あやし奇譚 | ナノ


はじめましてのご挨拶











…あの
はじめ、まして…
僕の…名前は、下坂部、平太といいます…





えっと…

…僕は、人ではありません。
嘘でも…冗談でも、なくて

その…
夜道で人を追いかけたり…、驚かしたり…、悪戯したり…とか
そういう悪いことはしません…


…じゃ、なくて
人じゃないなら、なんなのかっていうと…

…その





「はにゃ〜?平太どうしたの〜、なんで壁とお話してるの〜?」

「何か美味しいものでも落ちてるのー?」



ち、違うよ…
あのね…、自己紹介の練習してたの…



「「自己紹介?」」



うん…
今日は、久しぶりに…みんな一緒に町にお仕事しに行くでしょう…?

いつも…先輩とか、みんなが…お客さん達とお話してくれて
…僕のことも、紹介してくれるんだけど…

でも、今日は…僕が、自分で…
みんなのことも、自分から紹介したいなって…思って
練習してたんだ…



「平太が僕たちのこと紹介してくれるの、嬉しいな〜」



でも…、うまく喋れなくて…



「壁よりも、僕たちに話した方がうまくいくかもしれないよー」

「そうだね!僕たちも手伝うよ〜。やってみよう〜!」



…うん。やってみる…








…えっと、じゃあ、二人を紹介します。


ほにゃっとしてて、壺を抱えているのが、山村喜三太…
ぽてっとしてて、お煎餅を食べてるのが、福富しんべヱ…
…です。


…二人は、僕と同じです。
人の子と、見た目は同じだけれど…人ではありません…

先輩が、教えてくれました。

僕たちは…
『付喪神』
…というものだそうです。

人が作った物や、自然の中に元々あった物に…
長い長い時間が経つ内に…
いつの間にか宿っていて、心を持って、動き出したもの…

それが、僕たち…なんだそうです。


…しんべヱは
ここから少し遠い、境という町の…
ある商人さんの家に代々伝わる家宝に憑いた神様で…

喜三太は…
ここからうんと遠い…、風魔というところにある
『いわくつき』という壺についた神様だそうです…


…二人とも
いつも元気で、明るくて…
ぽかぽかのお日様の下で遊ぶのが大好きです。

僕は…お日様の光は、あまり好きではないんだけど…
…でも、二人と遊ぶのは好きです。




…二人は…僕の…、



「「友達だよ〜!」」



…うん。
二人は、僕の、お友達です。







「すごいねぇ、平太。紹介上手だよー」

 

…ありがとう。

二人のこと考えながらだと…話しやすいね。



「ねぇ〜平太、ナメさんたちも紹介して欲しいな〜」




うん…。



喜三太の持ってる壺には、何でも入ります…
いつも、色んなものが、入ってます…
一番よく入ってるのは…ナメクジです。


ナメクジは、喜三太の友達です。
喜三太は、昔…随分長い間、暗くて静かな所に、仕舞われたまま…
みんなに忘れられて…一人ぼっちだったそうです。

その時に、一緒に遊んでくれたのが
そこにいた…ナメクジ達だったそうです。


喜三太は…
その、暗くて静かな所から、外に出てからも…
ナメクジ達とは友達で…大好きで…
とても…大切にしています。


…喜三太のその気持ちは
僕にも…少し分かるような気がします。







「何だ〜、三人でこそこそと。何楽しそうなことやってるんだ?」

「もうすぐ出発だぞ!先輩待ってたんだぞ!」

「作、作。そんなに今日は急がないから大丈夫だぞ。まぁ落ち着け」

「す、すんません!」



「「あっ、食満先輩〜、富松先輩〜!」」



「あのですね、今、平太と自己紹介の練習をしてたんです〜」

「自己紹介?」

「今日は、町についたら平太が僕たちのことをみんなに紹介してくれるらしいんですー。だから、その練習をしてたんですよー」

「へぇ、珍しいな」

「偉いな、平太!なぁ、俺のことも紹介してみてくれるか?」



…えっと。



「何でもいいぞ」



…先輩は、僕の…

僕にとっての

…ナメクジみたいな人です。



「「え?」」

「なっ、お、おま!先輩に対してナメクジって…」

「…ありがとうな、平太」

「へ?」

「喜三太にとってのナメさん達みたいに、って意味だろう?」



…はい。



「ありがとうな。すっごく嬉しいぞ」



……はい。



「はにゃ〜。平太と、食満先輩も、みんなも。僕とナメさんみたく仲良しだ〜」

「…あぁ、そういうことな。びっくりさせんなよ…」















「それじゃあ、そろそろ出発しようか!しんべヱ、町につくまでおやつは我慢だぞ。喜三太、もしナメさんを見つけた時は勝手に追いかけないで俺か作に言うんだぞ。平太、今日日差し強いから傘忘れるなよ。作、こいつらと売り物は頼んだぞ」

