それから、今日のことをお互いに報告しあってる頃には、工藤くんもすっかり元気になっていた。
「あー、良かったー」
『何が?』
「いや、みょうじがあの格好で家来てさ、俺だけがみょうじに気づかなかった時には、なんか俺だけ別の空間に取り残されたような気になってたんだよ」
『……』
「前に皆で食事行った時もそうだっただろ?だから、なんでオメーはいっつも俺を置いてくんだって思ってた」
『……』
「だから、この前のみょうじの涙の理由もなんとなくだけど分かった気がする」
『蘭から聞いたの?』
「おう…。悪ぃな。又聞きなんかしちまって」
『いいよ、気にしなくて。誰かに話すってことは他の人に知られる覚悟して話してるから』
「……」
本当に知られたくないことなら、あたしは誰にも言わない。
そう続けようとしたけど、工藤くんの顔を見たら言えなくなってしまった。
それは言ってはいけない言葉のような気がしたから。
「蘭も似たようなこと言ってたらしいけどよ…」
『ん?』
「父さんたちがみょうじを置いて行くってことはねぇと思うぜ?」
しばらく何とも言えない沈黙が続いた後、言いにくそうに工藤くんがその沈黙を破った。
「だって息子の俺から見てても二人ともみょうじのこと溺愛してるように見える…っつーか、そうとしか見えねぇし」
『…だね』
だから、甘えそうになるんだよ。
もう十分甘えてるのに、すがり付きそうになるんだ。
自分を止められなくなるのが怖い。
「みょうじが何に遠慮してんのか、俺には分かんねぇけど、もっと他人に甘えてもいいんじゃねーのか?」
『……』
「ほら、父さんも母さんも愛だけは人の何倍も持ってっから、みょうじが相当甘えたって応えてくれるって!」
『ぷは…』
「え?」
『あははははは』
一瞬あたしの考えまでお見通しなのかと思ってビックリしたけど、場違いなくらい真剣な表情で発せられたその変な理屈がツボったあたしは笑いが止まらなくなってしまった。
もう無理、これ絶対しばらく笑いが止まんない。
「みょうじ?」
『あははは…うん、ごめん、ちゃんと聞いてる…はははははっ』
「……」
心配そうにあたしを覗き込んでた工藤くんの眉が寄っていってるのがわかる。
そりゃあ、真面目に話してたのにこれだけ笑われたら気分も害するんだろうけど…。
ダメだ。本当に笑いが止まらない。
こんなに笑ったのっていつぶりだろう?
少なくても記憶に残ってないくらいには昔のことなのは確かだ。
笑い過ぎて涙まで出てきた。
『はぁー。やっと落ち着いたぁ』
「そーですかっ」
『ごめんって。そんなに拗ねないでよ』
「真面目な話してたのに急に大笑いしたのはドコの誰だよっ!!」
『ココのあたしだけど…だって工藤くんの言葉がツボっちゃったんだから仕方ないじゃない』
「オメーなぁ」
『あーもう。こんなに笑ったのいつぶりか分かんないや。ありがとね』
「お、おう」
先にお礼封じで工藤くんの文句を封じて、深夜のお喋り会はお開きになった。
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