運命というものが、あるらしい。あるいは、意味ある偶然だろうか。

 我が主君が若様の寝物語で、そんな神話を読み聞かせていた。曰く、この世界のあらゆる生命はノーノレンの女神が運命の糸車と運行表を駆使して、生命の誕生から、出会い、試練、終焉を描くのだとか。

 無機物である吾人にノーノレンが記した運命表があるかは知らぬが、本当であるのならば文句の一つ二つ……いや、相手がうんざりするほど、文句をつけたい。

 吾人はソチョシーに攫われて巣にほっぽられること、幾年。こやつ等はどうにも、湿っぽい所を好む習性があるようで、巨大な樹木のうろに雑多なもの__鎧の破片やら、硝子質のつるりと光る小石とかと一緒くたに放り込まれている。

 このまま月日の流れるまま、朽ちるまで吾人はこの巣にいるのか、と失意と退屈で死にかけていた時だ。朽ち葉を踏みしめる音。動物では無さそうな、会話らしき声。来た____!!!

 徐々に近付く音に、吾人はどうしようもない、胸の高鳴りと未来への希望を確(しか)と感じていた。これで、退屈すぎる巣の置物生活から開放されるのだから。注文はつけない。希望としては、吾人が護符だと気付いてくれるような知識人か魔術師や神官であると尚よろしい。

 誰かが言った。_____期待? 裏切ってなんぼだよね? と。

 そう、吾人は来訪者に喜ぶばかりで、見落としていた事実があった。人族に限らず、獣人・森人(エルフ)・土人(ドワーフ)・水人(セイレーン)であろうと、一定の智慧ある生き物の言葉は神々によって統一されているということを。つまりは、吾人の理解できない言語、即ち魔獣語である、と。







 そして、覗き込んだ、影は____緑小鬼(ゴブリン)である。







 ノーノレンの女神よ……禿げろ! 此処は、冒険者が来るところだろう!? なんで緑小鬼(ゴブリン)がソチョシーの巣を漁っておるのだ!?

 いや、それよりも考えねばならぬのは、吾人の行く末である。このまま緑小鬼(ゴブリン)にお持ち帰りされるのか!? しかし、ソチョシーの巣に訪れる人族がいない事を考えれば、相当に人里から離れているか、よほど見つけにくいところに、この巣はあるのであろう。

 そもそも、吾人は動けぬ身。ただ、流れに任せるのみ。

 吾人のその後? 緑小鬼(ゴブリン)に持ち帰られたぞ……。早く、コイツを倒して吾人を拾ってくれないだろうか……………………はぁ。




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150813 なろう掲載
160508 転載


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