▼ 続き3 「そう…だったんだ」 自嘲するように告げられた先の告白に短く答え、沈黙した食満に習い、伊作もまたそれ以上の言葉を続けるのを止めた。 聞きたいことは色々あった。 けれど、食満の様子を伺い少し間を置く。 何が、あったのだろう。 伊作が委員会の仕事に忙殺され、まともに食満達と顔を合わせることの出来なかったこの数日の間に。 食満と、食満が想いを告げた相手、つまりは文次郎との間に。 食満が想いを告げてしまったということに関して、正直、伊作はそれ程驚きはしなかった。 食満から秘密を打ち明けられた時から、いつかはそうなるだろうと思っていたからだ。 食満は、情の厚い男だ。 些細な事にも感じ入る、豊かな感性を持っていた。 感情の表現は相手によっては不器用だけれども、誰より素直で真っ直ぐだった。 嘘や誤魔化しなどは嫌いで、正々堂々、『勝負』と名を付けて何かと正面から向き合うことを好んでいた。 伊作と同じくらい、忍には向かない性格だ。 そんな食満が、他の誰よりも強く、対等に、真っ向からぶつかり合うことを渇望する相手への想いを隠し続けることに、耐えられる筈がない。 いつだったか。 食満の些細な変化に気が付き声を掛けた伊作に対して、誰にも言うなと釘を刺して秘密を打ち明けてくれたあの時。 「俺は文次郎を好いているらしい」 と、羞恥に頬を染め、緊張に滲む涙を必死に堪えながらも、はっきりと食満は言った。 いつも以上に鋭い眼差しや、真一文字に引き結ばれた唇を見ただけで、それが決して冗談ではないということはすぐに分かった。 居住まいを正して告げる食満の姿のあまりの真剣さから、まるで己に対しての想いを告げられているかのような錯覚に陥り、僅かに心が揺れかけたのも覚えている。 そうやって打ち明けることが出来るようになるまで、一体どれ程の葛藤があったことか。 けれど食満は、己の感情を迎え入れていた。逃げずに向き合い、認めていた。 その姿を見た時に、必然的に伊作の頭には浮かんだのだ。 いつか、そう遠くない時に、こんな風に文次郎と向き合う食満の姿が。 胸に抱いた想いと共に、真っ直ぐに文次郎にぶつかっていく姿が。 「ねぇ、文次郎には…何て言われたの?」 項垂れ、見られるのを嫌がるように顔を隠す食満の意を汲み、伊作は食満の方を見ずに訊ねた。 伊作は、食満がいつかきっと、自ら想いを告げてしまうとは思っていた。 けれど、こんな食満の姿など予想していなかった。 伊作へと秘めた想いを打ち明け、世間一般的なものとは言えぬそれをどう伊作は受け取るのかと緊張と不安の極みで反応を待つ食満に対して。 伊作は、安堵を与えるように、にこりと笑みを返した。 絶対に他言しないことを約束し 自分はこれからも変わらず食満の友であることを誓った。 だが、応援するよとは言わなかった。 食満がそれを欲していなかったから。 応援する必要があるとも思わなかった。 だって、伊作の目から見れば文次郎もまた、食満と同じに見えていたから。 人と人の繋がり、相手に抱く感情というものは複雑なものだ。 傍から見ていれば明らかにそうでも、当人にとっては微妙な差異があったりする。 そしてその微妙な違いが、決定的な溝であることもある。 だがそれでも、文次郎と食満の想いの一部は、重なり合っていた。 誰が見てもとは言わない。 食満の想いを知り、食満と多くの時間を過ごしている伊作だからこそ分かる。 食満の知らぬ、食満には見えぬ位置から送られる文次郎の視線には、確かに食満と同じ感情が込められていた。 ならばきっと、二人がしっかりと向き合うことが出来たのならば、第三者の介入など必要なしに、事は解決する筈だった。 それなのに何故、今の食満はこんなにも苦しんでいるのか。 ++++++++++ 食満からの答えは、暫く返ってこなかった。 返せないのかもしれない。内容によっては、ひどく酷な問いだから。 それでも、知らなければ話は進まない。食満をそこから救えない。 辛抱強く、伊作は食満の答えを待った。 「…何も、言われてない」 じっと待ち、漸く食満が口を開く。 その声の震えには気付かない振りをして、伊作は聞き返した。 「何もって…」 「…何もだよ。俺が言って、あいつは何にも答えずにどっか行っちまった。それからずっと、顔も合わせてない。姿さえ見てない…避けられてんだろうな」 そう言って、顔を覆っていた食満の両手がゆっくりとずり落ちた。 膝についた肘から先、力を失った指先が、だらりと地に垂れる。 そっと、伊作は食満の方へと顔を向ける。 食満の頬は、濡れてはいなかった。 けれど、色を失ったその瞳はとても空虚で、焦点の定まらない瞳が、ただ前方に広がる闇の中へと向いていた。 そうして、ぽつりぽつりと、食満は話し出す。 「返事なんか、期待はしてなかった。元々勢いで言っちまったようなもんだったから」 「ぶん殴られるかと思ってた。気持ち悪いって。何馬鹿なこと言ってんだ、正気かお前、なんて顔顰めて文句言われて、それで終わりだと思ってた。跳ね除けられるならそれで。冗談で済まされるならそれで。あいつの反応に合わせようと思ってた」 「でもまさか…無視されるとは、思ってなかった。言っちまった後はあっけに取られて追えなかった。後からあいつを探したけど何処にも居なかった。それで、探してた」 「みっともねぇって分かってる。探して、見つけて。それで何したいのかもよく分かんねぇ。無視はねぇだろって、むかつく気持ちもあったが。言ったこと、取り消す気はねぇから謝るのも何か違う気がする。とにかく、反応が欲しかった」 「でも、何処にも居ねぇ。廊下でもすれ違わねえ。教室にもいねえ。会計室にもいねえ。ここまで完璧に避けられるとは思わなかった。で、やっと分かった。顔も見たくねえって思われるほど。俺の言ったことは、あいつにとってそんだけ気分の悪いもんだったってことだ」 話す内に、少しずつ食満の声は普段の調子を取り戻していく。 言葉を繰り出す速度も少しずつ上がって、声を聞くだけならば、普段の会話の調子と変わらない。 けれど、 食満が伊作の方へと向き直る。 久しぶりに合わせた気のする目線。 「…俺、俺が思ってた以上に、あいつに嫌われてたみたいだ」 そう言って、食満は笑った。 ++++++++++ ここまで。 早く続きを書きたいのですが…睡魔が…('A`) これじゃぁ文次郎さんが酷い人のような… (ごめんなさい、文次郎さん) もう一、二ページで終わりなのですが、それを書けば挽回できるでしょうか? (文次郎さん視点もやってしまおうか…悩み中です) また明日、再チャレンジです!! 相変わらず表現がくどくて、読みにくかったらすいません…。 皆様が求められているのは、もっとスカーッとして萌えーッ。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。となれるようなイチャラブ文食満だとは分かっているのですが… くっつく前のもちゃもちゃしたのが、管理人の好き設定でして… 自重できなくてすいません。 …でも、これだけ色々書いてて未だにキスシーンの一つもないって、同人サイトとして異常かなぁλ.... 2012/05/16 00:55 |
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