捩り振子 1 | ナノ

捩り振子





皆が寝静まった夜半。
盆を片手に、伊作は一人で長屋の廊下を歩いていた。

盆の上にはつい先頃終了した委員会で皆で摘んだ夜食の器と、急須と、湯飲みが人数分。伊作は、それを食堂へと片付けに行く途中であった。





今日も保健委員会は大忙しであった。

保健委員会の主な仕事は、怪我人病人の治療、学園内の薬品、衛生関係の物品の管理など。
薬品、物品の管理は毎日細かに記録を取って行われるが、日々の積み重ねがある分それ程手間の掛かるものではない。
本来ならば急患が大量に発生でもしない限り、保健委員会はこんな深夜にまで活動が延びるような委員会ではないはずなのだ。



けれど、そこは伊作を初め粒揃いの不運達が集う保健委員会。

初めは順調だった筈の雑務が、何処からか転がり込んできた緊急事態によってどんどんと後延ばしにされていき、騒ぎの片付けを終え漸く本来の職務へと手を付けようとした頃にはどっぷりと日が沈みきっている、なんてことは、悲しいけれども今日に限ったことではなかった。

特にこの数日は上記のような事態が続いており、伊作を含めた保健委員達は授業以外ではほぼ保健委員会の仕事で缶詰状態、という日々が続いていた。

学園で学ぶ忍たま達の責務は、委員会活動だけではない。
まだまだ学ぶことも多く、休息の時間も同じだけ多く欲する下級生を監督する責任のある委員長として、あまりこういった事が続き、それに慣れてしまうというのは良くないことだと分かっていた。

伊作としても、少しでも早く仕事を終えて開放してやろう、せめて下級生達だけでもと努力はしてるのだ。
だがそんな努力は、ちょっとした不運な出来事や、それに連鎖した次の不運な出来事や、ついでとばかりに押し寄せてくる次々の不運な出来事に押し流され、結局無意味なものとなる。

その上、保健委員は皆例外なく良い子達だ。

今日も、バタバタと慌しい委員会活動の中。
仕事の終わりは未だ見えず、一日の終わりばかりが刻々と近付く中で、疲れの見え始めた下級生達を帰し、残りは一人で出来る限りこなしておくよと声を掛けた伊作に対して
一年生の乱太郎と伏木蔵は閉じそうになる目蓋を必死に開けて、手間が掛かるけれども自分達の知識や技術でも出来る雑務を積極的に片付け
二年生の左近は、皆の疲れの様子を見ては、食堂から夜食や茶などの差し入れを持ってきては疲労の色濃い空気を入れ替え
三年の数馬は、目立ったことはしないけれど、眠気に負けそうになる一年二人を励まし、左近と協力して他を片付け、難しい薬の調合作業に入っている伊作の邪魔にならないようにとサポートに回ってくれた。

そんな皆の、連日の無理を隠しきれずともへこたれない姿に、調合中の薬を駄目にしてしまわないよう溢れそうになる涙を伊作は必死に堪えたものだった。



その甲斐あってか何とか日を跨ぐ前に仕事は終わり、皆の頑張りを見て校医の新野先生が夜の当番の交代を名乗り出てくれた。


眠りに落ちる寸前の乱太郎、伏木蔵を同じ方向に帰る左近と数馬に預け、伊作は器の乗った盆を持ち、一人一人に礼を言い
そうして、ここ数日よりもほんの少しではあるが早く、本日の保健委員会は解散となったのだった。








カチャリ、カチャリと音を立てる器の乗った盆を慎重に運び、静かな廊下を歩く。
行燈は下級生達に渡してしまったので灯りはない。
けれど、伊作とてまがりなりにも最上級生。夜目だけで、十分すぎる程に周囲は見渡せる。

筈だった。



曲がり角。
少し、気が抜けていたかもしれない。
こんな時間まで起きて動き回っている者は、他には居ないだろうとたかを括っていたのもあるだろう。

何の心構えもせずに無防備に角を曲がった伊作は、そこに立っていた誰かに真正面からぶつかった。


(ぎゃっ)

思わず口から毀れそうになった悲鳴は、何とか飲み込む。
けれど衝突の衝撃までも声と共に飲み込むことは出来ず、勢いを付けて壁に当たって跳ね返る人形のように、ぐらりと傾いた伊作の身体は後ろへと倒れていった。

襲い来るであろう痛みに、反射的に伊作の体は受身を取ってしまった。
強かに尻を打ちはしたが、おかげで痛みはそれ程でもない。
だが、すぐに伊作は顔を青褪めさせた。

(お盆!!)

