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結局、ワンコのリクエストが終わったのはそれから5曲程歌った後だった。

良かった。もうこのままリクエスト止まらないんじゃないかって真剣に思ってたもん。


「悪ぃな。こんな時間まで付き合わせちまって」

『ううん。あたしも歌いたい気分だったから気にしないで?』

「でも俺、歌がこんな風に心に染みてくる感じ初めてだった!」

『え?』

「なんか今まではこの曲調好きだなぁとか思って何気なく聴いてたんだけどさ」

『うん?』

「なんかオメーの歌は切ないとかドキドキとかワクワクとか全部が詰まってる感じがした!」


そう言ってワンコは実に爽やかに満面の笑みをくれた。

なんか、恥ずかしい。
こんな笑みを貰うのも、あたしの歌を手放しで絶賛されるのも、とにかく全部が恥ずかしかった。


『じゃあ、あたし帰るから』

「あ、おい!待てって!」


ワンコが後ろで何か叫んでた気もするけど、振り向きもせずにひたすら逃げるように走って帰った。

しばらく歌いに来るのは自重しよう。
そうすれば今日のことはなかったことになるはずだ。

見たことない制服だったし、他校生になんてもう二度と会うこともないだろう。

家まで全力疾走したあたしは体力が限界を迎えて、そのまま玄関に座り込んで息を整えていた。


『も、しもし?』

「みょうじ!?何かあったのか!?」

『あ、工藤くんか。ちょっと全力疾走して息が切れてるだけだから気にしないで』

「全力疾走ってオメー」

『で、何?』


下らない用件だったら一旦切って、落ち着いてからかけ直そう。
話すのが億劫なくらい未だに呼吸が落ち着かない。


「今日うちに来れるか?」

『え?何で?』

「明日代表者の集まりがあるって聞いただろ?あれって衣装持ち込みなんだってよ」

『は?何よそれ?』

「んだよ。HR聞いてなかったのか?」


…周りの文化祭熱に浮かされて、聞いていなかった気がする。


『ごめんけど、説明からよろしく』

「おー。明日投票前の最後のアピールやっから、代表者は衣装持ち込んで」

『アピールって何!?ヤだ!明日あたし学校休む!』

「最後まで聞けよ!アピールとかスピーチするのは推薦者、つまり園子だけで、俺らは立っとくだけでいいんだよ!」


晒し者になるのに変わりはないじゃないか。

何でそんなものの為に労力使わなくちゃいけないんだ。
明日から歌の癒しはないんだぞ?


「みょうじ?聞いてっか?」

『ごめん、よく聞こえない。電波悪いのかな?』

「そうか。じゃあ今から母さんそこに送り込んでやるよ。母さんのことだから新しいドレス買いに」

『これから工藤くん家に向かわせていただきます!』

「おう。待ってっからな」


と、工藤くんは電話を切ったけど、有希子さんを使うとかどんな脅しだよ。

はぁ、でもホントに有希子さん送り込まれても困るし、とりあえず顔だけでも洗って服着替えて出かけるとしますか。




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