恋ってやつは | ナノ

うまく育てると愛に進化するらしい


「なまえ」
しゃがんで下を向いているなまえに声をかけると、コンビニの時よりも大きく肩を揺らした。
「なまえ」もう一度名前を呼ぶが、頑なにこちらを見ようとしない。俺もしゃがんでなまえの両肩を掴むと、思っている以上に小さい肩だった。俺らと同じ訓練をそつなくこなしているが、やっぱり女なんだなと頭の隅で考える。
「なまえ、こっち向いて」
出来るだけ優しく声をかけると、観念したようにゆっくりと顔を上げた。





顔を赤くして泣きそうな目で顔を歪めながら俺と一瞬目を合わせる。が、すぐに地面を見るように目をそらされる。
「…いつから居たの」
「なまえがコンビニ入ってくる前から」
「全部聞いてたの?」
俺が最初から居たことに驚いたのか、パッと俺と目が合う。自分からなまえの肩に手を置いたがきちんと目を合わせると顔が近い。さりげなく肩から手を外して今度は俺から目をそらす。
「あー、うん。聞こえた、というか聞いてたというか…」
正直に伝えていいのか分からずチラチラとなまえの顔を見ながら伝えると、俺の発言で泣きそうな顔がもっと歪んで、顔を足に埋めた。髪の毛が短いせいで剥き出しの耳が赤くなっているのが見える。なまえのことを好きだと自覚する前も今も、なまえから好かれている自覚は全くなかったが、コンビニでの話といい、今のなまえの態度といい、自惚れてもいいんだろうか。もう一度なまえの肩を掴みながら覚悟を決める。
「あのさ、」
緊張が声に出る。それに気づいたのかなまえも心配そうに顔を上げて俺と目を合わせる。
「さっきも聞いたんだけど……俺の事好きって、本当?」
なまえの瞳の奥に緊張した顔の俺が映る。






「気持ち悪いよね、ごめんね」
質問の後に随分と長い沈黙が流れた。まあ多分俺が緊張してるだけで本当はそんなに時間が立ってないんだろうけど。俺の質問にすぐに答えず黙りこくったと思ったら謝罪される。どういう意味の謝罪なんだろう。
「何が?」
「いや、だって…『好きな人居ない』って散々言ってたのに実はずっと好きでしたって怖いでしょ」
「いや、怖くも気持ち悪くもないし。っていうかそれなら早く言って欲しかった」
「はぁ?永井私のことなんとも、…なんとも思ってないでしょ」
「そんなことねぇし!なまえのこと…」
俺を見ていた目が伏せがちになり、泣きそうな顔で悲痛な声で言うものだから大きな声で否定してしまう。そして思わず告白しそうになり慌てて口を塞ぐ。だが、俺の言葉が気になったようで「私のことが、…何?」と少し怒りがちに聞いてきた。「どうせ友達として好きなんでしょ?」と独り言のように呟くなまえを見て、こちらもムッとする。俺がこの1週間どんだけ悩んだか知らないくせに。左肩に置いていた右手で顎を引き寄せて顔を近づけキスをする。顔を離すとポカン、としたなまえと目が合う。そのままもう一度、今度は少しだけ長くキスをする。最初は抵抗せずにされるがままだったが、俺の胸に手を当てて離れようとしてきた。素直に離れると、顔を真っ赤にしたなまえが驚いた顔をして口を手で隠す。
「これで友情じゃないって分かるだろ」
「それに両思いだし」
これが一番分かりやすいだろ。と伝えると、両手で顔を隠しながら「…だからってキスは突拍子すぎ」とくぐもった声が聞こえてくる。俺も自分がした言動を思い出し、我にかえる。何してんだ、俺…。はっず。恥ずかしすぎる。俺も顔を隠したいくらいだがここで隠したら何か負けた気がするのでなまえの顔を隠してる片手を掴んで顔を合わせる。
「…永井の顔、真っ赤だよ」
「なまえもな。それより、さっきの質問の返事は?」
きっと俺も同じくらい顔が赤いのだろう。しかし冷静を装って返事を催促する。もうなまえの気持ちは分かってるのに。なまえの気持ちに気付いてることに気付いてるなまえがジト目で下から睨む。
「私もキスされただけで永井の気持ち聞いてない」
つん、となまえが喋る。グッと黙る俺を横目で見ながら「ほら、言えないんでしょ?」なんて畳み掛けるから、出来るだけ真剣な顔をして口を開く。
「なまえ、好き。だから俺と付き合って」
ほら、言ったぞ。となまえも見ると、顔が赤いままため息をつかれる。何でため息つかれてるんだ、俺。と疑問に思っていると、ずっと肩を掴んでいた俺の腕を掴み、目をそらしながら恥ずかしそうに「……私も、好き。です」と小さい声で聞こえてきた。その恥ずかしそうに言うところ、それでも俺の服を掴んでるところ、こちらを見て目を合わせながら嬉しそうに微笑みながら俺を見てくれる姿が愛おしくなり抱きしめる。
「ちょっ!?永井?」
「めちゃくちゃ嬉しい…」
なまえの気持ちを確信していても、やっぱり話してもらうまでは不安だったらしい。好きだと言われることがこんなに嬉しいことだとは。焦って離れようと暴れるなまえの肩に顔を埋めながら呟くと、なまえの動きが止まり、躊躇いがちにぎこちなく背中に手を回される。