倒れこむ時に手放してしまった盆。そこに乗っていた器や急須、茶碗類。つまりは割れ物。

伊作はぎゅうと目を瞑り、間もなく鳴り響くであろう強烈な破砕音に身を竦めた。








けれど、いつまで経っても音は聞こえず、変わらず続く、静かな夜の音だけが周囲には満ちる。





「…伊作?」

代わって届いたのは、耳に慣れた同室の友の声。





「…留さん?」

ぱちりと目を開け尻をついた床の上から見上げれば、そこに立っていたのは先程まで伊作の手にあった盆を持った、食満だった。














「あ〜…びっくりした」

カチャリ、カチャリと音を立てる器の乗った盆を慎重に運ぶ食満と共に、伊作は静かな廊下を歩く。



「こっちの台詞だ。お前、夜とはいえ…夜だからこそ、もうちょっと気を張って歩けよな」

周囲に響かないよう、声を潜めて二人は言葉を交わす。



「うん、ごめん…。ちょっと委員会で疲れちゃって…」

「遅くまで働き過ぎだ。保健室の長が、その部屋を占領するようなことになったら意味ないだろう」

しゅんとしてみせる伊作に対して、食満が苦言を呈する。
言葉はあけすけでも、静かな口調と、そこに込められる級友の気遣いを感じて、伊作は笑みを浮かべてもう一度、うんと頷いた。

伊作から預かった盆を手にしたままの食満は、前方から目を離さない。
けれど、目で見ずとも伊作の笑みを感じ取ったのか、一つ気を抜くような息を吐いて纏う空気が和らいだ。





「そういえば留さんも、こんな時間まで何してたの?なんであんなところに居たのさ」

疑問と共に、伊作は横に並ぶ食満の姿に目を向ける。


食満は、伊作と同じ制服姿であった。
食満もまた、委員会活動が残っていたのだろうか。
けれど、食満は普段余程のことが無い限りはきっちりと定時で委員会を切り上げる。
それは伊作が委員長として考えるのと同じ、下級生達の負担のことを気遣ってだ。


用具委員会の仕事は、用具の管理と修理、主にはこの二つだけ。
だが、その『用具』という部分に当てはまるものはこの学園内で、膨大な数存在する。
中には、下級生には扱いを許可されていない危険な物や、高度な技術を必要とする物などもある。
そういったものを扱えるのは、現在の用具委員会では食満一人。
勿論手に余る。

けれど、手に余るからと言って放置をする訳にもいかない。
だから食満は、それらを自室に持ち帰り作業することが多い。
繊細な作業をする時には慣れた空間で、閉じこもってやった方が集中力が持つし、同室で同級の伊作ならば傍に居ても気にならない、その上部屋に用具を放置していも誤った扱い方で危険を招くこともない。

何より、どうにも仕方の無い事とは言え、一人委員会後も倉庫に残る食満を見て、委員長を慕う一年生達が、誰より強い責任感を持つ三年生が心に靄を抱くのが嫌だというのが、後輩大好きを口外して憚らない食満が部屋で作業をする、一番の理由だろう。



しかし、自室での作業に耽っていたにしても、食満の制服はきっちりと着込まれたままだった。
いつもならば夜着などの身軽なものに着替えているか、せめて頭巾ぐらいは外しているのに。

単純に疑問に思っての伊作の指摘に、食満は変わらず前方へと視線を向けたまま、口を開いた。

開いた唇は言葉を発さず、一度飲み込み、また開く。
僅かな唇の動きであったが、じっと見詰めていた伊作には、それが逡巡の間であるように見えた。



「…お前を迎えに来たんだよ」

「え、僕?」

何で?と伊作が聞き返す。
ほんの少し眉を寄せた食満は、罰が悪そうに伊作へと振り向く。



「…委員会でしんべえが、乱太郎が『最近委員会が忙しくて、伊作先輩が無理してらっしゃる』って心配してました、って聞いたからな。後輩に心配掛けるなよ。そこまで根つめることないだろう」

