小説の世界で頭をいっぱいにして、小説を読む前に何をしてたのか分かんなくなってきた頃、ガラッと教室の扉が開いた。
「悪ぃ、みょうじ!待たせちまったか?」
『あ、工藤くん。部活お疲れ様。これ読んでたから平気だよ』
「オメーってホントに父さんの本が好きなんだな」
『だって面白いんだもん』
「そりゃ面白いのは分かっけど…」
どうやらお父さんの事を素直に誉められない性格(年頃?)らしい。
『じゃあ帰ろっか?』
「おー」
二人で教室を出て下駄箱へと向かう。
『でもあたしの家、ホントに近いから10分もしない内に着くよ?』
「マジ?俺ん家もそんくらい近けりゃもう少しゆっくり寝れんのに」
『特に推理小説買った次の日とか?』
「そうそう」
一緒に帰ることを主張して止まなかった割りには、会話は当たり障りのない普通の話だった。
うん。やっぱり気負う必要なんてなかったんだね。
『ほら、ここだよ。あたしの家』
「ここ?ここって一人暮らし用のマンションにしか見えねぇんだけど…」
『園子とおんなじこと言ってる。うん、見間違いじゃなく一人暮らし用だよ』
「それって、」
『うん。あたし、一人暮らししてるの』
嘘だろ?って顔に書いてある工藤くん。
可っ愛いー。
表情豊かなのは有希子さんのおかげかな?
なんて場に合わないことを一人で考えてクスクス笑っていた。
『だから先生はあたしに気を使ってよく電話とかメールくれるんだよ』
「そ、そっか」
『暗くなったら送ってくれるのは危ないからってだけで』
「お、おう」
『工藤くん?』
「……」
驚いた顔から戻らない工藤くんは何処か上の空だった。
どうしたんだろう?
「なぁ」
『何?』
「一人で寂しくねぇか?」
『あ、そんなこと考えてたの?』
急に真面目な顔になった工藤くんに、どうしたのかと思ったら
『寂しくないよ。一人が当たり前だったから』
「……」
『だから、家族っていうのはよく分かんないし、先生たちと一緒にいるのは楽しいけど、一人が寂しいって思ったことはないよ』
あたしは当たり前のことを笑顔で答えただけだったのに、工藤くんが苦しそうに顔を歪めた。
そんな顔が見たかったわけじゃないのに。
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