恋ってやつは | ナノ

追いかけると逃げて行くらしい


*オリキャラ(モブ)さんが出てきます。







昨日の宴会は知らないなまえの酔った姿を聞いて驚いたが、沖田さんと三沢さんに正直妬いた部分が大きかった。
なまえが外から帰ってきた後に詳しく聞いたら、俺と飯食いに行っても飲まなかったのは休肝日でも何でもなく、ただ俺に酔った姿を見せたくなかっただけらしい。上司の前で酔っ払って迷惑をかけるより、同期の俺に迷惑をかけた方がいいはずだ。あまりなまえと飲みに行かない沖田さんが知っているのに、俺だけ知らないとはどういうことだ。沖田さんが「俺と三沢さんが居ない前では飲まないように厳重注意してた」ってフォローしてたけど、俺は信用ならないのか。いや、まあ、もしかしたら、可能性はあったかもしれないけど。
そんなことより!「三沢さんはすごい!尊敬している」とか言ってたけど本当は三沢さんのことが好きなんじゃないかとすら思う。いや、多分そうなんじゃないだろうか。考えてみれば俺以外で2人きりで飯食いに行ってるのは三沢さんぐらいなはず。三沢さん営外者だから飲みに行く頻度少ないけど。
そういえばなまえが誕生日を迎えて飲み会に誘われるようになった時に『三沢三佐と付き合ってる』という噂が流れていたな…。その時期はまだ俺も『 みょうじと付き合ってんの?』と聞かれてたりしてたから俺も気にしていなかったしなまえ自身、「付き合ってる人がいたら2人きりで飲みになんて行かない」ときっぱり言っていた。俺のことも三沢さんのことも何とも思っていないのかと思ったけど本当はその時から三佐のことが好きだったのかもしれない。立場的に結構上の人だし。
…いくら年上でも…。年の差18歳くらいだぞ…。せめて沖田さんだったら…。何で三沢三佐なんだ。
三沢さんと喋ってる時のなまえを思い出すと嬉しそうに笑ってる顔ばかりだ。
昨日の三沢さんも「手を出すほど困ってない」なんて言ってたけど女性と交流が少ない職場なんだから悪い気はしていないんだろう。気を許している感じだったし。「お互いの恋人のために恋人ができたらすぐに報告すること」と口約束していたけど、俺が三沢三佐のことあまりよく思ってないのに気付いていたから今まで言ってこなかったんだろうか。



食堂でテレビを見ながらモヤモヤ考える。遊ぶ約束をしてなくてもたまになまえが食堂に来るが今日は来ていない。この1週間ずっとなまえのこと考えてんな…。そして今までの休日は外出せずともずっとなまえと居たことに気付く。自覚がなかっただけか?いや、認めたら今までの関係が崩れるから気づかないふりをしていたのかもしれない。ようやく好きだと自覚したのに告白もせずになまえの好きな奴に気付くって辛過ぎだろ…。あの貰ったTシャツもすげえ俺好みだけど多分着れないだろうな。見るのすら今は無理かもしれない。
ふと時計を見ると15時過ぎを指している。俺今日何もしてなくないか?なまえとの予定がないとはいえ、あまりにも無駄な休日を過ごしている気がする。靴磨こう。うん。無心になれるし。靴磨かないと怒られるし。
(現実逃避してんな、俺)と自分の行動に失笑しながら席を立った。






