『あたしが溺れてると思って助けに来てくれたんだ?』
気まずいのか、あたしと目を合わそうとしない工藤くんは、あたしがからかう様に言えばちょっと顔を赤く染めた。
「オメーが泳ぎに行ったって河野に聞いて後着いてったらどんどん沖へ行っちまうし。
急に見えなくなっちまったから潜ってんだろうとは思ったんだけど…いくら待っても出て来ねぇから潜ってみたら、オメーが腕伸ばすのが見えたから、その…溺れてるんじゃ、ない、かと……」
最初は普通に話せてた口調がだんだんと淀んでいくに従って、工藤くんは完全に下を向いてしまった。
あちゃ。
ちょっといじめすぎたかな?
『ややこしいことしちゃってごめんね?あたし水面を見てたんだよ』
「水面?」
『そう。海の中から見上げるとキラキラ揺れる水面が万華鏡みたいでキレイなの』
「へぇー…」
『工藤くんも見てみる?』
「え?」
『あたしのお気に入りの場所』
ちょっと悪戯っぽく誘えば、やっと工藤くんが元気になった。
人より長く潜れるらしいあたしは、誰かと泳ぎに行くと決まって溺れたんじゃないかと心配されるから一人で沖まで来たっていうのに、まさか工藤くんにつけられてたとは。
さっきから自分の失態に苦笑いしか出ないけど、「見せてもらおうか」と強気になった工藤くんに笑顔になる。
うん。君はそうやって自信満々な強気な顔してる方が似合ってるよ。
なんて、心の中で呟いてみる。
今度はあたしが工藤くんの腕を握って海の中へと繰り出した。
ある程度の深さまで潜ったところで工藤くんに合図して、二人して仰向けになる。
この空間に誰かがいるなんて初めての経験で、何だか寂しいようなくすぐったいような不思議な感覚だった。
あたしだけだったはずの空間に、今は君が居るんだ。
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