拗ねたような、照れたような口調で言った食満は、ちゃんと前向いて歩けまた転ぶぞ、と忠告して前に向き直った。



「…じゃあ、部屋で作業して待っててくれたけど、あんまり僕が遅いんで迎えに来てくれたの?」

「…ああ」

改めて聞き返されて気恥ずかしいのか、食満から返ってきたのは、少しぶっきらぼうな声だった。


「ありがとう、留さん」


「…ああ」














「伊作、まだか?」

がさりがさりと音の鳴る部屋に向かって、食満は声を掛ける。


「ん〜…もうちょっと待って。確かここら辺に…」

何かに頭でも突っ込んで喋っているのか、少々くぐもった伊作の声が中から返ってくる。
はぁ…と一つ、待ちくたびれたように食満は溜息を吐いた。



伊作の委員会で使った器を食堂へと返しに行く途中。
ちょっと用事を思い出したと声を上げた伊作に手を引かれ、遠回りをして六年長屋の方へとやってきた。
途中からずっと盆を預かっていた留三郎を、直ぐに済むからそこで待っていてと廊下に立たせ伊作は部屋へ入り、以降ずっと、こうして何かを探して夜分に響かない程度の、控えめな物音を立てて探し物を続けている。



その間律儀に立って待っていた食満は、様子を伺うにもう少しは探し物は出てこなそうだと察して、静かに戸から離れ、廊下を横切り縁側へと腰掛けた。

音を立てぬよう盆を床に置き、ぼんやりと外の景色を眺める。
眺めるといっても昼間ほど鮮明に見渡せる訳ではないが、それでも僅かな星明りの下で見る夜の学園というのも六年目となれば見慣れたもので、意味無く眺めているだけでも何かしらの感慨が浮かぶこともあれば、何を不安に思うこともなく無心になることも出来た。

今日の食満にとっての闇夜の風景は前者であり、目的無く眺めていた筈の食満の胸中には、様々な感情が浮き上がる。
けれどそれを食満は嫌い、振り払うように目を反らすと、今度は逆に両手を身体の後方へとついて体重を掛けて反らして、天井を仰ぎ見た。



訓練の賜物である夜目。そして闇に慣れた視界。
それでも、僅かな星明りすら差し込まない、食満が見上げた天井は、一面の黒に染まった面にしか見えなかった。

本来は、床と同系色の板を組んで作られている筈のそれ。
しかし今は、只管に暗く、何も無い。
その一面の黒は、じっと見詰めていると吸い込まれてしまいそうになるほど深く暗く。
気が付けば、食満は目を開けているのか閉じているのか、あやふやに成る程一心にそれを見詰め続けていた。

ふいに堪らない不快感が込み上げてきて、気付いた時には片手で額を押さえ、前傾姿勢になって俯いていた。

息を吐き出す。乾いた息。何かが込み上げる。けれど吐き出しきれずに、それは喉元に留まり残った。

額から離した掌を見て、食満は視線を横へと流す。
自分の背後、伊作の入っているは組の長屋の二つ隣。い組の長屋。 
ぴたりと閉じられた障子の奥からは、何の灯りも漏れはしない。
主達は就寝中か、それとも不在か。外から見ただけでは分かりはしない。

そんな部屋の障子をじっと見詰める食満の瞳は、確かに揺らいでいた。










「はい」

気配のないい組の長屋の戸を見詰めていた食満の眼前を、何かが覆う。
完全に気を抜いていた食満は肩を揺らし、仰け反った。



そこにあったのは、湯飲みであった。
食堂などから拝借した公共のものではなく、食満が自室に私物として置いているものだ。
その上部を指で摘み、縁側に腰掛ける食満の頭上を跨ぐようにして眼前に差し出した伊作は

