勝手に大きくなるのを止められないらしい なまえが好きなことを確信して沖田さんにそのまま伝えたが、 「うん、知ってた」 「っていうよりそれ俺に報告するんじゃなくて本人に伝えた方がいいんじゃねえの」 と笑いながら子供をあやすように背中を叩かれ、先程自分が言った言葉に恥ずかしくなって「うわあああ」と情けない声を出してベットにうつ伏せになる。 「ははっ、 みょうじを振り向けるように頑張れよ」 おやすみ、とベットから離れる沖田さんにうつ伏せのまま「おやすみなさい」と小さい声で伝えた。 「かんぱーい!!」 「おつかれー」「お疲れ様でーす!」 好きだと自覚したのは良いが、特に今までと変わらずに平日を過ごした。 距離を縮めていきたい反面、どう接していけば良いか悩むばかりで結局何も出来ずにこの宴会を迎えビールジョッキを3人に当てて飲む。 「〜っ!いやあ、やっぱりビールは最高ですねぇ」 「おっさんくさいなぁ、 みょうじは」 くぅ〜、とビールを置きながら俺の横に座るなまえが幸せそうに呟く。その発言に俺の真正面にいる沖田さんがツッコむ。 「 みょうじ、今日ほどほどにしとけよ」 「えっ?飲む気満々です」 「ダメだ、お前酒飲んだら面倒くさいし」 「この間はすみません!でもセーブするんで!三沢さんには迷惑かけませんから!!」 午後の課業前に、三沢さんがなまえに話しかけてるのを思い出す。 宴会の時はお互い上司にお酌して周っていたのがほとんどなので、なまえが座ってお酒を飲んでいるところを見たことがない。2人でご飯を食べに行ってもお互い休肝日ということでソフトドリンクしか飲まないようにしている。 何回か「今日三沢さんと飲みなんだー」と楽しみそうに言っているのを聞いたことがあるから、タイマンで飲みに行ける仲なのは知っている。「三沢さんと何喋ってんの?」と一度聞いたことがあるが、「えっ」と少し悩んだ後に「…私がずっと喋ってたまに一言もらうくらいだね…」と言ってた。俺ならタイマンは無理だ。 しかし、数日前までは三沢さんには酔っている姿を見せていても特に何も思っていなかっただろうが、今ではその三沢さんに対抗心が出てきてしまう。面倒くさいとはどういう意味で面倒くさいのか。お酒が強い方じゃないと宴会時に断っていた気がする(まぁ、有無言わず飲まされていたが)。三沢さんに謝っているのなら相当ベロベロに酔っていたのだろう。 なんて考えたり、沖田さんと喋ったりしながら宴会が進んでいく。 店員から受け取った豚の角煮の半分を沖田さんと分け、残りの半分を三沢さんとなまえへ渡す。チラリと横のなまえを見ると、「みはわはん、これすんごいおいひいですよ」なんて早速角煮を食べながら口を右手で隠し、空いてる左手で三沢さんの取り皿に角煮を勝手に入れていく。三沢さんはなまえの行動を注意するわけでもなく何も言わずに沖田さんのところにある枝豆をつまんでいる。気にしていなさそうなのを見る限り、多分2人で飲みに行っている時もこんな感じなんだろう。2人が仲がいいことが目に見えて嫌な気持ちにもなるが、三沢さんのなまえへの態度が自分も含めて他の隊員に比べて優しいことに少し驚く。やっぱ三沢さんも男なんだな、と変に感心してしまった。すると、俺の視線に気づいたのか、なまえがこちらを見る。 何杯目飲んだのだろう。頬が赤くなっており、目元もいつもよりかトロンとして柔らかい印象がある。「どうしたの、永井」と言いながら首を傾げ少し微笑む姿が可愛らしい。話し方もいつもよりか語尾が伸びていて、いつもと違うなまえに心臓が跳ねる。手を伸ばしたらなまえに触れられる距離に心拍が上がる。俺が手を伸ばしたらなまえはどう思うだろう。そう思いながら手を伸ばす。 なんてこともなく少し頬が赤くなっただけのなまえが「どうしたの、永井」とビール片手にいつものように声を掛けられる。