藍那さんは仕事があるからと写真を撮るとすぐに帰ってしまったんだけど、それからが酷かった。
何がって工藤くん低気圧が。
「みんなへのお披露目って土曜日の練習の時にするって聞いたんだけど、それでいいのかな?」
『え?あたしは何も聞いてないですけど…。工藤くん、何か聞いてる?』
「土曜日の午前中に各クラスを回るんだとよ」
全くこっちを見ずに答えた工藤くん。
キミは会話をする時は相手の顔を見ると教わらなかったのか?
「ごめんなさいね、朔夜くん。新一がこんなんで」
「イッテーなっ!母さん何すんだよっ!!」
「新一が何時までもそんな態度取ってるからでしょう!?」
ずっと不機嫌な工藤くんを思いっきりバシンと叩いてしまった有希子さん。
有希子さん、これ以上工藤くんの不機嫌度数を上げないで下さい。
あたし、同席してるのイヤになるんで。
「それじゃあ、俺も今日は帰るよ。なまえちゃん、また土曜日にね」
『あ、はい』
「はぁ?オメー、学校にまで来るつもりかよ!?」
『望月さん、当日もあたしのヘアメイクしてくれるんだって』
「なまえちゃんの髪は俺がデザインする約束なんだ」
と帰り際になって望月さんが余裕の笑顔で工藤くんにケンカを売った。
あーあ、工藤くん拳握ってプルプルしてるし。
これ、どーすんの?
あたし知ーらないっと。
『それじゃあ、あたしも今日は』
「待てよ」
望月さんが帰ったのをきっかけにあたしも帰ろうとしたんだけど、ガシッと工藤くんに腕を捕まれてしまった。
何か嫌な予感が…っていうか嫌な予感しかしないんだけど?
『何かな?』
「俺の練習に付き合え」
『は?』
「ほら、行くぞ」
『えっ?ちょっと待って!』
あたしの言葉を完全にムシして、工藤くんは自分の部屋まであたしを連行した。
でも、工藤くん低気圧は恐ろしいくらいに威力が残っている。
お願いだから、今日はこのまま帰らせて!
せめてもっと工藤くんの機嫌が良いときに!
「ほら、台本出せよ」
『…』
「みょうじ?」
『はい…』
ダメだ。ここは逆らわない方が無難だと危険信号が鳴っている。
そのまま絶好調に不機嫌な工藤くんと台本の読み合わせを始めた。
あたし、こんなロミオに恋出来ない…。
「さっき、」
『え?』
淡々と台本を読み進めていた工藤くんが、急に話し始めた。
なんだろう?
「さっき、あのヤローが」
『望月さん?』
工藤くん、キミが望月さんを嫌いなのはよーく分かったから、せめて名前くらいはちゃんと呼ぼうよ。
「あのヤローが、みょうじみてーなジュリエットなら自分がロミオやりたいとか抜かしやがって」
『へ?』
「だから俺!…いや、何でもない!」
いきなり顔を上げた工藤くんはあたしの顔を見るなり、視線を逸らしてしまった。何だ?
よく分かんないけど、とりあえず不機嫌具合はちょっとマシになったみたいだし、良かった良かった。
これで土曜日に何もなければ言うことないんだけどね。
あー、今から気が重いっ!
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