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『この方が書かれた本を読むのは、このシリーズが初めてですけど、最初の1冊でファンになりましたね。このシリーズが読み終わったら、別の本も読んでみようと思っています』


次のページを開きながら素直に感想を言ったのだけれど、目の前の男の人はクツクツと楽しそうに笑い出した。
…もしかして、怪しい人だったりする?

訝しげに小説から初めて顔を上げると、ビックリして心臓が止まるかと思った。
だって目の前にいたのは…


「こんなに可愛らしい熱心なファンがいるとは嬉しい限りだ」


さっきまであたしが読んでいた闇の男爵の作者、工藤優作だったんだから。


「驚かせてしまってすまないね。久しぶりにここへ来たら、マスターに君のことを教えてもらって少し話してみたくなったんだ」

「毎日時間を忘れる程、熱心に工藤先生の本を読んでるお嬢さんがいるって話したら、工藤先生が興味を持ったみたいでね」


驚き過ぎて、固まってしまったあたしに、いつの間に乱入したのかマスターも加わって事情を説明してくれた。

え?えっ!?
ってか、何でこんなところに工藤先生がいらっしゃるんですか!?


「実はここは私の隠れ家の一つでね」

「まぁ、簡単に言えば編集者から逃げて来てるってだけなんだけどね」


未だに口の開けないあたしを他所に、マスターと工藤先生は随分と楽しそうに会話を続けている。
って、そんなことより、


『す、すみませんでした!』


大先生を前に本を読みながら会話をするなんて無礼なことをしたことに今さらながらに顔から血の気が引いた。

慌てて立ち上がって頭を下げると、工藤先生は心底楽しそうに笑いながら、そんなに気にする必要はないよ。それだけ私の本に夢中になってくれていたんだから。と仰ってくれた、けど。


「いやぁ、それにしても、こんな可愛らしいお嬢さんに絶賛してもらえるとは作者冥利に尽きるね」


その言葉に今度は顔中に熱が集まった。
あたし本人目の前にして何偉そうに語ってたんだ!?

数分前のあたしカムバック!
そして黙れ!
何故声で気付かなかったんだ!あたしのバカヤロー!


穴があったら入りたいとは正にこのことをいうのだろうと、小さくなりながら、ふらふらと腰を下ろした。


(寧ろ、誰か今すぐあたしを埋めてくれっ!)


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