特に今のところ酔っ払ってるわけでもなさそうだ。俺は何考えてたんだろう…残念な気持ちもあるが安心してる自分がいる。 「いや、昼に注意されてたから、酒弱いのかと思ってたけどそうでもないんだな」 と自分の考えていたことを隠すように話を振る。まぁ、酒の弱さは気になってたし。「永井、 みょうじと飲んだことないの?」と沖田さんが聞いてくるのに頷く。 「そんなに強くないよ〜。ベロベロに酔わないと顔に出ないからじゃない?」 なまえがへら〜と笑いながら教えてくれる。「へぇー」とサワーを飲もうと口をつける。弱いのかと思っていたけどそうでもないらしい。 「 みょうじって酔っ払ったらキスとかはしないんだけど、抱きついたりボディタッチが多くなるんだよ」 沖田さんの発言で思わず飲んでた桃サワーを吹き出す。それを見たなまえが「うわあ!?」と騒ぐ。ゴホゴホと咳き込んでるとなまえがハンカチを渡してくれた。 「おい永井、大丈夫か」 「沖田さん!それ言わない約束だったじゃないですか!!」 どうやら俺が吹いたことより、沖田さんの発言が問題らしい。沖田さんに抗議している。俺もなまえに抗議したい。ボディタッチが多いとかそんな話聞いたことないぞ。というか何でそれを沖田さんは知っているんだ。咳き込むのが落ち着いた後に沖田さんに表情で聞く。そんな沖田さんは面白そうにニヤニヤ笑いながら「事実ですよねぇ?三沢さん」と聞いている。三沢さんを見ると頷いた後に「多少の理性は持ってやってるからな。意外と みょうじってあざといよな」と言いながらなまえを見た。そのまま俺もなまえを見る。 「めちゃくちゃ酔ってる時にしかしないですもん…」 「永井には知られたくなかった…」 と恥ずかしそうに手で顔を覆いながら喋る。俺の知らないなまえを知れたのはいいが、逆に不安になってくる。やっぱり酒弱いじゃねーか。俺の視線に気づいたなまえが「永井だってお酒大して強くないでしょ」とジト目でこちらを睨む。そういう問題ではない。 「この間、三沢さんに何してたんだよ」 迷惑かけたって、トイレに篭ってるんだと思っていたが俺が考えていたのと全然違っていた。思わず眉間に皺が寄ってしまう。 「えっと…」困ったように俺を見ていた目がキョロキョロと動く。 「この間はカウンターだったから…体重かけたり、したかなあ」 恥ずかしそうにボソボソと喋る。 「それと抱きついてきたのと首元辺りを触ってきたな」 三沢さんが正解を言う。なまえは「穴があったら入りたい」なんて言いながらテーブルに顔を伏せる。 「まだ三沢さん、首元触られるんですか」 「毎度な。こいつ俺のこと殺そうと思ってんじゃねえかなってたまに思う」 毎回首元を触るってどういうことだよ…羨ましい。 「あーもう。外の風当たってきます」と顔を手でパタパタしながらなまえが外へ向かう。 そんななまえを見ながら「まぁ、トイレに篭ってた頃よりかはマシになったけどなー」と沖田さんが笑う。 「安心しろ永井。 みょうじに手出すほど困ってない」 三沢さんが急に言ってくるもんだから思わず「え?」と怪訝な顔をしてしまった。「だってお前、 みょうじのこと好きだろ」とお酒を片手に聞いてくる。思わず沖田さんの顔を見てしまうが(俺は何も言ってない)というように手を振っている。 「永井顔に出やすいからな、あと みょうじの方見過ぎ」 「さっきの話のとき、顔が酷かったぞ」 と淡々と説明されて俺も顔を隠す。 「…いつから気付いてたんすか」 「確信したのは月曜くらいだな」 顔を隠したまま聞くと自分が自覚した日にもうバレていたらしい。勘が鋭すぎる。いや、俺が分かりやすいのか? 「 みょうじは気づいてないだろうから、頑張れよ永井」 「そうだな、根性出せよ永井」 顔に出ていたのか2人からフォローされる。複雑な気持ちになりながらも「…うす」と返す。 |