「先週の土日何してた?」
本当は日曜日に他隊の上官と飲みに行ってるのは知ってるが、それ以外は簡単にしか聞いていない。なまえの口からきちんと聞きたかった。
「あー…、永井の誕プレ。あれ商店街のお店の人に取り寄せお願いしてたんだけどダメになったらしくて、探しに回ってた」
「他の候補もあったんだけど、あの服が一番似合うなと思って」
と思い出すように話してくれる。「あれ、すげぇ好みのTシャツだった」と伝えると嬉しそうに「本当?やった、嬉しい」と笑う声が近くで聞こえる。その声に俺も嬉しくなり腕に力が入る。



「なぁ、なんで俺のこと名前で呼ばなくなったんだ?」
なまえにずっと質問したいことだった。昔は俺のことを頼人と呼んでくれていたのに気がついたら永井になっていた。なまえを抱きしめながら聞くと、「えぇ?」と困ったような声を出す。
「永井のこと好きになったから」
「俺のこと好きになった?から名字呼び??」
普通逆じゃね?と突っ込みたいが続きがありそうなので黙る。
「永井との噂、結構根強かったし、永井が私のこと対象外で見てるのも気付いてたし。」
「下の名前で呼んでたら気持ちがばれそうで怖かったから」
「同じ隊なのに好きなことがバレて、永井も何とも思ってなかったら今後がお互いしんどいじゃん」
だから自分の感情をセーブするために、となまえが教えてくれる。
「いつくらいからだっけ?」
「んーと…後期教育が終わってすぐくらいかなぁ」
ということは約2年近くは片思いをしてくれていたということか。全く今まで気づかなかった俺を殴りたい。でもなまえも上手く隠していたなと、サラサラの髪の毛を手で梳かしながら思う。
「じゃあ、今からはまた名前で呼んでくれるよな?」
「えっ、うーん。検討します」
「何でだよ」









「そろそろ戻らないと」
なまえが声をかけてくる。そういえばなまえのカゴも、俺のカゴもそのままコンビニに置いたままだった。名残惜しいがなまえを離す。離したなまえを見ると目が合い笑いかけられる。思わず顔を近づけると、たじろぎながらも目を瞑るなまえが可愛くてキスをする。触れるだけのキスをして2人で立ち上がり、いつもよりか近い距離で並びながらコンビニに向かう。
「なぁ来週末、どっか行こうぜ」
俺がいつもと同じように誘うと、「それってデートってことですか?」と茶化したように言われたので「日曜に着てたスカート履いてきてよ」と応戦する。
「じゃあ頼人も私があげた服、着てきてよ」
不意に名前で呼ばれて思わず、「え」なんて言いながらなまえの顔を見る。ちょっと照れながらも笑いかけられる。なんか負けた気がするけど、…いいか。俺もつられてフ、と笑う。


















「まぁ、その前に3日の補給訓練頑張ろうぜ」
「そうだね〜。永井も沖田さんの迷惑かけないようにしなよー?」
「あ、折角だし貰った服着ていこうかな」
「何それ、験担ぎ?」
「そうなったらいいなー。」
「じゃあ、私も頼人から貰った何か持っていこうかな〜」
「お互い験担ぎにしようぜ。………てか俺、なまえに何かあげたことあるっけ?」
「…………無いね」
「……じゃあ、週末なんか買いに行くか」
「えー?早速お揃いですかぁ???」
「何も欲しいの別に無いんだったらいいけど」
「いや、行きます。お揃い欲しいです」




ーーーーー
後期教育=入隊して最初は教育訓練があり、前期後期に分かれている。