沖田 土曜の昼下がり、食堂で同期たちと談笑しているとコンビニから戻ってきた同期が私の後ろから声をかけてくる。 「ねぇ、明日ここ行こうよ!」 ピラ、と見せてくれたチラシはコンビニに置かれてたらしい。なんでも駐屯所から近い公園でハロウィンのお祭りがあるそうだ。 「へぇ〜!いいね、面白そう!」 先にチラシを見た同期の声を聞きながら、机に置かれたチラシを前のめりになり見る。チラシには『ワンコインでスイーツやお酒も楽しめます。年齢問わず仮装をしたらお菓子をプレゼント!』など書かれている。 「あ、でもなまえは沖田さんとデートか…」 「いや?何も話していないから、多分一緒に出かけたりとかしないはず…」 うん、この土日は何処かに行こうとか話してないし、きっと沖田さんに先約があったんだと思う。同期たちに向かって独り言のように呟く。 「じゃあ、行ってもいいか聞いてみたら?」 「あーそうだね。聞いてみよっか」 「うん、行っておいで」 沖田さんのことだから、きっと「行っておいで」って言うだろうな〜…なんて思いながらポケットに手を伸ばすと、聞き慣れた声が頭の上から聞こえてきて思わず「うわっ」と声が出た。バッと上を見上げると、すぐ上に沖田さんの顔があってもう一度「うわ!?」と驚く。 「驚きすぎじゃない?傷つくなー、俺」 「すみません、でもいつから後ろに?」 「うーん、なまえがチラシをまじまじと見てるところくらいから?」 にこ、と効果音がつきそうな感じで笑いながら答えてくれる。うん、今日も顔がいい。好きだなあ。沖田さんの顔を見ながら同期が急に沖田さんの話を振ってきたのは後ろに沖田さんが見えたからか、と1人で納得する。 「まぁ、俺が許可するようなことでもないし、行ってきなよ」 頭にぽん、と手を置いて軽く撫でられた後に、「なまえをよろしく〜」なんて同期に言いながら去っていく。同期の前で、しかも食堂でやられるなんて思ってなくて顔が熱くなるのが分かる。 「ご馳走さま」「はー羨ましい」「彼氏欲しいー!!」 同期の冷やかしを消すように、明日何時から行くか決めよ!と少し大きめに声を出した。 お昼過ぎにイベント会場に向かうと日曜日ということもあって人混みが多い。昨日「ここに行こう!」と決めたカフェに入り、通された道側の席で、同期たちはビールやワインを飲みながらソーセージなどをシェアしている。道を歩いてる人たちの仮装を眺めるのも結構楽しめるものだな〜、とお酒を飲めない私はかぼちゃプリンを食べながら道行く人を見る。 (やっぱりこのスカート、短いよなぁ…) プリンも食べ終わり、次の出店を見つける前に1人でトイレに向かった。手を洗うついでに鏡の前で身だしなみを少し整える。うん、沖田さんとデートする為に買ったけど…やっぱり沖田さんの前ではこのスカート履けないなあ…。 同期とショッピングモールに行って一目惚れした赤のデニムスカートを今日初めて履いた。試着したときは結構いいじゃん、なんて思って買ったけど営内に帰って思い返すと、やっぱり丈が思った以上に短くて中々履く機会が無かった。 伸びるわけでもないのにスカートの裾を軽くひっぱって、待ち合わせ場所に向かう。 「カフェで待ってる」と言ってた同期たちに合流しようとするも見当たらず、キョロキョロしてると少し離れたところに知らない男の人たちと会話してる同期が見えた。あんな知り合い居たっけ、なんて考えながら近づく。 「あ、なまえおかえり〜」 「遅くなってごめんね、…この人たちは?」 「さっき知り合ったんだ〜!一緒に回らないかって!」 「えっ?」 「いいじゃん。なまえは沖田さんいるけど、うちら彼氏いないし」 こそこそと男の人たちにバレないように、同期の1人に話しかける。 「えー、私沖田さんとか知り合いに見られたくないなあ」 「気づかれないでしょ〜、沖田さんだって昨日のあの感じ、多分今日来ないよ?」 うーん…沖田さんはきっと来ないだろうけど、チャラチャラしてる人苦手なんだよね…。なんて悩んでると男の人が1人話しかけてきた。 「急に俺ら来たから困るよね、ごめんね」 「あ、すみません…大丈夫です」 聞こえちゃったかな、気まずいな…。 悪い人たちじゃなさそうだし、同期たちはノリノリだし一緒にまわるくらい、別にいいか。 お酒を飲みつつ、出店で食べ歩きをしていると空がオレンジ色になりつつある。 「この後どうする?もし良かったらこのメンバーで居酒屋行かない?」 男性グループの1人が声をかける。同期が「いいよ〜」と許可をだす。顔を見る限り相当酔ってるらしい。まあ、ビールにワインに日本酒とかいろいろ飲んでたしなあ…。 私はお酒が苦手だからシラフのままだし、居酒屋ならお酒飲まないと気まずいし、沖田さんに会いたいからこのまま私だけ離脱しよう。 「あー、私、お酒飲めないから先に帰っとくよ」 「えー?お酒飲めなくても別にいいじゃん」 「そうだよ、飲まなくていいし!」 右隣にいた男性が私の左腰に手を添える。ゾワっとしながら離すことも出来なくて苦笑いしか出てこない。沖田さん以外に触れられるのがこれほど嫌だと思ったのは初めてだ。初対面の時に失礼な態度を取ってしまったし、手を離して欲しいけど雰囲気を壊したくないなぁ…。人数的に私が居なかったら丁度良く4:4になるし、少しだけ参加して帰ろう。 居酒屋に向かいながら歩いてると、腰に手を回してる男性から 「俺、なまえちゃんみたいな子タイプなんだよね」 と私と会話できるくらいの声量で話しかけてくる。あーだからかー。ありがたいけど、私には顔も性格もイケメンの沖田宏さんという素敵な男性がいるんですー。 なんて言いたいところだけど、とりあえず「ありがとうございます、そんな貴方も素敵ですよ」なんて笑いながら返す。 「なまえ?」 聞き慣れた声が私の後ろから聞こえる。ふと後ろを振り向くとポリ袋を手首に引っ掛けてる私服姿の沖田さんが立っていて、思わず息を飲む。その私の言動に不審に思った男性が同じように振り向く。 無表情だった沖田さんが数秒男性を見た後に私に視線を向ける。 「なまえ、今から何処に向かうんだ?」 「あ、今から居酒屋に…」 「?なまえは酒飲めないだろ、こっちにおいで」 いつもみたいに笑ってくれてる沖田さんが逆に怖い。 「知り合い?」 横から話しかけられるので「彼氏です」と正直に伝え、腰に添えられた手を外して沖田さんの方へ向かう。 沖田さんへ近づいたときに「いい子だ」とボソっと呟かれる。 「お楽しみのところ悪いんだけど、なまえは俺とご飯食べに行くから」 私の両肩に両手を置きながら、同期たちに話す。 「なまえ、行こうか」 同期たちの返事を待たずに、沖田さんが体の向きを真後ろに向けて私の手を掴み進んでいく。どうしていいか分からずとりあえず同期たちに「また明日!」と大きい声で伝えて沖田さんの後についていった。 |