靴磨きに必要な女性用ストッキングを買い忘れていて営内にあるコンビニに入る。部屋に戻ったらタイミングよく始まったジューじゃんで負けて、同部屋の仲間にジュースを奢ることになってしまった。
(まぁ、なまえのことを考えずにすむからいいけど)
店内に入るとどうやら客は俺だけらしい。必要なものをカゴに入れてゆっくり店内を物色しているとチャイムが聞こえ、自動ドアを何気なく見る。
「じゃぁ、とうとう永井くんになまえの酒癖の悪さバレたんだ〜?」
「酒癖は悪くない。人肌が恋しくなるだけ」
「うわあ、その発言めっちゃビッチじゃん」
「やめてってば」
なまえとwac2人が一緒に店内に入るのが見えて、無意識に棚に隠れてしまった。しかもどうやら昨日の宴会のことを話しているらしい。wacと何かある時は女子寮に篭るので共同の場でwacと喋っているのを見るのは珍しい。タメ口ということは多分同期の女子だろう。
「永井くんはどんな反応してたの?」
「んー、驚いてた。ってか怒ってた」
「え、何で?」
「なまえのこと好きなんじゃない?」
急に確信を突いてきて心臓が飛び上がる。嘘だろ、三沢さんにもバレてたしやっぱり俺分かりやすいのか…?なまえがなんて返すのかが気になって3人にバレない距離で近づく。
「いやー、それは無い無い。除け者になってたからだと思う」
なまえが横に手を振りながら答える。いや、除け者扱いを感じたのはそうだけど。なんで俺だけ知らないんだって思ったけど。そんななまえの発言に2人とも「あー…ぽいぽい」と納得したように飲み物を取り、なまえの持ってるカゴに入れていく。「あー」ってなんだ。『ぽい』ってなんだ。俺はwacからどういう風に見られてるんだ。
「永井くんもいい加減なまえのこと好きになってくれたらいいのにねー」
「なまえも永井君のこと好きならもうちょっと押しなって。片思い何年してんのよ」
「ちょっと2人とも声が「はぁ?」大き、いって…」
思わず声が漏れる。







「あっ、永井くんお疲れ…」「うわぁ、やば。いつから聞いてたの?」
3人がゆっくり俺の方を見る。2人が焦ったように何か言ってるけどあんまり耳に入ってこない。なまえが俺に片思いしてた?俺のこと好きってこと?はあ?顔が熱い。多分赤くなってんだろうな。隠れていた棚から出てきてなまえに近づく。身長の低いなまえを見下げるようになまえの目を見る。
「なまえ…俺のこと好、きだったの…?」
なまえは目を大きくさせて口まで空いてる。驚いてはいるんだろうけど、初めて見る表情で感情が読めない。横にいるwacは空気になりつつあるし、無言の時間が辛い。会話を聞く限り俺のこと好、き…なのかと思ったけど本当は違うのか?やっぱり三沢さんのことが…?段々不安になってきて「なまえ」と焦るように名前を呼ぶ。するとふと我に帰ったのか、肩を少し揺らしバッと顔を俺から逸らす。持っていたカゴを俺に渡してきたと思ったら振り返り別の通路に向かって走りだす。
「え?あっ、ちょっと!!おいって!!!」
カゴを下において追いかけるように俺も走る。後ろから「青春〜」だとか「2人とも頑張れー!」だとか聞こえてきた。面白がりやがって。






正直俺は運動神経がいい方だと思う。体力検査でも1級だったし。しかし俺の隊に唯一wacで所属してるなまえもやっぱり運動神経がいいんだと思う。足の速さはもしかしたらなまえが早いのかもしれない。5分くらい経った気がするが未だになまえが見つけれない。くっそ…、すぐに追いかけたつもりなのに。何処だと周りをキョロキョロしながら探す。
うろうろしているとあまり人の出入りが少ない建物の近くに来た。少し離れた窓が反射して影に隠れているなまえの姿が映る。なまえが居るところは俺が来た道から見えづらい所だ。いつもならあんな所なんて隠れないだろうに、相当焦っているらしい。(これが訓練だったらなまえ、怒られるだろうな)なんて思いつつ息を潜めながら近づく。










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*営内には購買の他にコンビニもあるところがあるらしいです。
*靴磨きでワックスを磨くのには女性用ストッキングがいいらしいです。
ジューじゃん:負けた人がジュースをおごるじゃんけん