「どうぞ」

そう言って、軽く湯飲みを左右に揺らす。


ちゃぷりと、中に入った液体らしきものが音を立てる。
それと共に、鼻に届く甘い匂い。

食満が手を出し湯飲みの底を支えたのを確かめて、伊作が手を離す。
そのまま伊作は、食満が視線を向けていたい組側とは反対の食満の隣へと腰掛けた。


突然の伊作の行動と手の中の物を怪訝に思い伊作を見れば、にこりと笑みを返される。

「薬湯だよ。湯ではないけど、効能はそう。安心して。身体に良い物しか入ってないから。今回は香りも味も工夫してあるから飲みやすさも抜群」

探るように顔を近づけ匂いを嗅いだ食満を、安心させるように伊作が言った。


そうは言われても、簡単に信用して口をつける訳にもいかない。
過去の様々な経験から、食満は伊作から差し出された飲食物は先ず一通り怪しんでから口をつけると決めている。唐突に、脈絡無く差し出されたものほどだ。

そんな食満の用心、元々は自分の前科のせいなのだが、を分かっている伊作は困ったようにまた笑って、自分の湯飲みの中の薬湯を一口口に含んだ。
ごくりと飲み込む姿を見せて、「ちょっと交換」と言葉を発し、口の中にも何も残っていないことを示す。
手に持ったままだった食満の湯飲みと、自ら毒見をした湯飲みを取替え、また一口。

ね、大丈夫でしょう?
と言わんばかりに、湯飲みを傾けながら視線を向けてくる伊作の様子に、食満も訝しがるふりを止め、湯飲みに口をつけた。




一口飲んで、いつも飲まされる薬湯とは全く違う味に驚いた。

匂いだけでなく、味まで甘い。
まるで何かの果実を絞って入れたかのような。
甘いけれども喉に残るようなものではない自然な甘さで、さらりとして飲み干すにも違和感がない。
これならばきっと、しんべヱなどは目を輝かせて一気に飲み干してしまいそうだ。


「僕の特製調合だよ。僕と留さんが、第一試飲」

上手くいって良かった〜、と隣で湯飲みを傾け、呑気に伊作が言う。
手の中の薬湯の出来と、伊作の気の抜けた声に流されかけたが、先の言葉でやはりこれが実験だったのだということが分かってしまった。

たった今は何とも無くとも、明日の夜明けが少し不安になってきた。
二人揃って腹を下す、なんてことが起こらなければいいがと心中で嘆息する。

それでも、口を付けてしまったからにはどうしようもない。
えぇい儘よ、と食満は勢いよく湯飲みを傾げ、薬湯を飲み干そうとした。



「折角なんだから、ゆっくり飲んでよ」

しかし、伊作がそれを止める。


「どんな薬も急に大量に体内に取り込んだら作用がおかしくなる。ゆっくり、ゆっくり染み渡らせなきゃ効き目は薄くなる。今の君に必要なものなんだから、ちゃんと飲んで」

そう言う伊作の声は、柔らかながらも芯の強いものだった。


「…分かったよ」

保健委員長としての責務や、怪我人の手当てをしている時などに良く見せる伊作のその目は食満にとっての効果は絶大であり、食満は逆らうこともなく、伊作に合わせ、ゆっくりと薬湯を口に運んだ。










「で?何だったんだ、これは」

お互いに暫し無言で湯飲みを傾け、最後の薬湯を喉に流し込んだ食満は、手の中で湯飲みを転がしながら伊作に尋ねた。


伊作と共に湯飲みを傾ける、というのもそれが実験体としてでなければ別にいいし、日中ならば普段もやっている。

けれど、今は夜半。
少し肌寒い外気の吹き込む縁側で、一日の汗も流さず制服を着込んだまま。
わざわざ自室に寄った用事とは、この薬湯を煎じることだったのだろう。
あの短い間によく煎じられたものだとは思う。
わざわざ、もしかしたら下心があるのかもしれないがそれはさておき、煎じ差し出してくれた好意は嬉しい。

