問題の土曜日、空き教室を使わせてもらって、着替えたあたしは望月さんにメイクしてもらっていた。
横には何故かピリピリしていらっしゃる不機嫌なロミオ様までいらっしゃいますが。
「なまえちゃんも大変だね」
『はい…』
「んだと?」
小声での会話もこの静かな教室では筒抜けだった模様です。
「ヒロインにこんなに気を遣わせる人が相手なんて大変だなぁって言ったんだよ」
「それはテメーがっ!」
「君が俺のことを嫌いなのは別に構わないけど、パートナーを不安にさせるもんじゃないよ。なまえちゃんだって初めての大きな役で不安なんだ」
チッと大きく舌打ちして工藤くんは教室から出ていった。
重たい雰囲気がなくなって、ふぅ、と思わず肩から力が抜ける。
『すみません。望月さんにまでご迷惑おかけしてしまって』
「なまえちゃんが気にすることじゃないよ。さぁ、仕上げしちゃおうか」
さっきまでのピリピリしてた雰囲気はどこへやら。
望月さんはいつもの優しい笑みを浮かべていて、何だかとても安心出来た。
もっとも、この後不機嫌なロミオ様とあちこち行かなきゃいけないんだと思うと気が重いのは変わらないんだけど。
「朔夜さーん!なまえの準備出来ました?」
「ちょうど今出来たところだよ。ほら。どうかな?」
「さっすが朔夜さん!完璧です!」
たいしてあたしを見もせずに園子が望月さんを大絶賛し出した。
あんた、あたしの様子見に来たんじゃなくて、望月さん見に来たんでしょ?
「可愛い監督さんに気に入ってもらえたなら良かった」
「可愛いだなんてそんな…」
「それじゃあ、俺は仕事があるからもう帰るけど、当日はよろしくね」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
おーい。園子さーん。
あんた、さっきからあたしの存在はムシですかい?
「じゃあ、さっさと教室に行くわよ!」
『不機嫌ロミオは機嫌直ったの?』
「朔夜さんも帰ったし、次期に機嫌直るでしょ」
そんなお気楽な…。
園子も一緒とはいえ、あの不機嫌ロミオと教室巡りするのはあたしなんだぞ?
「みんなー!我らがジュリエット様のお出ましよーっ!」
『園子!恥ずかしいから辞めてってば!』
教室の扉を開けるなり、大声を出した園子をたしなめる。
が、そんなことで止まってくれる園子様じゃない。
「ほら!新一くん!なまえと並んで!」
園子の後ろから工藤くんをこっそり見ると、クラスメートとのお喋りで機嫌が直ったのか、普段通りの工藤くんが笑いながらこっちへと歩いてきた。
良かった。不機嫌ロミオじゃなくなってる。
「ジュリエット、もう一度キミに会えるなんて夢のようだ」
なんて工藤くんが片膝をついてあたしの指手に口付けを落とす。
って、こんなシーンないからっ!
工藤くんが調子に乗った寸劇をしたのが良かったのか、クラス中から囃し立てられて、あたしの顔は真っ赤になったまま当分戻りそうもなかった。
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