「「「「はい」」」」

「行こ〜、平太!」

「続きは、町へ向かいながら練習しようよー!」



うん…









紹介の、続きをします…



僕たちはこれから…、町へお仕事に行きます。

僕たちのお仕事は…古くなった物の、回収と…修理です。

…僕たちが、壊れたりして使えなくなった古物を…町の人から預かって
食満先輩と富松先輩が修理をします…

先輩達の手に…かかれば、殆どのものは元通りになります…。
たまに、どうしても修理出来ないものもあるけど…
そういうものも、先輩は引きうけてきます…。

修理して返せない代わりに…
お金や…別の物を渡して、交換してもらいます…。

食満先輩は…、そうやって交換したものを
…絶対に、無駄にはしません。

何かに再利用できるときは使って…
出来ない時には…、時々家にやってくる…不思議なお客さんに渡します。

仕事をおえた道具たちが…ゆっくり休めるよう
『道具たちのお墓』に、持っていってもらってるんだ、と…
先輩は言っていました。




町へ向かう僕たちの、一番後ろを…
僕たちが…道から逸れてしまわないよう声をかけながら、先輩達が修理した道具を運んでいるのは…

富松作兵衛、先輩です。

『先輩』という呼び方は…
富松先輩が…、僕達に教えてくれました。

自分より年上で…自分を指導してくれる人のことは
『敬意』を持って呼ばなければいけない、って…

…だから、富松先輩も…、食満先輩も…、僕の先輩です。

本当は、しんべヱと、喜三太も…僕の先輩なのだけれど
…二人のことは、先輩とは呼ばなくてもいいそうです…



富松先輩は…僕らとは違う、普通の人です。
でも…僕らのことを見ることのできる、特別な人です。

普通の人は、僕たちを見つけられないのに…
富松先輩には、お見通しです。

富松先輩には、僕ら以外の…もっともっと色んなものも、見えるそうです。
…だから、先輩は捜し物が得意です。




富松先輩は…
食満先輩が…多分大好きです。







「平太、まだ練習中か?夢中になりすぎて、転ばないようにな」



…僕らの、一番先頭を
一番重いはずの道具箱を抱えて、でも…なんてことないように、軽々とした足取りで…
すぐ後ろを歩く僕に…声をかけて、頭を撫でてくれるのは…

食満、留三郎先輩です。




食満先輩は、…何でも出来る人です。

壊れた物の直し方も…
おいしいご飯の作り方も…
家の掃除の仕方も…
玩具の作り方も、遊び方も…

僕たちが…、普通の人の子と同じように町で遊ぶ方法も…

全部、食満先輩が教えてくれました…




食満先輩は、…優しい人です。

僕は、お日様の光が苦手です…
生まれた時から…そうでした…

だから…、外に出る時にはいつも、傘をさしています…


この傘は…、食満先輩が作ってくれました。

子供用の傘と、同じくらいの大きさしかないのに…
この中にいれば…日の光は、殆ど入って来ません。

少しくらい傾けても、…僕が動きまわっても…
…喜三太と一緒に入ってみても、大丈夫でした。


…先輩は

僕が、色んなものをよく見れるよう。
みんなが、僕の顔をよく見れるよう。

そう気持ちを込めて…邪魔にならないような傘を作ったと言っていました。



食満先輩の作るものには…
この傘みたく、不思議で…特別なものが、たまにあります。

どうして、そんなことが出来るのかは分かりません…
でも、僕は…先輩の作ってくれるそんなものたちが

…大好きです。








食満先輩は…不思議な、人です。


人か、人でないのか…よく分かりません。
食満先輩にも、分からないそうです。

食満先輩には…お友達が、いっぱいいます。
色々な、お友達がいます…。

凄く頭のいい狐さんに…
凄く物知りな神様…
どんな怪我でも治してくれる人魚さんとか…

他にも、いっぱい、友達がいます。
その人達にも、食満先輩が人なのか、人じゃないのか…分からないそうです。


でもみんな、あまり、気にしていません…

僕も、分からないままでも別にいいや、…と、思っています。



食満先輩は…

…僕にとって…
喜三太にとっての、ナメクジのような…人です。

僕を…寂しかった場所から、ここに連れてきてくれた人です。

物知りで…
何でも作れて…
すごく優しくて…
不思議で…

僕のことを…、僕たちのことを…
大好きだと…言ってくれる人です。

…だから、僕も









…先輩


「?どうした、平太」


…大好きです。










あとがき
平太視点での、みんなの紹介。
管理人の中でのイメージを固める為の紹介でもあります。

平太は食満先輩が大好きということが書きたかったのです。
(というか、このお話の中では皆、食満先輩好きーです)

皆の口調の書き分けが難しい…



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