八方塞の恋(番外編)-3-

今日、このような寒空の中。
折角の休日を潰してまで仙蔵が皆を集めたのは、先程発言した通り、文次郎を尾行するためだ。

何故そんなことをするのか。
それは勿論、先日長次から持ち込まれた衝撃情報、『文次郎、女性と密会疑惑』を検証する為だ。




文次郎をよく知る幼馴染兼悪友の仙蔵たちは、そんなものはデマか、何かの見間違いであろうと、論ずるまでもなく確信していた。

そう言い切れる一つ目の理由。
それは、文次郎は女性恐怖症だということだ。


幼少期のある出来事により心身に刻まれた女性そのものに対するトラウマ。
それにより、事件の起こった幼少の砌から高校入学時まで、文次郎は家族以外の女性とは、話すことも、触れることも、近付くことも、時には視線を向けることすら出来ず、嫌い、避けていた。

恐らく、そんな文次郎が何の弊害も無く接することが出来る女性というのは、未だ男女の差異がはっきりと身体に現れていない幼少の女児か、生きた年月の分だけの年輪を皺として身体に刻み、男女の差異を超え、穏やかに余生を過ごす老婦人達くらいであろう。

誤解がないよう予め訂正しておくが、決して、文次郎の嗜好がその二つのゾーンにあると言っている訳ではない。




話を元に戻して。

文次郎は女性恐怖症である。だから、女性と連れ立って二人だけで出歩くことなどある筈がない。
と、恐怖症が最も酷かった高校入学初期であれば、その理由だけで結論に結び付けて良かった。

けれど、今現在は少しばかり話が違った。
その症状は近頃、男ばかりの幼馴染兼悪友四人の中に、高校入学後間もなく加わった二人組みの内一人である、善法寺伊作の尽力により、多少の改善を見せていたからだ。


伊作、というその古風な男児の名に似合わず、小さく、細く、可憐で、愛らしい、紛うこと無き現役女子高校生である伊作の半強制的な指導と監修により、高校二年の終わり、間もなく三年へと進級する現在、文次郎の女性への拒絶反応は以前に比べ薄れていた。

自発的に接することは未だ避けているようだが、少しであれば会話を交わしたり、視線を合わせる等の最低限のコミュニケーションくらいは取れるようになった。

それはあくまで最低限であり、同世代一般のコミュニケーション能力の基準にはまだまだ及ばない。
入学式当日から積み重ね定着してしまった文次郎自身の負のイメージも拭えていない。
それでも、女子生徒と僅かながらも接する文次郎の姿というのは、以前に比べれば格段に増えたし、当の伊作に限定すれば、隣に並び立ち自然に会話をすることも、意見や言葉をぶつけ合うことだって可能だった。
(但しこれに関してのみは、この二年弱の間に文次郎が伊作を、女性として認知しなくなったが故という可能性もあったが)


それを踏まえれば、先日の長次の後輩からの目撃情報も、デマか見間違いであると切り捨てることは出来ない。
もしかしたならば、恐怖症が僅かながらも抑制され漸く春を向かえた文次郎が、異性との交遊を求め、早速その相手を捕まえてきたのではないかと疑うことも出来るからだ。



けれど、仙蔵たちはそれでもありえないと首を振る。

先程『半強制的な指導』と言った通り、伊作からの指導は文次郎の意思ではなかった。
勿論、文次郎の恐怖症を知る幼馴染達から伊作へと協力を要請したわけでもない。
全ては伊作自身が、自主的に名乗りを上げて実行したのだ。
そしてそれも、本来の目的は文次郎の恐怖症を緩和させることではない。
伊作が目的としていたのは、先の言葉に続けた『監修』の方であり、その為に周囲に近付くようになったことが必然的に、文次郎を異性に慣れされる特訓になったのだ。


では、何故伊作が文次郎を監修…、いや監視をしていたか。
それは、仙蔵たちが首を振って目撃情報を否定する、二つ目の理由と同じであった。



文次郎には、既に想いを寄せる相手がいた。
そしてその相手も文次郎の想いを受け入れている。

つまりは、両想いで、交際している相手がいるのだ。



おかしいだろうと、首を捻るかもしれない。
女性恐怖症の文次郎が、漸く女性に免疫を付け始めてきた文次郎が、一体どうやって異性に恋情を抱き、想いを告げ、交際に至るというのか。

再び、誤解がないよう予め訂正しておくが、相手は決して幼女でも、老婆でも、ましてや唯一女性でありながら文次郎がまともに接することの出来る善法寺伊作でもない。特に最後の選択肢だけは、絶対に無い。


ならば何故?誰と?どうやって?

この疑問を解消するのは、実は簡単だ。
相手は、女性ではない。ただそれだけのことだ





再々度、予めに手を打ち訂正させて頂くが、文次郎は男が好きなわけではない。
偶々、好いた相手が男だったのだ。


恐怖症の影響が多少なりとも無かったとは言わない。
どのようにして想いを抱いたか、自覚をしたか、そして告げたのかは、ここでは説明し切れない。

只、傍から見ている者にとっては時に腹立つ程に歯痒く、呆れる程にもどかしく、見離したくなる程に緩慢に。
周囲からの多大なサポートを受けて、一年以上の一方通行期間を経て、漸く現在の形に落ち着いたのだということだけは先に記しておく。



随分と遠回りな説明をしてしまったが、つまり仙蔵たちが先の目撃情報を否定する二つ目の理由とするのは

『あれ程自分達の手を煩わせストレスを与え続けておいて(それと同量以上の笑いとネタをも提供してもらった事は一旦置いておき)、まさか今更心変わりなどある筈がないな』

という信頼のような、ある種の脅迫のようなものだった。





++++++++++

書きたいがままに書き続けていると、どんどんと伸びていきます。
まとめをアップするときに、大量削除になったら申し訳ありません。

本当は本編で書くべきことを、どんどんと晒してしまっているような…


私のお話は、いつもメインの二人が出てくるまでが長い…。

2012/04/05 00:12



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