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「今日は息子のせいであまり楽しめなかったみたいだね」

『そんなことないですよ?お料理も美味しかったですし、楽しかったです。ただ、工藤くんとあまり話せなかったのがちょっと寂しかっただけですよ』


お食事会も終わった帰り道。

あたしは工藤邸から先生に送ってもらっていた。


「それにしてもあのすぐ態度に出るところは直させたいものだがね」

『きっと勉強もスポーツも出来て自分に自信があるから、思い通りにいかないと不満なんですよ』

「なまえ君のようにもう少し大人になって欲しいところだが…女の子の方が成長が早いというし、今後に期待かな?」

『きっと工藤くんなら大丈夫ですよ』

「だといいんだがね」

『大丈夫です。だって、先生と有希子さんがついてますもん』

「なまえ君…」

『あたしはあんな風に自分の気持ちを出すのに慣れてないので、ちょっと羨ましい気もします』

「きっと、これから上手くなっていくよ」

『だといいんですけどね。先生といる時みたいに自然体になるのはなかなか難しいですよ』

「……」

『歌なら自分の気持ちを素直に吐き出せるのに、言葉にするのは難しいです。飲み込むのは簡単なのに』

「普通は飲み込む方が難しいんだけどね」

『泣きたい時に泣けなくなったら、もう飲み込むしかなくなったっていうだけですよ』

「泣きたくなったらいつでも連絡してくるといい。私の前では泣けるんだろう?」

『もうどうしようもないくらい甘えちゃってますからね』

「いいじゃないか。私はなまえ君に甘えられて喜んでいるんだから」

『でも、いつかは独り立ちしなくちゃいけないんですよ』

「そうだね。だけど、なまえ君を任せてもいいと思えるような彼氏じゃないと私は安心出来ないがね」

『先生、一体何の話をしてるんですか?』

「ん?なまえ君が私の元を離れてお嫁に行くときの話さ」

『クスクス。どれだけ先の話をしてるんですか。まずは誰かに恋心を抱くところから始めないと彼氏も出来ないですよ』


そんな風に笑いながら会話をしていたら、いつの間にか寂しい気持ちがなくなっていた。

先生の話術は本当に魔法のようだと思う。


『本当に先生みたいなお父さんが欲しかったな』


先生と別れて自分の部屋に入る時、音になるかならないかの小さな呟きが漏れた。




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