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李典


*現パロ
*長編をしようと考えて諦めたシリーズ







「別れよう」
電話の向こうで怠そうに喋ってる彼氏。
やっぱり別れ話かあ。全然会ってなかったし…電話も1ヶ月半ぶりかな?
連絡も最近は全然してくれなくなってたしね。日曜日は可愛い子と嬉しそうに歩いてるの見たし。ねぇ、「しつこい女は嫌われますよ〜」って笑いながら言う可愛らしい女の子の声は日曜日の子?




「なまえの愚痴を聞くほど暇じゃ無いんだけど」
彼氏(もう元彼だけど)と来ようと思っていた居酒屋の個室部屋で生気なく一人でやけ酒してると襖を開けながら李典が少し不機嫌そうに入ってくる。ついでに案内してくれた店員さんにいくつか注文をして襖を閉める。

「聞いてよ李典〜〜〜〜」と泣きつく私を鬱陶しそうに剥がしながら対面に座る。
「毎回毎回、フラれるたびに俺に電話してくるなって」って面倒臭そうにするけど絶対慰めに会いにきてくれる李典。
「私がこんなに悲しい思いをしてるのに相変わらず李典は冷たい」
と上から目線で言う私。
李典は大学時代からの数少ない友人である。学食が混んでる時に「隣、良かったらどーぞ」という李典の言葉から始まり卒業して数年経った今でも連絡する仲だ。まあ、好きな人が出来た時と恋人ができた時、そして別れた時ぐらいしか連絡しないけど。





「んで?何で別れたの」
李典は1杯目のビールで、私は何杯目か分からない焼酎のロックで乾杯する。
「うーん…多分、というか新しい彼女が出来たみたい」
ネギまを箸でつつきながら喋る。最近連絡が少なかったこと、日曜に可愛い女の子と歩いてるのを見たこと、その日は仕事だと言われてたこと、電話口の向こうから可愛らしい声が聞こえたこと。
「へぇ〜」
と心底興味なさそうに相槌を打たれる。なんだ、自分から聞いてきたくせに…とジト目で李典を睨む。や、嫌がってる李典を無理矢理呼び出したのは私だけど。
「付き合ってすぐの時に写真を見て俺、なまえに嫌な予感がするからきちんと見定めろって言ったぜ」
私の目も見ずに私がつついていたネギまを食べる。
李典はよく勘が冴える。いいことも悪いことも大体当たるから大学生時代はよくお世話になったものだ。ゲーセンにあるクジとか、宝くじとか。あれ、私浅ましいな。
李典の注意した話を聞いてなかったことにしながら焼酎に手を伸ばすとスマホが鳴った。SNSからだ。誰からだろ…と操作して固まる。
正直二股されたのは初めてじゃ無い。「あんたって二股されやすい顔してるよね」って言われたこともある。でもここまでバカにされたのは初めてだと思う。フラれた事を知ってるはずなのに何故ここまで私に執着するのか。
【彼、私とやる方が何倍も気持ちいいんだって】
【マグロのなまえさんも上手くなったら捨てられなくなるんじゃない?】
色のついたハートの絵文字と一緒に送られてきた画像で酔いが覚める。飲み過ぎじゃない別の意味で吐きそうになってきた。



「なんか来たのか?」
私の表情に気づいた李典が話しかけてくる。
「何もないよ、思い出しただけ」と言いながらお酒を頼む為に呼び鈴を押す。熱燗でも飲んでやる。
「いーや、俺の勘が隠し事してるっていってるぜ〜。どうせここまでグチグチ言ってんだからさぁ、隠すなよ」
何もない。と言えば聞いてくれるだろうと、優しく声をかけてくれるのを待っている自分がいる。そして李典の優しさに漬け込んでしまう自分自身に嫌悪する自分が居るのにも気付く。あーホント嫌な奴だな、私。それでも同情してほしくて無言でスマホを渡した。



送られてきた文章と画像を見たんだろう、李典の眉間にシワが寄る。元の顔がいいと顰めっ面でも様になるなぁ。
「はい、ご注文をどうぞ〜」
自分からスマホを渡したくせにこの空気が気まずい。うーん、やっぱり見せるんじゃなかったなぁ。
なんて中途半端な後悔をしながら店員さんに注文する。
襖を閉められると李典は黙ったままスマホを返してくれた。

李典とは仲がいい方だと思う。2人きりで遊びに行ったことも、お互いの家に泊まったことも何度もある。下世話な下ネタだって話す。ただ、何でか分からないけどこの画像付きで送られてきたメッセージは口に出したくなかった。
「女の子すごく可愛いし私よりスタイル良いからしょうがないよね、誰だってそっちに傾くよ。」
「マグロとかうけるよね。まあ実際そのままなんだけどね」
「いやーでもまさか事後とはいえ写真送られるのはしんどいな〜」
「送られたのが私だからいいけど、ネットに流出させるような人ならどうすんだろね」
酔った勢いでもやっぱり見せなければ良かった。悔やみながらこの重たい空気に耐えれなくて沈黙にならないようにベラベラと口が動く。
「いや〜私もAVとか見て勉強すべきかn「なまえ」、っはい!」
何を考えてるか分からないけど、真面目な声で私を呼んで、真剣な表情で私を見るから思わず背筋を伸ばす。


「お前、今好きな人も付き合ってる人もいないんだろ」
「え?う、うん。昨日フラれてるしね……現実見るのつら…」
「じゃあ、俺と付き合おうぜ」
「ああ、うん。オッケー。そのくらい、いい…よ?」
24時間以内にフラれたという現実が耐えきれず俯きながら考え事してるとあまりに突拍子な発言が聞こえた。



「…」
「……」
「………は?マジで言ってんの?」
「俺はいつでも大マジだけど?」
「………」


左手に持ってた焼酎を落としそうになってハッとする。危ない危ない。
コップを置き直してまだ1杯目のはずのジョッキをいつもみたいに飲む李典を凝視してしまう。ん、んー?私が酔っ払いすぎて幻聴が聞こえたのかな?
「セックスも上手くなって、新しい彼氏見つけて、そんでイチャイチャして幸せそうなのをそいつらに見せつけたらいいだろ」
「手解きしてやるって」
「AV見て学ぶより実践した方がいーだろ」
「さっき付き合うことに同意したもん、な?なまえちゃん」
「とりあえず、早速今日なまえん家泊まるから」
「そうと決まればさっき頼んだの食べたら帰ろーぜ」
「あ、家帰る前にコンビニに寄りてぇ」
机に肘を置いて私の顔を見ながらニヤリ顔で言う。
「失礼しまーす。熱燗とー、厚揚げとー…あ、ありがとーございまーす」
店員さんが熱燗を机に置く前に李典が受け取って、そのままお猪口を私に渡せて注いでくれる。
えぇ、意味分かんない。理解不能。何で?一体どうしてこうなった?
言いたいことが多すぎて何から言っていいのか分からず、結局諦めてなみなみに注がれた日本酒を一気に流し込んだ。