あたしのお気に入りの珈琲と一緒に、あたしのケーキを二皿置いて、マスターは仕事へと戻って行った。
いつもみたいに夕方なら人も少なくてマスターも一緒にお喋りしてるんだけど、7月の暑くなってきた昼時。
そりゃあマスターも仕事が忙しいってもんだ。
「うん。今日のケーキも格別に美味しいね」
『クスッ、先生に喜んでいただけるなんて作った甲斐がありますよ』
でも、テスト中だったのに勉強しなくて良かったのかい?っていう先生の追求は軽く受け流して珈琲を一口含む。
家ではインスタントしか飲めないから、やっぱり美味しい珈琲を飲むと心に栄養が渡るように落ち着く。
「ところで、新一はなまえ君の番号を手に入れることくらいは出来たのかな?」
『いえ、まだですよ?というより、最近は話してもいないので』
「あいつが諦めたということかい?」
『いえ、この前工藤くんに嵌められたのが悔しかったので、ずっとのらりくらりと交わしてたんですよ』
「…ちょっとあいつが哀れになって来たよ」
『大丈夫ですよ。今日アフターケアして来たので』
「うん?」
先生が不思議そうな声を上げた時、先生の携帯が鳴った。
「すまない、妻から電話だ」
『いえ、お気になさらず電話に出て上げて下さい』
「ありがとう。
どうしたんだい?まさか編集者が…ん?新一が?ほう。それで?…ふむ。分かったよ」
『工藤くんがどうかしたんですか?』
「なまえ君から貰ったお菓子を食べてる時に、妻が貰おうとしたら取り上げられたそうなんだが、何やらカードを見て嬉しそうにしていたそうだよ」
『そうですか』
「一体何を仕掛けたんだい?」
『彼の大好きな暗号を書いたんですよ』
「暗号?」
『ええ。暗号でちょっとしたメッセージを』
仕掛けた悪戯が上手く成功したみたいで、思わず笑顔になってしまった。
「ところでなまえ君。新一にはマドレーヌをあげたそうだが…」
『はい。友だちへのテストお疲れ祝いは焼き菓子にしましたけど、どうかしましたか?』
「私の分はないのかい?」
『これじゃあ満足していただけませんでしたか?』
「いや、新一だけ食べてるのかと思うと許せなくてね」
なんて悔しそうに言う先生が可愛くて、ちゃんと持って来ていた先生と有希子さんの分を先生に渡した。
先生はお礼の言葉を嬉しそうに顔を綻ばせながら伝えてくれた。
あたしはその笑顔が大好きなんです。
その笑顔が見られるなら、私はいくらでもお菓子を作りますよ。
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