だが、何も今でなくてもいいのではないかと思う。



「今の君に必要な物だよ」

「…さっきもそう言ってたな。必要ってどういう…」

「効能は、疲労回復、睡眠安定、内臓機能回復、食欲増進。全部、足りてないものだろう?」

「…」

さらりと言われて言葉が返せず、思わず食満は口を噤む。



「でもこれは、あくまで弱った身体機能を平常状態まで持ち直す為のもの。根本の原因が他にあるのなら、それをどうにかしなきゃいくら薬を飲んでもどうにもならない。まして、その原因が『身体以外』にあるのなら、ね」

診断結果を告げるような伊作の言葉には淀みが無い。
灯りの下でよくよく顔色や様子を観察された訳でもないのに、ほんの少しやり取りを交わしただけなのに。
完全に見抜かれているそれを、自らも自覚しているそれを、否定し誤魔化し受け流す上手い言葉を、今の食満は思いつけなかった。





「留さん、嘘ついたよね」

黙り込み、手の中の湯飲みに視線を落とす食満を、伊作は見遣る。


「部屋で作業なんて、してないでしょう?」

「…なんで」

分かったのかと、言外に続けて食満が問い返す。


「行燈の油も芯も、減ってなかったもの。遅くまで作業してたんなら、灯りは使うでしょう?」

部屋で薬湯を煎じる際、それも調べていたのか。


「…お前を迎えに行ったのは、本当だ」

「うん。じゃあ、それまで何してたの?」

「…色々」

「色々?」

伊作の口調は柔らかい。
けれど、その問い掛けは食満の答えを待ったまま、かわすことを許さない。

食満の言葉を引き出すことが自分の役目なのだとでも言うような、その強引さ。
それが伊作からの、打算のない好意と憂慮の感情からのものだということが、食満には分かっていた。

少しずつ沈黙が苦しくなる。
それは、答えを待たれていることに対しての気詰まりだけではなかった。

本当は聞いて欲しかったのかもしれない。
言ってしまいたかったのかもしれない。
自分ではどうにもならないものを、どうにかして欲しかったのかもしれない。

そんな自分の心に気付いて、食満は息を吐いて小さく笑った。
吐息は少し、震えていた。





「…探してたんだ。そんで、色々…、心当たりのあるところをぶらついてた」

「探してた?…人を?」

伊作の確認に、食満は頷く。


「誰を探してたの?」

その問いに、食満は視線を動かすことで答えた。
食満の視線が向かうのは、先程までと同じい組の長屋。



「…仙蔵?」

違うと思いながらも、伊作は尋ねた。
予想通り、食満は首を振った。

じゃあ、やっぱり。

薄々、というかほぼ予想していた通り。
食満に、こんなにも影響を与えられる人物なんて、伊作の他には一人しかいない。






くつくつと、徐に食満は笑いを溢した。

けれどその笑いは、小刻みで、渇いていて。
まるで自分自身を笑っているかのようだった。


「…やっちまった。俺、言っちまったよ、伊作」

片手に湯飲みを持ったまま、食満は両手を額へと当てる。
背を丸め、再び前へと屈みこむ。

自らの腕の中に隠れるように、伊作を含む周囲全てを拒絶するように顔を隠す食満からは、渇いた笑いだけが聞こえる。


何を言ったのか。聞き返すまでもなかった。
食満が、探し人に対して心に抱え続けていたもの。
伊作にだけ打ち明けられていた、食満の秘密。



「あいつに好きだって、言っちまった」









あとがき
このサイトでは珍しく、食満先輩からの告白話。
でも予想通り、すんなりとはくっついてくれません。いちゃいちゃもしてくれません。

6はの管理人的イメージ、雰囲気をどうやって表せばいいか、試行錯誤中。
管理人的には、お互いを気遣うのが凄く自然になっている関係だといいな、と。
無意識に食満先輩は伊作さんの世話を焼いちゃうし、伊作さんは何も言わなくとも食満先輩のことが伝わるし。食満先輩にも伝わっている。
でもふと時々
「あれ、自分世話焼き過ぎじゃね?」「ちょっと恥ずかしいことしてね?」
と自覚しちゃって、恥ずかしくなる。(主に、食満先輩)
でも結局
「(伊作)(留さん)には(俺)(僕)が付いててやんなきゃ駄目だしなぁ」
みたいに落ち着いて変わらない。

家族愛、というイメージです。


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