宮田 long番外みたいなものです 4月から市立病院で内科の研修医として勤務して、そろそろ2ヶ月が経つ。 指導してくれる内科の田中先生は患者から信頼が厚く、平日でも先生と世間話をしたいが為に来る患者も少なくない。もちろんスタッフの前では人が違うようなこともなく、時間があれば看護師と話してることも多いようだ。 どこでもいいと、なんとなく決めた研修先だがなかなか心身ともに充実した日々を送っている。 …村のことを忘れるくらいもう少し充実出来たらいいが。 「ああ、じゃあこの症例が詳しく載ってる本持ってた気がするから貸すよ」 午後の診療が始まって少し経った頃、見分けるのが難しい病気の患者が来た。 俺は症状を診ても分からなかったが、田中先生はすぐに分かったようだった。 患者が帰ったあと落ち着いた時に質問をすると、アレは口で説明されるより見た方がわかりやすいからねぇ、と午後の診療が終わった後に本を渡してくれることを約束してくれた。 「本持って来るから診療室で待っててくれる?」ということだったので診療室で今日のカルテを見たり、雑務をしていたが全て終わって手持ち無沙汰になってしまった。 イスに座りながら外を見ると、空が暗くなってきており、街灯の光が目立ってきている。 明日は当直なので今日は早目に帰りゆっくりしたい。 ふぅ、と息を吐き、目を瞑る。 あの人の足音は大きいからすぐに分かるだろう。 「……す」 何かの音が聞こえた気がして目を開ける。 どうやら寝てしまっていたらしい。 部屋を見渡しても寝る前と変わらず、外が暗くなったぐらいだった。 田中先生は忘れているのだろうか? それより何か音が聞こえた気がしたが…外か? 何となく、足音を立てずに診療室のドアまで行き、立ち止まる。 人の気配はするので、多分田中先生が来たのだろう。 そう思いつつドアを開けようとすると、勝手にドアが開き、俺の手は何も掴まない、はずだった。 ドアの前にいたのは看護師だった。 そしてよりによって俺の手は彼女の胸を掴んでる。 お互い無表情で顔を見合わせる。沈黙が続く。 「すまない。」 悪気は無かったことを伝えるしかないが、こいつはどうしてくるんだろう。騒ぐか? 「いえいえ、好きなだけどうぞ。」 お互い再度顔を見合わせる。言った本人が俺よりもびっくりした顔をしている。 再び沈黙が流れ、ぱっと目を逸らしたと思ったら手に持っていた本とカルテを渡し、「お疲れ様でした!」と大きな声を出しながらドアを閉めていった。 あの人看護師の誰だったか… とりあえずは触れたことに対して気にしていなさそうだったので良かった。 ため息をつきながらイスに座る。 ああ、そうだ、 みょうじ、 みょうじなまえさんだ。 きちんと喋ったのはさっきが初めてなのに、表情がころころ変わって随分面白い人だと思った。 …明日は会うのは難しいだろうか。 次会ったときには話しかけてみようか。 ふっ、と笑ってしまう自分に少し驚きつつ、借りた本を読み始める。 (しかし、あの人以外と胸柔らかかったな) |