。
「なまえちゃん、大丈夫?」
『大丈夫って何が?』
「ほら、あんなに何回も泣いちゃってさ」
『あー、ちゃんと冷やさないと腫れちゃうかな?』
「そうじゃなくて…」
『うん?』
「なまえがホントに泣くと思ってなかったから新一も戸惑ってるんだろうけど」
『え?台本に「ジュリエット、静かに涙を流す」ってちゃんと書いてあったじゃない』
「それで泣けちゃうなまえちゃんがスゴいんだよ!」
二人の言いたいことがよく分からないまま、今日の練習も工藤くんが怒られたままに終了となった。
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