『先生!お待たせしてしまって申し訳ありません!!』
喫茶店に着くなり、先生の元へ行って思いきり頭を下げた。
あれからダッシュで家に帰って、鞄だけ置いて先生とマスター用に作って置いたお菓子を手に、お菓子が崩れない程度に急いで喫茶店に行ったものの、案の定、先生はもう来ていて優雅に珈琲を飲んでいた。
「いやいや、なまえ君。頭を上げてくれないかい?急いで来てくれたのは十分に伝わっているからね」
『え?』
「いつも身だしなみに気を使ってるなまえ君が、今は風で髪が乱れている。息も上がっているし、走って来てくれたんだろう?」
『あ、すみません。お見苦しい姿を…』
ケーキの入った箱を机に置いて、制服と髪を急いで整えた。
いくら急いでいたとはいえ、こんな格好を先生にお見せしたとはなんたる失態。
「なまえちゃん、久しぶりだね。いつものヤツでいいかい?」
『はい。ご無沙汰してしまって申し訳ありません。マスターに久しぶりにお会い出来て嬉しいです』
これ、マスターと先生に作って来たんです、とそこで作ってきたケーキを渡した。
「なまえちゃん、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ?でも、いつもありがとう。今日は何かな?」
『フロマージュブランを使ったムースです。ラズベリーピュレを表面に使ったので可愛い見た目になってますよ』
「マスター、切る前に写真に撮りたいからちょっと貸してくれるかい?」
『先生?』
「なまえ君はいつも違うお菓子を作って来てくれるからね。妻がアルバムにしてるんだよ」
『え!?』
初耳なんですけど!?
こりゃ大物夫婦に渡すからって理由だけじゃなく、見た目も重視してもっと気をつけないと!
っていうかもしかしなくても同じお菓子は作れない!?
え?次はどうしよっかなぁ……
なんて、密かに燃えていたあたしは、デジカメを構えている先生に、
「どうせ残りは持って帰るんだからいいじゃないか」
とマスターが先生に呆れているとか、
「いやいや、ナイフを入れる前の完成品の写真も一枚欲しいんだよ」
なんて話してる二人の会話はあたしの耳には一切入って来なかった。
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